出発
世界は核の炎に包まれた。
という漫画があったのは有名だ。
だが、実際に起こるとは思いもしなかっただろう。
世紀末に訪れた隕石。その衝突を回避した人類に待ち受けていたのは、まさかの核の炎。
某国の某首領が世界の終わりにヒャッハーしたとかなんとか。
滅ぶ前に滅ぼしたとか笑えない。
だが、人類は滅んでいなかった。
専守防衛を旨とした我が祖国の元は防衛力をこじらせすぎて、次元壁絶対防御機構を開発。有事の際にその運用を行った。結果、小さな島国はバラバラに分断され、それぞれ比喩抜きに世界の向こうにぶっ飛ばされた。
核の炎の脅威には晒されなかったが、やはり分不相応な技術だったのだろう、元の世界に戻れた地方もあれば、そのまま、次元の狭間に幽閉される所もあった。
幸い、次元の狭間に落ちた都道府県には生産系プラントなどが多かった事も自給自足を大きく助けた。更に次元間通信が可能な通信網が顕在であった為、それぞれの無事が確認出来きお互いに喜びあったが、元の世界に残された方は絶対防御機構展開時の余波でボロボロな上、次元の狭間から現れた正体不明な物体の襲来など災厄を一手に引き受ける形となり、救援救助の要請を最後に通信が次々途絶えた。事態を重く見た次元の狭間に飛ばされた都道府県は協議の結果、至急かつ速やかに元の世界に帰還する為に一致団結し相互協力を尽くす同盟を結ぶ。首都トーキョーを中心とした日本帰還同盟発足である。
というそんなに説明臭くない過去の状況を今、壇上の校長はやたら物語口調で語りながら悦に入っている。
トーキョーのお偉いさんとライブ通信繋がってるからってはりきり過ぎて引く。
一同のそんなお前の話はどうでもいいという視線はまるで届いていない。
俺を含む卒業生100人はそれどころではない。
帰還事業という綺羅びやかな装飾の施された放逐片道キップを配布されたのだから、いや解っていたよ?
こんな状況だしさ、食い扶持は減らしたいけど、生産力は維持せないかんしね。プラント管理者とか、教官とかね。就職出来ないとやばいぞと言われてたけど、実際、危機感低かったわ。
後、コネ無いとマジダメ。今、壇上の校長の熱いトークの横で死んだ魚の眼をしてる生徒会長。成績優秀でプラント管理者内定確実とか言われていたけど、コネ無さすぎでこのありがたい帰還事業の団長に就任の運びとなった。
「というわけで、諸君らの健闘を祈る!では、団長就任の挨拶を!大開 樹君」
「はい」
校長の熱いトークはどうやら終了したようだが、会長いや団長の目は死んでる・・・・。
「なぁ、大開クンやばないか?彼方」
そういって声をかけてきたのは、悪友の新開地 徹だ。
「コネ無さすぎて団長就任とか、罰ゲーム以外の何者でも無いだろう・・・あいつより成績悪い桜川と九条がプラント管理者に内定したから余計だろうさ」
このありがたい卒業式兼出発式典には就職組の姿は無い。彼等にはもう関係のない話だからだ。嗚呼無情。
「そこらへんホンマやってんなぁ、キッツいなぁ俺ら試験管組とは、それこそ生まれが違うってか」
「そんなもんだろ、仕方ない。それよりあれ見ろ」
壇上の団長を顎で指す。
「皆さん、この様な栄誉はありません!我々は粉骨砕身、その字の如く、身を削り、骨を粉にするまで働いて働いて、こちら側とあちら側の架け橋になろうではありませんかッ!我々にはその覚悟があります!そしてその為にこの学校で学業に励んできました!その力を今こそ存分に発揮し、正に礎として、あちら側に骨を共に埋めましょう!」
目が死んでるからイッてるにランクアップした。何かが切れたんだろうなぁ・・・団長就任の挨拶はキレッキレのヤバさでした。そして後ろで泣いてる振りの校長。・・・絶対泣いてないだろ?
