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「とりあえず、正気があるうちに蓮華さんとこに行け。リヒトさんに知らせた方がいいからな」
後はオレがやっとくと、ミヤビは言う。
「……お前だって、発作があるだろうが」
「しばらくは問題ナシ。ってか、アンタは美咲ちゃんの治療できないだろう?」
「出来ないが、それはお前だって」
「オレにはできるんだよ。エメから教わったし、さっき薬ももらった。アンタも知ってるだろう?」
ミヤビが……エメさんと知り合い?
疑問に思うオレをよそに、ミヤビはオレを立たせると、外へ追いやっていく。
「ほら、これを割ればあっちに繋がるってさ」
小瓶を渡され、背中を強く押される。
発症したことを考えれば、早くあちらにいるリヒトさんを頼るのは当然のこと。ミヤビの言うことは最もだが――。
「お前、美咲さんに何もしないだろうな?」
発症からくる欲情がなくても、男として普通に、この状態の彼女を見て理性を失わないかと心配になった。
「絶対……手出しするなよ?」
「しつっこい! さっさと行く!!」
「っん、の!?」
豪快に背中を蹴られ、部屋から落とされた。
急いで戻れば、窓はもう閉められており、ざっと勢いよく、カーテンを閉められた。
「あいつ~……。本当に、大丈夫なんだろうな?」
後ろ髪を引かれる思いだが、まずはやるべきことをしなければならない。再び発症する前に、蓮華さんの元へ向かった。
◇◆◇◆◇
――声がする。
徐々にはっきりと聞こえるそれに、重たい目蓋を開いた。
「お、目が覚めた」
オレのことわかる~? と、満面の笑みで少年が聞く。
茶色の髪に――緑の、瞳?
雰囲気は、エメさんに似ている。しかし、顔に見覚えはない。
「――――わかりません」
ゆっくり、言葉を口にする。
まだ体に力が入らず、思考も普段より落ちていて、今の状況が理解できない。
「ははっ、やっぱり。オレは雅。呼び方は好きにしていいよ」
「なら――雅にします」
「お、呼び捨てだ」
「? 嫌なら、さん付けにしますが」
「いーや。そっちの方がオレ好み。――で。今の状況わかる?」
言われて、周りをよく見る。
ベッドに寝ているのはわかるけど、それ以外は――。
「――叶夜と、契約を」
「――へぇ~。契約したんだ。(気にくわねぇ……)」
「? 今、なんて」
「気にしない気にしない。
とりあえず説明すると、契約の後にキョーヤが発症しちゃってさ」
発症……そうだ、叶夜はっ!?
「叶夜はっ!?――っう」
起き上がるも、頭がふらつき、再びベッドに体が倒れる。
「急に動かないの。大丈夫。キョーヤは今、リヒトさんに見てもらってるから」
「よかっ、た……。でも、どうしてあんなふうに」
「あれ、知らなかった? 完全発症すると、男は女を。女は男を。手当り次襲うんだ。んでもって、そーいう時は血の欲求だけでなく、性的欲求も高まるわけ」
「なら、自分は――」
「あ、そこは大丈夫。あいつ、最後までしてないから」
稀なケースなんだけどねぇ~と、雅は意外そうにもらす。
「ま、それも襲われたのが美咲ちゃんだからだろうけどね」
首を傾げると、雅は首を指差す。触れてみれば、自分の首に包帯が巻かれていた。
そっか。血、吸っていたんだ。
「伝わってよかった」
「やっぱ、稀なのは美咲ちゃんが原因か。命令したの?」
「はい。その時、契約のせいか意識が遠退いて――止められてよかったです」
「ははっ。襲われたらシャレになんないもんね?」
「襲われる、というより、叶夜が元に戻ったのがよかったなと」
それよりも、あんなふうに苦しむ姿を見たくなかった。
襲われる恐怖よりも、みんなが苦しんでいる方が、自分にはよっぽど怖い。
「ふ~ん。自分よりも他人、か」
ベッドに頬杖を付きながら、雅は笑みを浮かべる。
「――そーいうの、嫌いじゃない」
声の質が、艶やかになる。
今までの明るい雰囲気から、大人びたものを感じ始めた。
もしや発作(性的な)かと思い、雅に警戒の視線を向ける。
「あ、オレが欲情してるって思ってる? だったら契約しようよ。そーしたら、なにかあっても止められるだろう?」
どうする? と、雅は首を傾げた。
確かに、そうしておけば安全だろう。でも、複数も契約してもいいものなのだろうか?




