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到着

目まぐるしく、色彩が変化する。渦、光、音は、周りを含め、叫びすぎて、もうよくわからない。

影が延びたり、縮んだり、視界が歪んだり、黒く一部が欠ける。欠けたところに座ってた奴は、唐突に立ち上がり、そのまま倒れ、動かない。視界が欠けたと思っていたのが、さっき延びていた影だと気付いた。

ずっとこんな事が続くのか?そう思っていると、黒い影が、今度は打出に覆いかぶさるのが見えた。持っていた袋を両手で引きちぎり、そのままの姿勢で仰向けに倒れ、打出はピクリとも動かない。

さながら、阿鼻叫喚の地獄絵図か、俺は正気なのか?横の千鳥橋は、すごい勢いで頭を振り乱している。徹は窓の外を見ながら、泣いていた。

身体に感じる振動が激しくなり、視界が次第に白く染まっていく。ドンと大きな音が鳴り響き、それを境に音が戻って来た。

『到着しました。皆様ご苦労さまです。では、良いお仕事を。』

機械音声のアナウンスが聞こえた。目的地に到着したらしい。頭が、ひどくぼんやりする。ゆっくりセルフチェックを行い、骨折などはどうやらないようだ。しみついたルーチンワークが身体を動かし続ける。異常がないことを確認し、立ち上がった時に周囲の異常さにようやく気付く。

「ゥワアアアアアアアアアアアア!!!」

「アアアアッアアアア、腕がぁ・・・脚がァああああああ!」

セルフチェックを行ったのは皆、同様のようだ。そこで自身の身に起きた事が処理しきれないかったのだろう。叫び声や泣き声が車内に響き渡っている。さっき見た地獄絵図は、どうやら現実に起こったことらしい。打出は、倒れたまま、床と半分同化している。異常な姿は、いまだに夢かと一瞬錯覚するが、隣の千鳥橋を見ると、彼もまた、首から上は座席と奇妙な形で混じり合い、絶命している。次元移動で起きる事故の一つ。強制融合だ。

ぞくりと現実が、襲いかかってきた。再度、自分の体に異常が無いか確認する。教えてもらった事が確かなら、境界が曖昧になる次元間移動の位階超えで起こる事故。曖昧な状況は、無機、有機の境界すらも歪めるらしく、その両者を強制的に融合させてしまう。一番多い事故なので、症例のケース画像は出発前に見せられたが、映像と現実は違いすぎる。

結果、融合は無く、ほっとしたのも束の間、徹の笑顔が脳裏をよぎった。

「徹、無事か?」

慌てて、座席へ向かい声をかけるも、徹もまたさっき見た姿のまま、窓の外を眺めながら泣いていた。嫌な予感がよぎる。

「徹、おい!しっかりしろ!動けるか?オイ!」

肩をゆすり、目を見ながら問いかける。

「彼方?あ、俺?あ、?」

ゆっくりとだが、正気を取り戻しかけてはいるが、いまだ状況が理解出来ていないのだろう。普段見せない酷く困惑した顔だ。

「徹、落ち着いて聞いてくれ。色々、聞きたいこともあると思うが、まずセルフチェックだ。わかるな?異常がないか確認してくれ」

「あ、ああ、わ、わかった・・・」

徹の見た目には、異常はない。立ち上がり、自分の状態を確認し終えた徹は、落ち着きを取り戻したようだ。

「すまん。彼方、俺、だいぶテンパってたみたいだな。大丈夫だ。幸い、異常はない。」

「そうか、無事で何よりだが・・・まず、他にも無事な奴がいるか、確認しよう。それと出来るなら、手当もな・・・」

「ああ、わかった。俺は、こっちを廻るから、彼方はそっちを頼む」

ふた手に別れ、それぞれ、仲間の無事を確認して廻る。

20分後に判った結果は酷いものだった。

後部車両に乗り込んだ50名中、生存者は40名

生存者という意味では80%、だが、実際に今後、活動できるものというと、この数字はまったく信用出来ない。

まず、40名中、12名が車輌と融合してしまっている。軽微なものは、その場で、無理やり引き離したが、重体者に関しては手の施しようがない。そして、7名は精神に異常をきたし、意志の疎通もままならない。悪いが、人員の問題上、座席に拘束さしてもらった。

