6.急転直下
亜空間・マーゾン空間に浮かぶ、マーゾックの戦う船。ネガティブ=ナヒトは、ナグールの基地であり家であった。
「ヅツーキ。12魔将の回復具合はどうだ?」
「へい旦那。鳥魔将ユウを除いて、7割と言ったところでしょうか。ユウは翼を除いて5割です」
「であるか」
想像以上にダメージが酷かった。あの爆発は、光の使徒が使う力に匹敵する物理威力だったということだ。
「ナグール!」
ケルーナが長い髪をたなびかせながら、駆け込んできた。急ぎの用件らしい。
「ブッコワースが本部ルッセーナ様の使者として戻ってきました」
「むう? 兄上の? ブッコワースは先の戦いで大怪我を負っているだろう? 本部機動城塞(プロノク=レイマー)で治療に入ったはずだが? ……それほどの重要案件か!?」
「緊急案件でございます、ナグール閣下!」
包帯を巻き、杖を突いているブッコワースが扉に体を預けて立っていた。体調は全然ダメ。相当きつい様だ。
「ブッコワース――」
近寄ろうとするナグールを手で押し止めた。
「今より6時間前。プロノク=レイマーが攻撃を受けました」
「なんだと!」
亜空間マーゾン空間に浮かぶ巨大な城塞であり要塞であるプロノク=レイマーを襲う馬鹿がいると?
「攻撃の回数は3回。攻撃してきたのは第1世界、第2世界、そして、第3世界。それぞれ、1回ずつ。まるで違うエネルギーによる攻撃です」
「なんだと! それで陛下と兄上は!? プロノク=レイマーの被害は?」
「ぼ、防御機能が働き、プロノク=レイマーの被害は軽微。ネガ・クライマー陛下、およびルッセーナ王子殿下に怪我などは無し」
一気に喋りきるブッコワースであるが、傷に響いたのか息が荒い。
「げ、現在、プロノク=レイマーは係留地を移動。攻撃の第二波は無し……」
無事だったのは良かったが、これまで不可侵の存在であったプロノク=レイマーが、攻撃されたという点がいけない。無敵伝説が崩壊する。ネガ・クライマー陛下の統治に関わる。
……ちょっとまて?
ナグールは大事なことを見落としていた。
「第3世界からの攻撃だと? ワルダクム総司令は如何した?」
ナグールは第3世界の光の国を滅ぼした。そして、尊敬するワルダクム総司令に後を任せ、サタノダークの跡を継ぎ、ここ、第4世界の侵略の任を受け賜ったのだ。
ワルダクム総司令が間抜けなことをするわけがない。
「ワルダクム様は、第3世界の住人の手により、戦死を遂げられました。ワルダクム軍、全滅にございます!」
「なんだと!」
ナグールに衝撃が走る。ナグールだけではない。ケルーナやヅツーキもショックのため口がきけなくなっている。
「これで、かの連中が世界を渡る術を手に入れたら、我らの危機ではないか!」
「ナグール閣下に、ルッセーナ閣下より命令にございます!」
カッ! と踵の音を立て、ナグールは姿勢を正した。
「直ちに空間移動揚陸艦ネガティブ=ナヒトを第4世界に上陸させよ。もって、ナグール軍の全戦力により、第4世界の光の園とマジカルキューティを滅ぼせ。その後、反抗する第1から第3までの世界を滅ぼす任に当たれ。以上で……」
力尽きたのか、がくりと膝を付くブッコワース。
「承ったぞ!」
手を差し出そうと近寄るナグールであるが……、ブッコワースは片手を上げてそれを止めた。顔の色が青い。
様子がおかしい! 怪我が悪化したのではない!
「ち、近づいては……こ、これは、第4世界の……ふっ」
ブッコワースの胸が風船のように膨れあがった。怪我をした部分を中心にして!
「力が……」
ボン!
