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◇◆◇◆◇


 次に目を開けた時には、そこはもう違う場所だった。

 目の前にあるのは、大きな一軒家。よくテレビなんかで見る日本家屋の平屋で、敷地内には池もあり、厳格な雰囲気がうかがえた。


「オレの家だ」


「どうして……出口がここに?」


「他の場所に出ると面倒だからな。直接ここに繋げた」


「そんなこと、できるんですね」


「これをやると疲れるがな。――と、言う訳で」


 再び、顔を近付ける叶夜君。何をされるかわかった私は、咄嗟に、自分の顔を手でおおった。


「だから、口にはしない」


「そ、そういう問題じゃ……!」


 というか、本当にまたしようと!?そう思ったら、今度は顔だけが一気に、熱が上がっていくのを感じた。


「じゅ、充電とか言って、そんなの、軽々しくしないで下さいよ……」


「命華だったら、これぐらいいいだろう?」


 その言葉を聞いて、私は覆っていた手を外した。不思議そうにする私を見て、叶夜君も同じ様な顔をする。


「知らないのか?」


 頷いて答えれば、しばらく、黙ったままの叶夜君。どうしたんだろうと様子をうかがっていれば、月神君は縁側に行き、そっと私を下してくれた。


「あ、ありがとう、ございます……」


「気にするな。それよりも――命華がなんなのか、知りたいだろう?」


 その言葉に、私はまた黙って頷いた。


 真剣な表情を浮かべる月神君は、隣に座るなり、話を始めてくれた。


「命華は、俺たちにとって大事な存在。――『命を繋ぐ』存在だ」


「命を、繋ぐ?」


「俺たちにとって、花が生きる為の糧になる。人間がする食事が花だ」


「それと私と……どんな関係が?」


「糧になる花を作れるのが、その命華だ。それ以外にも命華は、医者みたいな存在であり、さっきみたいに触れることで、力が回復する場合もある。――文字通り、『命の華』ってところだな」


「だ、だから、あんなことを?」


「本当はもっと深い方がいいらしいが、それはさすがに嫌だろう? 俺としてもそういう行為を無理強いしたくはない」


 一応、気遣ってくれてたんだ。確かに、あれ以上のことなんてとんでもない。あれよりも凄いことをされるぐらいなら……多少不満はあるけど、まだ額にされる方がいいと思えた。

 命華がどういうものなのか少しはわかったけど、それが自分だと言われても、いまいち納得できない。……とりあえずは。


「叶夜君たちにとって、必要な存在……ってことですよね?」


 頷く叶夜君。それを見て、なんだか不思議な気持ちになった。必要とされるのが嬉しいような、残念なような。自分でも理解できない気持ちが、私の中に渦巻いていた。


「すぐに、全部を理解しなくていい。ただ……これからは、一人にならない方がいいだろうな」


 途端、嫌な予感がした。

 それって……また、あの影みたいなのに襲われるってこと?不安に駆られ、私は徐々に、表情を硬くしていった。




「――大丈夫」




 そう言って、叶夜君は私の右手に、自分の手を重ねた。一瞬驚いたものの、徐々に伝わってくる温もりが心地よくて……それが少しずつ、不安な気持ちが和らげてくれた。

 何か言うわけじゃないけど、こうやって静かな時間は、とても安心する。

 落ち着いてきた私は、今更ながら、叶夜君の正体が気になってきた。


「叶夜くんって……普通じゃない、ですよね?」


 人間とか。花が糧になると。今までの話を聞いていたら、さすがに“人じゃない”ということが想像できてしまう。


「今更だな。言ってもいいが――逃げるなよ?」


 逃げるなって、なんでそんなこと。


「べ、別に、無理して言わなくてもいいですよ?」


「どうせいつかバレる。――俺はな」


 ゆっくりと、丁寧に言葉を発する叶夜君。その先を聞きたいような、聞きたくないような……なんとも言えない感覚が、体を包んでいく。

 徐々に距離を詰められ、なにを言うのかと、緊張で胸がドキドキし始めていれば、


「人間が恐れる――吸血鬼だ」


 と、小さく、そんな言葉が聞こえた。

 それって……人の生き血を吸う、あの?

 ただの冗談かと思った。でも、その目は嘘を言ってるようには見えなくて。


「本当……ですか?」


 今の言葉を確認するように、思わず聞き返していた。


「人間は俺たちをそう呼んでる。だから俺も……な?」


 叶夜君の指先が、すっと首筋に触れる。途端体は強張り、そんな私を見た叶夜君は、どこか楽しげな雰囲気を放っていた。


「逃げるなって言っただろう? ま、本気で逃げても無理だが」


 じりじりと迫る叶夜君。自然と体を後退さ続ければ、


「もう――後が無いな」


 ついに、壁際へと追い詰められてしまった。

 叶夜君の両手が、私の両手を押さえつける。

 無言のまま見つめられ、怖くなった私は、思わず顔を背けた。


「――っ!?」


 首筋に、やわらかな感触が走る。それが唇だと分かった途端、体がビクッと、大きく震えた。血を吸われる。そう思ったら、余計に震えが増してしまう。


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