「思ったより酷いな。」

残った11名で、今後の話し合いの最中、西灘が青ざめた顔で、ぼそりと呟いた。

「とりあえず、前の車輌にいる奴らがどうなったか、確認しに行くべきだと思う。このままが多分、一番不味い。なんなら、俺が行こう。」

皆が、一斉に俺を見た。進んで、あの地獄絵図を、もう一度は見たくはないのだろうが・・・誰かがやるしかないだろう。

「せやな、それについては賛成や。けど、一人は流石に不味いやろ?どうする?」

西灘が、険しい顔付きで、周りを見渡し、同行者を募る。

「確かに、彼方一人は、不味いなぁ・・・俺も行くわ。後、洲先、岩屋。頼めるか?西灘君。引き続き、皆、見てもらってていいか?」

「応。」

「わかった。」

「Okや」

徹がそう言うと、洲先と岩屋が返事をしながら、立ち上がる。内心は、ああは言ったものの、実は一人では、心細かったのだが、流石、徹。お前は着いて来てくれると信じていたよ。更に、洲先と岩屋まで、感謝するぞ。友よ。

「西灘、状況が分かり次第、戻ってくる。大変だろうが頼んだ。」

そんな心中はおくびにも出さず、西灘にそう言うと、徹、洲先、岩屋に目配せし、ドアに向かった。

ドアを開き、連絡口を抜け、先頭車輌に辿り着き、ドアの前に立つ4人。改めて、三人に目配せし、突入する。

「皆、無事か?団長!」

徹が、叫びながら声かけをしたが、反応が無い。静まり返った車内は暗く、人の気配が無い。ごくりと誰かの唾を飲む音が聞こえた。

「静かすぎる・・し、暗いな」

手探りで、ハンドライトを点け、周囲を確認すると、静かな理由が判った。

「酷いな・・・」

「ああ・・」

全員が、言葉少なげに、それぞれ手分けして、状況を改めて確認する。

車輌の大半が、後部とは、また違った融合を見せていた。車輌の中央部分から不気味にねじれながら、後部天井にまで到達する歪な柱が存在している。様々なものを巻き込み、融合したのだろう。床板、内部壁面、座席、照明、そして、乗員。

ライトの灯りを頼りに、生存者を探すが、誰も応えない。不安だけが募る最中、

「おい、皆。」

徹が生存者を見つけたようだ。二人も徹の元へ駆け出す。

「団長と出来島か・・・二人だけか?」

「ああ・・後は駄目だ。」

そう言うと徹は、周りに目をやった。改めて、周囲の確認をすると、座席を中心に歪に捻れあの柱を形成している。大きな柱に気をとられていたが、そこかしこにソレは乱立していた。

「俺らは運が良かったのか?なぁ、こいつらとは乗った場所が違っただけだろ・・・」

呆然とした様子で、岩屋が絞りだすように言った言葉に、俺は、なんとも答えようが無かった。

「まず、二人を後ろに連れて行こう・・・ここで、もし目が覚めたら、つらいだろうしさ。な?」

徹が、提案した言葉に、皆、無言で頷くしかなかった。

「団長は俺が担ごう。岩屋は出来島を頼む。」

せめて出来ることをしよう。俺は、自分を奮い立たせるように、そう言い、団長を背に担ぐ。ずっしりと重くのしかかってきた団長は、確かに生きていてくれた。

「お、応」

岩屋はまだ困惑していたが、それでも仕事はこなしてくれた。そのまま、皆、無言で後部車両に帰り着いた。俺達の顔を見た西灘は、全てを悟ったようだ。

「二人だけか?他の皆は?」

それでも、震えながら西灘は問いかけてきた。俺は、無言で首を横にふるしか無かった。

「こっちよりも前はひどい・・・ただでさえ、状況が状況やし。ショックを受けるに決まってるわ。これ以上の混乱は避けたい。二人以外は全滅。これだけ伝えて、立ち入り禁止にしたほうがええやろ・・」

