第四話 『忠実と違う世界に』
翌日、山本と二人で皇居へやって来たユナは、目の前にいる昭和天皇を見て心の鼓動が高まる。
「初めまして、朕は裕仁だ」
「(ほ、本物の昭和天皇陛下……)」
「あの、ユナさん?」
「あっ、はい。ユナ・クロイツです。陛下、どうぞよしなに」
「ようこそ皇居へ。とりあえず上がってくれないかね、朕もそなたの話を聞きたい。山本君、君も来たまえ」
「お心遣い感謝いたします」
山本とユナは、陛下に連れられ正殿竹の間へお向かう。ここは主に、海外からの賓客や首脳などが陛下と会見するときに使われる。椅子に座ると、陛下は山本に声をかける。
「山本君、君は昨日強硬派に狙われたそうではないか?」
「はい、恥ずかしながら彼女に命を救ってもらいました」
「なんと、彼女が?」
「彼女は不死身であります。故に、私を庇った彼女は死にませんでした」
陛下は驚き、ユナを見つめる。
「陛下、私がこれから話すのは、この国……いや、これからこの世界がどうなるかということです。聞いてもらえますか?」
「もちろんだとも、話たまえ」
ユナはこれからの出来事を全て話した。
『真珠湾奇襲による太平洋戦争の勃発、ミッドウェー海戦の敗北、ナチスドイツによるホロコースト、ガダルカナル島作戦、スターリングラード攻防戦、南方諸島での玉砕、イタリアの降伏、ユダヤ人強制収容、サイパン島の戦い、マレー沖海戦、本土爆撃、神風特攻隊、ソ連による日独侵攻、ナチス崩壊、原爆投下、無条件降伏、GHQによる占領政策、核兵器による米ソ冷戦、領土紛争、9.11から始まった対テロ戦争』
これを聞いた陛下と山本は、何も言うことができなかった。しばらく呆然としていると、陛下の目から涙が一筋流れる。
「そうか、日本は負けるのか……」
「私はブーゲンビル島上空で戦死、陛下は海外のみならず守っていたはずの自国民にす罵られる。そうか、未来は平和だが悲しいものだな」
「最後まで聞いていただいてありがとうございます」
「こちらこそ、最後まで話してくれてありがとう。そなたの話を聞いて、少し頭が冷めたよ。となると、開戦派の東條君には首相の座を退いてもらわなくてはな」
「それはこちらで何とかします。陛下、ユナさんは今日のお昼に一般参賀に集まった国民の前で歌ってもらうことにします」
「えっ、急に!?」
「(せっかくなんだ、陛下と国民に君の歌を聞かせてあげなさい)」
「(山本さん、無茶苦茶です!)」
山本の提案に驚くユナ、山本は彼女の歌を、皇居に集まる国民の前で歌えという。幾らなんでも、急すぎると小声で訴えてしまう。しかし、当の山本は問題ないと受け流してしまう。
「さぁ、皆が集まっておる、行こうではないか」
「あっ、あのっ!?」
歌が聴きたくてノリノリの陛下に手を取られたユナは、皇居のバルコニーへと向かう。すると、そこには国旗を持った大勢の人々が、突然現れたユナに驚き、ざわつき始める。
「皆のもの静まれ、この方は世に輝く絶世の美女、歌姫のユナ・クロイツである!」
陛下は集まってきた民衆を静まり返らすと、ユナの背中を押した。
「さぁ、聞かせてあげなさい」
「わ、分かりました……では」
『ここに示す
お前の名を
忘れられるものよ
私のこと
時を越える
歌い手よ
永久に続く
愛への想い
闇に堕ちる
あなたのこと
私はそっと
手を差し伸べる
君は二度と
会えないけど
この想い
永遠に伝う
永遠に伝う』
ユナがある人に送った、とても短く想いのまま歌った『命の灯火』。陛下の一般参賀に集まった国民は手を叩き歓声を上げ、集まった新聞記者たちはこの事を国内外に向けて報じた。
のちに、ユナがこの世界で再び歌姫と呼ばれる事となった運命の日である。