それはまるで風船が爆ぜたよう。
後に残ったのは服だった生地の欠片だけ。
ブッコワースがいたという形跡が消失した。
「旦那! ブッコワースから最後に飛んでもない量のダークエネルギーを感じやした!」
ヅツーキが情けない声を張り上げた。
「我らの力の源であるダークエネルギー。摂取すればパワーアップ、傷の再生に繋がる」
ナグールは、ブッコワースだった布きれを摘みあげた。
「しかし、受け入れられる範囲を遙かに超えたエネルギーを摂取すれば……」
「風船のように弾ける」
後を継いだのはケールナだ。
「あの怪我はブラックキューティに付けられたものですぜ! あの時何か仕込みやがったんだ!」
あの時、お姉ちゃんの爪が剥がれ出血していた。と言うことは、ブッコワースの体内に、お姉ちゃんの血液が侵入したと言うこと。それ即ち――。
「デタラメな量のダークエネルギーを持つ戦士、ブラックキューティ。……恐るべし!」
ナグールが茫然自失となっていたのは、ほんの僅かな時間だけ。
すぐに目力がよみがえる。
「決戦の時が来た! 全力をもってマジカルキューティを叩く! 後に光の園を破壊する!」
ナグールより力溢れる言葉が出た。
「待って、ナグール! 12魔将はまだ完全ではないわ!」
「そうですぜ旦那! ここはあッしにお任せを! 時間を稼いで参りやす!」
「死に急ぐなヅツーキ! ……そうだな、時間稼ぎか。かといって、完全回復までの時間は望めない。だが、せめて2,3日は時間が欲しい……」
ナグールは腕を組んで考える。すぐに、獰猛な笑みがその顔に浮かんだ。
「……こういうのはどうだ? マジカルキューティ共に挑戦状を叩き付ける。日時と場所を選ばせてやろう」
「どうしてそんなことを?」
「調べたのだが、人間界の習慣で、連中はガッコウという学舎に通い知識を詰め込んでいる。そのガッコウとやらが休みになるのが2日後だ。連中、まずその日を指定してくる。これで今日を入れて3日稼げる」
「なるほど! 3日ありゃ8割から9割方回復しやすよ! ではあっしが挑戦状を叩き付けて来やす!」
そして、人間界では――
「うーん、どこかでこないだのマーゾックが破裂した気配がする」
「よく分かりたくないけど、お姉ちゃん、あなた、だんだんと人から外れていくわね」
ブルーは何でも否定から入る良くない子だ。そんなんでは将来外務省に入れなくなるぞ。
「はーい、お姉ちゃんお待たせー!」
下校の時間なんだ。妹が所用で少しばかり遅れた。それを下駄箱前でブルーと一緒に待っているの図である。
そう、JKのオシッコシーンが数分前に展開されていたのだ。一人の女性として、他の女性のおトイレ事情は知っておくべし。これで今夜イケル。
「お待たせお待たせ!」
レッドも妹の後ろからやってきたが、てめえぇのしょっぺぇションベンなんざ知りたくもねぇ!
「揃ったところで帰りましょう。今日はレッドの家で作戦会議よ」
「おいでおいで! 美味しいお菓子買って帰ろや」
「わたし、カールが良い! うす昆布味!」
「いいね、久々に……って、あれなに? 黒山の人だかり?」
校門のすぐ外に人がたかっている。何かあるのかな? ポン菓子売り?
「行ってみましょう!」
ブルーの音頭で覗いていくことにした。
とある高校の前でヅツーキがマジカルキューティ達を待ち伏せていた。
ナグールからの挑戦の口上を上げるためだ。
変装もした。ダークな気配は完全シャットダウンしてある。一般人には分からないだろう。
……ところがどうだ? ガッコウとやらの門から出てくるガキンチョ共が、一様にヅツーキをじろじろ見る。あまつさえ立ち止まって小さい四角い板をこっちに向けてパシャーしてくる。
おかしい。
流石に身長は隠せないが、2メートル10センチくらい、この世界じゃ誤差の範疇だろう?
