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◇◆◇◆◇


「契約の確認をしよう」


 叶夜は以前、日向美咲と契約を交わしていた。美咲の危機や居場所を素早く察知できるよう、護る為に行ったものらしい。


「なんらかの影響を受けているともわからない。これから家の前に出るから、オレの真名――ノヴァと心で思い、呼び寄せてくれ」


 そして、真名である名を呼べば、命令をすることができるようだ。

 頷くと、叶夜は外へ出て行った。

 しばらくすると目を閉じ、静かに心で思う。




〝ノヴァ――ここに来て〟




 本当に、届いているのだろうか――?

 自分にもなにかわかる反応があればいいのだけど、今のところ、それらしいものは感じない。




「――消えてるようだ」




 戻って来た叶夜が、ため息をもらしながら言った。


「何も感じなかっただろう?」


「はい。これをすると、自分にどんな変化が?」


「左手に温かみと、刻印が浮かびあがる」


 温かくもなければ、文字が浮かびあがってもいない。

 契約とやらは、跡形も無く消えてしまっているらしい。


「なら、再度契約が必要ですね」


 やり方を聞けば、自分は返事をする以外、なにもしなくていいようだ。床に座ったまま、これから叶夜が行うことに従った。




「一つ目の誓い、二つ目の誓い、そして、三つ目の誓いを、日向美咲に――我が真名を彼の者にさらす」




 左手を握り、見つめながらに発せられる言葉。

 その眼差しは真剣そのもので、厳格な雰囲気が漂っている。




「我が真名はノヴァ。今この時より、我は彼の者に三つ全ての誓いを行う。――許しを、いただけますか?」




「――――はい」




 小さく、肯定の言葉を口にする。


「では、誓いの刻印を」


 すると叶夜は、指を口に当て、血を滲ませる。その指を自分の手の甲当て、なにか文字のようなものを書いていく。そして書き終えるなり、そっと、唇を落とした。

 次第に、手の甲に書かれていた血文字が淡く光る。しばらく見ていれば、静かに、光と共に文字も消えてしまった。


「これで、契約はかん、りょ――?」


 左手が突然引かれ、叶夜が自分を抱きしめる。なぜこんなことをするのかと思えば、体から、徐々に力が抜けていく感覚がした。

 思考ははっきりしているのに……体だけ、重くなっていく。

 今、叶夜がこうしてくれるのが、とても楽に感じる。


「契約すると――体が、重くなるんですね」


 支えてもらえて助かると言えば、一瞬、ぴくりと叶夜の腕が反応を示した。


「――何故、黙っているんですか?」


 叶夜はなにも言わない。

 答えの代りなのか、隙間なくしっかりと、体を密着させていく。




 ?――鼓動が、おかしい。




 叶夜の心音に、乱れがある。規則正しい音だったのが、不規則で、一音一音がとても大きい。もしかして――。

 両手で、叶夜に触れる。

 途端、頭の中にイメージが流れてきた。叶夜はまだ、本格的な発症を経験していない。今まで薬を使っていたせいで、余計に負荷がかかりつつあるんだ。


「……っ、あ、、、ぐっ」


 苦悶の声が、徐々に大きくなる。

 どうすればいい?

 どうすれば救える?

 自分には、その知識が無い。薬以外の抑制方法は――?

 心で思えば、イメージが手に取るように流れてくる。そこでは、叶夜が自分の血を吸っている場面が見えた。


「――きょ、うやっ!」


 背中を叩き呼びかける。何度か繰り返していれば、微かに、名を呼ばれた気がした。


「血を……はやっ、く」


 吸ってほしいと、なんとか言葉を口にする。


「どこでもっ。いい、から――…」


 こうしている間にも、体だけでなく、思考力まで落ちでいく。

 あぁ……もう、頭も眩んできた。

 自分で体を支えきれず、完全に、叶夜へ寄りかかる状態になった。


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