「そんなにか・・・」

徹の言葉に、更に愕然とする西灘。

「悪い、西灘。二人を手当したい。どこに寝かせてやればいい?」

「ああ、すまん。せやな、二人は・・とりあえず、軽傷者の所に頼むわ」

ゆっくり、団長と出来島を寝かせると、医療担当の大物ちゃんが触診し始めた。普段は丸っこく愛嬌があり、皆から大物ちゃんと呼ばれている彼が、険しい顔で、団長を見ている。

「ありがとう、大物ちゃん。外傷無しだけど・・・どうかな?二人共大丈夫かな?」

「まだ、わからんな、なんせ満足な機器ないからな、でも、多分、身体は大丈夫だな」

「そっか・・・身体はな・・・」

大物ちゃんはこちらを見ずにそう言った。身体は・・・。車両後部に拘束された彼等と同様かもしれないと言っているのだ。そんな彼等を見ていると、不意に岩屋が肩を叩いた。どうやら、徹と西灘が呼んでいるらしい。

「大物ちゃん、頼むわ、ちょっと、徹と西灘ところに行ってくる」

「任せろと言えないのが悲しいな・・・努力するな」

悲しそうに言う大物ちゃんに何も言えないまま、手を振り、徹と西灘の元に向う。

「早速で悪いんやが、簡単に言うと、こっからどないするかってことやな」

「軽傷者はまだしも、重傷者がどうしようもない・・かといって戻ることは出来へんと」

選択肢が無さすぎて、泣けてくる。

「結局、進むしかないって所が泣けてくるな・・・で、二人は車外周囲の探索をしたいと」

頷きながら、西灘は周りを見渡す。

「動けるのが、今のところ11人、大物ちゃんとサポートに4名はここに残ってもらおうと思うてる。3人で2組が周囲の探索と、どない思う?」

「異議なしだな」

「そいでや、小隊長を君と新開地君に頼みたいねんけど、どうかな?」

「それについては、俺はいいが、徹はサポートに残したほうが良いだろう。探索とか実務より、そのほうが徹向きだ。徹はそういう能力の高さは半端ない」

徹は意外そうに俺を見ていた。そんな目で見るな友よ・・・。照れるじゃないか・・・。

「探索しながら、小隊引ききれる奴といえば、御影か打・・・御影だな」

名前を言いかけ、一瞬、打出の最後の姿が脳裏を過ぎった。人選に納得したのか、西灘も徹も頷く。

「それでええか?新開地君?」

「なんか、彼方にこういう風に言われるの慣れてないから、調子狂うけど、異議なし」

「後、残りのサポート二名は洲先と岩屋を押しとこう。あの二人なら、万一、荒事があっても対処できるだろうしな」

荒事という言葉に二人の顔が、一瞬強張る。

「そう怖い顔すんな、二人共、俺な、ネガティヴ思考だからさ、嫌な方向に考えてるだけだ、万一だ、万一、早々起きやしねえよ」

状況的に見て、その万一だとは思ったのだが、とても言えやしない。白々しくフォローに周っては見たものの、俺の考えなど察したのだろう、相変わらず二人の表情は硬かった。

「せやな、そこらも考えてはおったけど、周囲の状況がわからん限り、最悪の最悪は考えなあかんな・・」

「と、とりあえず、メンバー分けは二人に任せる。よろしく頼む」

その空気に耐え切れなくなってしまった俺は、その場から逃げ出してしまった。つくづく自分のネガティヴさに嫌気が差す。

そんな嫌な空気を切り裂く、目覚めた団長の絶叫が、車内に響き渡った。

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