「なぁ、アレ・・・」
「言うな、徹。あれはもう俺らの知ってる大開樹ではない・・それと後ろのアレはスルーしろ」
若干、狂気を孕んだ目の団長がドヤ顔で死地へ共に送り出される面々を見ている。軽いホラーだ。
「で、では、皆さん、出発の前に装備の確認をして下さい。もし不足品などあったらすぐに挙手するように職員が対処します。」
その団長を壇上から押しのけ、校長が再びマイクで呼びかける。
でも、装備といっても、事前に渡された装備品はリュックサック一個・・・・。
横に置かれた内訳の紙の内容。
サバイバルのしおり・・・1部
乾パン缶詰・・・2個
ペットボトル500ミリリットル・・・2個
簡易蒸留キット、簡易救急キット、ライター、レインコート、サバイバルナイフ、寝袋
以上。
辺りもざわつくのも当然だわ。この装備内容で、よくわからない状況の向こう側で生き延びれるのか、問い詰めたい。
「尚、それ以外にも向こう側の駅にて、銃器など諸君らの装備品が用意されているので安心したまえ」
ざわつく皆に校長が笑顔で答えた。
ようはあれですか、向こう側に付く前に色々渡しても、向こうに付く前に死なれたらアレだから装備は最低限でねとか・・・・めざといというかせこいというか・・・
「では、装備に異常が無ければ、出発式典に移ります。皆さんスクリーンに注目」
そう言うと、場内は暗転し、壇上にスクリーンが降りてくる。
『皆さん、この度は帰還事業という大任に不安になっているだろう。だが、安心し給え、あのように力強い演説が出来る団長などそうそういない。あの団長に付いて行けば大丈夫。』
校長がはりきった理由。トーキョーのお偉いさんというか同盟盟主である石原代表その人だ。
スクリーンにデカデカと映るその顔は笑顔だ。正に天上人の余裕。
『そして、先程彼が言ったように諸君らは同盟の担い手として、勉学に励み、心身を鍛えてきた。その力を信じ給え。』
メチャクチャ頷いてる団長がただただコワイ。あいつ正常な判断、絶対出来ないだろう・・・。今、代表の言ったこと、精神論だからな。
『しかし、実際現地へ赴く諸君らの心労を思うと言葉だけでは心許無い。私も同盟の代表として、君達を最大限バックアップする。その為、今回ナゴヤで制式採用された新型の次元間移動機「きぼう」を諸君らへ届けさした。諸君らの健闘を祈る。では、頑張ってくれ。現地の人々は諸君らの救援を待っている』
敬礼するとスクリーンは白く戻り、明かりも戻ったが、場内はざわついた。
最新型の次元間移動機。お偉いさんの激励。とっても信じられないことばかり、うんうん。
「なぁ、彼方なんか優遇されすぎやない?俺ら」
「そう思うよなぁ・・・でもなぁ徹。裏ありすぎだろ」
「え?そうなん?」
「最新型って言うけど、俺らモルモットっぽい。多分、同じ様に代表御自らの挨拶が別の所でも始まってると思う」
ネガティブに考えすぎているのは自分でも思うが、どうにも楽観視出来ない。特にこれから乗り込む次元間移動機。これが曲者だ。
トーキョー、ナゴヤなど各都市間での移動にも使われているこの機械だが、向こう側に行く場合は、安全度がかなり下がる。向こうに着いた死んでいたなんていうのはザラだ。同じ位相にあるらしい都市間は移動安全。完全に違うという向こう側では移動だけでも命がけ。
それでも、向こう側に到達できる確率が20年前から比べると25%上がって70%近くとか、先輩方、身体はりすぎ・・・・最新型と噂の「きぼう」とやらがどれほどのものかは不明だが、ただただ怖いわ。
「それでは諸君、注目である。これが諸君らを運ぶ。正に希望の船だ。」
校長のうまいこと言った感じのドヤ顔にムカつきながらも、その後ろに颯爽と現れた鋼鉄の車輌に乗り込む側の団員一同は言葉を失い、ただただ呆然とした。
「なぁ、彼方、アレって・・・」
ようやく、そう本当にようやく絞りだすように徹が、困惑した顔で問いかけてきた。
「お、おぅ、な、なんというか、そのなんだ・・・・新幹線だよな?」
他に答えようがない。高度成長期時代の画像で、よく見るあの新幹線だ。どう見ても・・。
「せ、せやな、資料にあった昔の新幹線そっくりやん・・・アレに乗って次元間移動・・・安心せいとかすごいな・・・上の考え方が凄すぎて・・・大丈夫か・・俺ら・・・?」
徹がひきつった笑顔で、ここにいた皆の気持ちを代弁した。
「素晴らしいッ!あの、無事故伝説を誇る我が祖国の偉大な高速鉄道に似せたその姿ッ!我々が乗るにふさわしい姿ではないですかッ!さぁ行きましょうッ!僕らを待っている人々がいますッ!」
訂正。皆ではなかった。団長だけは、キラキラした瞳でぶっ飛んだ発言だった。あいつは遠くに行き過ぎてる。
「団長の言うとおり、さぁ、諸君らの門出だ!」
校長の野郎。このまま、なし崩し的に出発させる気だな。収拾つかないもんなぁ・・・団長のせいだけど・・・。困惑の表情を浮かべたまま、全員がそれぞれ、希望の船とやらに乗り込む。
乗り込んだ座席はそれなりに快適だった・・・。ひょっとして内部までそっくりに作っているのか?
『では、諸君らの門出を祝って、そして、向こう側での救援救助の成功を祈る!頑張ってくれ!』
中央にあるモニターに校長の涙顔が、唐突に浮かび、全員が辟易した顔になる。あ、打出の奴、吐いてる・・。遠目で見てたから、何とかなるけどアイツの座席、モニターに近いもんなぁ・・南無三。
『それでは、出発致します。尚、無事な西日本の駅に到着確率は72%。座標ズレの確率は28%です』
機械音声が流れると同時に、車内に動揺が広がる。というか俺も動揺してる。ハッキリ言われるとやっぱりくるなぁ。周りを見渡してみる反応は様々だ。
泣いてる奴、叫んでる奴、俯いてる奴、打出はなんか袋に顔突っ込みかけてる。徹は・・・・窓の外を頬杖付きながら眺めて現実から逃避している。
そして、車体はゆっくりと動き始め、次元間移動を開始した。