狼の顔はフードで隠している。マズルが長いからフードからはみ出しているが、こればっかりは仕方ない。第4世界にもこういう生物もいるだろう。見たことないけど。
「誰だと思ったら、危険人物じゃない!」
「なにを! ……っと、ブルーか!?」
あっさり見つかってしまった。とはいえ、こいつはマジカルキューティの頭脳。ヅツーキを一発で見抜いても不思議はない。さすが光の園の関係だ!
「お、なんだこいつ! やるか? あ?」
「お姉ちゃんは下がってなさい。あなた、たしかヅツーキとか言ったわね? えーっと……」
人がより多く集まってきた。
「ちょっとこっち来なさい。人の目の届かないところへ行くわよ。お姉ちゃん、連行なさい」
「オラ、こっち来い! ブルー様のご指名だ!」
「やめ、ちょ! 首絞まる首ッ!」
そして、人気のないところへ移動した。
「何の用? こっちへ亡命?」
「バカヤロウ! ナグール様一番の部下がそんなことするか! 決闘の申し込みだ!」
ほほー、決闘ですと? 一気に決着が付くんで面倒が省けていいぞ。
「面倒が省けて良いわね」
ブルー、それ、今思ったところ!
「日時と場所を指名しろ。総力戦だからな! こっちは12魔将全員とナグール様とオレだ! そっちは? マジカルキューティ4人か? 不公平とか言うなよ!」
「言わないわよ。そうねぇ……」
考えるフリをするブルー。こいつ、頭良いけど戦略戦術は苦手としている。だって、こないだまで普通の女子高生だったからね。素人だからね。
「お姉ちゃん、あんた仕切ってみる?」
「そうだなー……」
ほら来た。こっちはすでに構想を練り上げている。戦闘の玄人だからね。女子高生だけど!
「明後日、休みの土曜日だろ? 学校無いし、ちょうどいい」
「課外授業みたいね」
「じゃ、2日後の土曜日のお昼1時。日本時間で13時だな。場所は、そうだな、派手に暴れて文句のでないところ……」
UMAの労力を減らそうと考える。気遣いの出来るお姉ちゃんなのだ。
「……自衛隊間山演習場でどう?」
「よくそんなところ知ってるわね? ってか、スラっと名前が出るのが怖いわね」
だからブルーは何でも否定からはいる悪い子!
「ちなみに何所にあるの?」
スマホの地図アプリを開いて場所を呼び出す。
ブルーとレッドに、良い匂いがする妹、そして狼まで覗き込んでくる。
「ここ、こここここ」
「鶏か? ふーん、ここね」
「よっし、ここだな!」
狼も場所を認識したようだ。獣頭で覚えていられるか?
「迫撃砲の演習が出来る規模の空き地だ。あと、ほとんどが山林だから、遮蔽物が多くて少数でも戦える」
「それで決まりね。みんなもいい?」
妹とレッドが頷いた。
「時は土曜の13時。場所は間山演習場。よーし、てめえら、臆病風に吹かれてバックレんじゃねぇぞ!」
捨て台詞をほざくなり、狼男は大きくジャンプ。家の屋根を蹴って飛びまくり、あっという間に姿が見えなくなった。
「……なんか、こう……不良の喧嘩の様相になってきた感がヒシヒシとしてきたんやけど……」
レッドが遠い目で狼男の消えたあたりを見ている。
「さて、お姉ちゃん。あなた何か策があってあの場所と時を選んだんでしょ?」
ブルーは、眼鏡をクイッとして光らせた。軍師モードだ。
「なんでそんなこと言わなきゃならない? てめぇの頭なら言葉にしなくても分かるんじゃないのぉー? それとも言わなきゃ分からないのかな?」
「うん、わたしわかんない!」
妹が可愛い顔してキョトーンってしている。可愛い。
「だねー! 説明しようねー! こっちは数が少ないから、ゲリラ戦を仕掛けようと思ってねー。奇襲とか騙し討ちとかね-」
「さすが、ピンクのお姉ちゃん。腹が黒いわ」
おいブルーよぉ! 眼鏡光らせてんじゃねぇよ!




