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「美咲ちゃんは命華の子どもだし、赤の命華。力なんて、あって当然だよ」


 淡々と語る雅に、蓮華は興味ある視線を向ける。


「己のことは知らぬのに、命華については詳しいのだな」


「当たり前。その命華を再現させる為に、こっちの種族は狩られたんだ。ある程度の知識はあるよ」


「まぁ、お前だけが知っていても意味が無い。――二度は言わぬから、しっかり聞け」


 より一層引きしまった口調で、蓮華は語り始めた。


「伝承の命華は、先程連れ帰ったシエロだ。しかし、あの伝承にはその前が存在する。シエロ――つまりは伝承の命華よりも前に、【別の赤の命華】が存在した。私が知る話では、その者が初めて、お前たち王華や雑華の異常を治した人物だ。彼女は身体の異常だけでなく、土地の不浄さえも癒したらしい」


「――それ、美咲さんと関係があるんですか?」


 静かに、叶夜は質問を口にする。


「美咲さんを助ける為の話をしないなら、ここにいる理由は無い」


 立ち上がり、今にも出て行きそうな叶夜に、蓮華はため息をもらした。


「そう急ぐな。もう少し付き合え。そのような性格は、女に好かれぬぞ?」


「…………」


「蓮華さん、茶化さないで進めた方が」


「なんだ、この程度の言葉も我慢ならぬか」


「蓮華さん」


「わかっておる。――あの黒球が、どんなものか知っておるか?」


 みなの視線が、蓮華に集中する。しんと静まり返った部屋に、




「あれは――原点だ」




 静かに、そんな言葉が告げられた。


「原点……ですか?」


「そうだ。あれは、己という存在がこの世に最初に存在した理由。それを蘇らせるものだ」


「それを思い出したところで、彼の利益になるようなことがあると?」


「その者の原点ならば問題無い。だが、あいつが創り出したモノは歪んでいる。あれは、他者に別の原点を、さも自分の原点かのように植え付けるものだ」


 悔しそうに語る蓮華。

 しかし、説明をされてもまだ理解が出来ないのか、それがどれだけの危険をはらんでいるのか、上条でもわからないようだった。


「蓮華さん、もう少し詳しく――」


「……伝承の、女」


 言葉を発したのは叶夜。

 事の重大さを把握したのか、徐々に表情が曇っていく。


「あいつは……その女が欲しいんだ。でも、生まれ変わりを探すのは難しい。だから命華の血縁を探して、殺して、血を凝縮しっ、て――」


 頭を抱え、言葉を詰まらせる叶夜。それに代わり、蓮華が話の核心を告げる。


「つまりあいつは、美咲をその命華に仕立て上げるつもりだ」


 *****


 黒い球体に、変化が現れる。原因は、外で行われている作業。床に施された布陣を消していき、球体から滴る淀んだ水を浄化すると、球体は、その形状を保てなくなっていた。


「次で引きずり出す!」


 叫ぶと、執事は飛び上がり、持っていた剣を力いっぱい、球体へ振り下ろし叫ぶ。


「katarrefsi !!(崩壊)」


 途端、球体がぐにゃりと変形する。

 剣が着き立てられた場所には穴が開き、執事はすぐさま、中へ飛び込んだ。

 視界の利かない空間。次第に足が取られ、粘着質な液体がまとわりついてくる。


「っ、――――?」


 一瞬、何かに触れた。同じ場所を探し、更に奥へ腕を進めていると、


「――――っ?!」


 確実に、人の体に触れた。

 一気に引きよせると、執事は思いきり、外に向かって叫んだ。


「早く消せ! 消せぇー!!」


 微かだが、その叫びは外に届いていた。

 すぐさま、ディオスが布陣を完全に消す。




 ギぃヤぁぁーーーア!!




 断末魔の叫び。その声が消えると、球体は跡形も無く弾け飛んだ。

 急いで美咲の元へ駆け寄ると、執事が体にまとわりつく液を拭っていた。


「――っ!? おい、これはいくらなんでも」


 見えたのは、輝くような白銀の髪。そして――。


「?――――あな、たは」


 誰? と問う美咲の瞳は、赤と青の瞳をしていた。

 息をのむ執事。それに共感するディオスも、ここまでの事態は想像していなかったようだ。


「これほど進行が早いとは……。戻すことは?」


「戻せるには戻せるが……」


「っ! 姫に、影響が出るのか?」


「いや、姫に問題は無い。ただ――」


 問題なのは自分の方だと、重いため息をはいた。


「この体が、力に耐えられないだけだ」


「では、私の力も使えば」


「やめておけ。もう他のことに使う余力など無いだろう? オレのことは気にするな。またしばらく、眠るだけなのだから。――早くエメに知らせろ」


 すると、執事は神経を集中し始めた。徐々に、体に文字が浮かび上がっていく。青白い光が身を包むと、美咲の片手を取り、その手を自分の胸に触れさせた。


「? あなた――れっ」


「考えるな」


 不要な記憶だと、言葉を遮る。

 視線を絡ませ、ただ真っすぐ、まるで焼きつけるように、執事は美咲を見つめ続けた。


「――後のことは、うまくやります」


「あぁ。自分の願いも、うまくやれ」


 その言葉を聞き、執事の体は静かに消えていった。



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