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 蓮華という人から話を聞くたび、経験の無い感覚が体に走った。

 これまで冷静に聞けた話も、彼女のことになると、頭に血が上って考えるよりも先に体が動いてしまう。




 確かこれを――恋、と言ったか。




 昔、エメさんが言っていた。その状態になると、何もかもどうでもよくなり、相手のことで、頭も心もいっぱいになるのだと。

 その時は、意味などわからなかった。

 自分というものも不確かなのに、他人に関心を抱くなど、無駄なことにしか思えなかった。




 ――だが、今ならわかる。




 胸が締め付けられる感覚。

 早く会いたいと……この手で、触れたくてたまらない気持ち。

 どんなことをしても、彼女を助けたい。そんな思いで、心は埋め尽くされていた。




「――着いたぞ」




 蓮華さんの導きで、彼女の家付近に道が繋がった。


「この人数で行くのは迷惑だ。ひとまず私が――?」


 蓮華さんの視線が、ある一点に集中する。同じようにその場所に視線を向ければ、雅がすぐさま動きをみせた。


「オレ、ここで抜けるから」


 それだけ告げると、あいつは素早く、この場から姿を消した。


「なら、私もここで」


 続いて、青年もそんなことを言った。


「美咲が気にかからぬのか?」


「貴女に任せれば、問題は無いだろうと。それに、真に仕える主はあの方ですが、この世では別の方と契約しているので」


 そちらも気になるからと言い、一礼すると、青年は立ち去ってしまった。


「まぁよかろう。まずは私一人で家に入るが――付いて来るか?」


「当たり前です」


「わかっているとは思うが」


「余計なことはしません。貴方が一人家に入っている間は、外で見張っておきます」


「有難いな。――余計な者たちを、近付けさせないでくれ」


 頷くと、蓮華さんは素早く屋根を駆けた。

 続いてオレも、屋根を駆けた。いつもより軽やかな足。早く彼女の様子を知りたくて、高まる心同様、駆ける速度も上がっていった。


 ◇◆◇◆◇


 エメさんに連れられたのは、ある一軒家。そこは自分の家らしく、訪ねると、中からおじいさんが出て来た。


「夜分にすみません。あちらから、お子さんを連れて来ました」


 理解したのか、おじいさんは自分たちを招き入れてくれた。


「美咲ちゃんは、ゆっくり休んだ方がいいわ。まだ、違和感は続くだろうから」


 頷くと、おじいさんが二階の部屋に案内してくれた。

 お礼を言うと、おじいさんは微笑みながら、一階へ下りて行った。




 ここが――自分の部屋。




 十八年。日向美咲として生きた場所。

 生活感はあるものの、やっぱり実感がわかない。

 鏡に映るのは、茶色い髪に、茶色の瞳の人物。この姿が自分だということにも違和感がある。早く慣れなければと思えば、ため息がもれてきた。

 とりあえず――着替えでもしよう。

 クローゼットの中から、楽な服を選ぶ。あとは寝るだけなので、寝るのに適した半袖と短パンに着替えた。

 ――コンッ、コンッ。

 ノックの後に、エメさんの声がした。ドアを開ければ、私は戻るから、と言われた。


「ここにいれば大丈夫。すぐにあの子たちも来るし」


「? あの子たちって」


「ノヴァと――あっ。ここでは叶夜と雅って名前だったわ。その二人と、リヒトさんっていうお医者さんが来ると思うわ。あとは――蓮華っていう女の人ぐらいかしら? 彼等は信用出来るから、安心して」


「わかりました。――色々と、ありがとうございます」


「いいのよ。――それじゃあ、元気でね」


 笑顔で別れを告げるエメさんに、自分は軽く手を振って見送った。


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