第三話 『真実の告白』
「和服を着たのも久しぶりね……」
透き通るような銀髪とマッチする橙色の和服を着たユナは、案内人に連れられて横須賀にある海軍料亭の『小松』へと向かう。着物を着たのは日本での公演で老人介護施設を回った時以来だった。
料亭の小松は、横須賀の米が浜通にある料亭で古くから横須賀軍港が近かったためか、海軍将兵に愛されてきた料亭であった。
門には、憲兵と思わしき私服の二人の男が周りにと目を光らせていた。ユナが中へと入ると、仲居さんに奥の部屋へと招かれる。
「失礼します」
正座で襖を開けると、中には山本五十六をはじめとする海軍軍人や、中には塩沢幸一の姿も見えた。
「(お、大物過ぎる……)」
「どうぞユナさん」
「あっ、はいっ!」
ユナは上座に座る山本五十六の横へ座る。見渡す限り日本海軍でも指折りの大物が揃うこの場にいるここは、10万人の観客の前で歌っても平気なユナに只ならぬ緊張感をもたらす。
「山本、このお嬢様はどちら様?」
「皆にも紹介しよう。この子はユナ・クロイツさん、歌い手だ」
「ユナ・クロイツです(だから大物過ぎるって!)」
心の中でそう叫ぶ。横を見ると、山本が満面の笑みを浮かべて歌を歌ってくれと言う。
「では、早速ですが一曲歌ってもらえないかい?」
「はい、では……」
『枯れる野の花よ
この思いもいつしかこうして
この花のように
枯れてしまうのでしょう
凛と咲く一輪の花よ
どうか教えてくれまいか
どうすればいいのでしょう
枯れる野の花のように
いつしか心も
潤いをなくすのでしょう
生きた証すら
忘れてしまいそうな
名も無き守護者達に
歌ってあげましょう
心に届く愛の歌を
右手で交わした約束
私はずっと守り続ける
たとえそれが
世界中を敵に回したとしても
その思いは
私の心を和ませてくれる』
歌い終えたユナは正座のままお辞儀をする。歌を聞いた山本達はユナの声に聞き惚れていた。
「素晴らしいな」
「ユナさん、貴女というお方は一体何者なのかね?」
「私の言うことを信用できますか?」
「わかった。話たまえ」
ユナは食事をいただきながら、自分がどういう存在であるかを唐突に語り出した。山本五十六、米内光政、井上成美、彼らは海軍・陸軍軍人の中でも信頼できる人物だと見越したからだ。
「未来から来ただって!?」
「日本が負ける、そんなバカな!?」
「ほ、本当かねユナさん?」
「はい、5年後に日本の広島と長崎にアメリカの秘密兵器である原子力爆弾、通称『原爆』が投下されます。二発の原爆を投下され、各地で敗戦を続けていた日本は、アメリカの要求通り無条件降伏であるサンフランシスコ条約を締結し、天皇陛下は玉音放送で国民に敗戦を伝えました。ここにいる山本長官を含め、ほとんど方が戦死、もしくは軍事裁判の結果処刑されます」
「そんなありえない話、到底信じれん!」
「よさないか!」
山本の一喝に、騒いでいた軍人たちは静まり返る。反論を恐れていたユナは、少しの喧騒で抑えてくれた山本に感謝する。
「ユナさん、貴女の言うことは本当なのかね?」
「はい、私はこの時代から70年後の未来から来ました」
「証拠はあるのかね?」
「まずは未来の音楽機械です」
ユナの音楽プレーヤーから流れる曲をイヤホンで聞いた山本たちは、その美しい音色に驚愕する。
「これは驚いた。最新の蓄音機でもこんな良い音は出すことはできない。それに、この動く画面は今の技術力ではここまで鮮明に映し出すことはできない」
「長官、信じるのですか?」
「そうする以外なかろう。それでだ、ユナさん。我々は具体的にどうすれば敗戦を回避することができる?」
「前世の日本は戦域を広げすぎた為、物資不足や食料不足などに悩まされました。私が考えるのは戦争回避、無理なら中国大陸からの撤退、東南アジア諸国の独立、米国との早期講和をと思っております」
「講和か、やはり勝ち目のない戦争だったのだな。分かった、この事は陛下にお伝えする。君は私が用意した宿舎で休みたまえ。外まで送ろう」
「ありがとうございます」
山本に連れられたユナは料亭の前に止まっている車まで歩み寄る。
「今日はいきなり食事に誘って悪かったね」
「構いません、有意義な時間を過ごせました」
「ありがとう。陛下には私から直々に……ん?」
「貴方を連合艦隊司令長官の山本五十六とお見受けする」
道端から、黒い服を着た男が突然現れる。その時、ユナは直感で何が起こるかを感じた。
「死ねぃ国賊!」
「山本さん危ない!」
とっさに銃の射線上に入ったユナは、脇腹に銃弾を喰らい、地面に倒れる。山本はとっさに懐から十四年式拳銃を引き抜くと、襲撃者に向けて銃を撃つ。襲撃者は胸に何発か銃弾を受け、その場に倒れこむ。
銃声を聞き、米内らが料亭から飛び出してくる。
「山本、無事か!?」
「私は大丈夫だ、それよりユナさんが!」
「大丈夫です、山本さん」
ユナがそう言うと、撃たれた傷口はみるみるふさがり、貫通せず身体の中に停滞していた銃弾をこしだす。それを見た山本たちは言葉を失った。
「ご無事で何よりです山本さん」
「私のために命を張ってくれてありがとう。君は、どうして傷口を塞いだのかね?」
「私の能力、不老不死です。あれぐらいの傷なら1分もせずに回復させますが、90年ほど経てば普通の人間と同じように死を迎えます」
まだ20にも満たない幼き少女の言葉に、山本たちはただ見つめるしかできなかった。




