第二話 『歌姫として再び』
ついにあの人が!
人格違ったらすみません
ユナが目を覚ましたのは、先ほどの白い部屋ではなくどこか狭い室内だった。ベッドは壁をくりぬいた様にできており、左右に揺れることを踏まえて、ここが船の中だと推測する。
「何の船だろう、ここ」
しばらく部屋の中を探索する。すると、机の上に一通の手紙が置かれていた。差出人はユクラテス、ユナを転生させた神だった。
『これを読んでいるということは無事に転生できたようじゃな。転生先に不満はあると思うが我慢してくれ。そなたがいるのは大日本帝国横須賀港行きの民間船じゃ。台湾を経由して横須賀へ向かう途中の船室におる。必要なものは船室に用意し、特典はすでにそなたの魂に刷り込んでおいた。また後ほど手紙を書いておく』
手紙を見たユナは船室をくまなくチェックする。出てきたのは大きなキャリーバッグ、麦わら帽子、身分証明書、お金、ドレス、下着、ワンピース、シャンプー、ボディーソープ、音楽プレーヤー、録音機、太陽光発電機、手帳、女性雑誌。
「…………」
何か余計なものが入ってはいるが、一応私生活に必要な最低限のものと、身分を証明できるものがあって助かったと安心するユナ。
ブォーッと汽笛が鳴る。どうやら横須賀港へ民間船が到着したらしく、ユナは船室から出て甲板へと歩く。
「本当に過去だ……」
横須賀港、国内有数の軍港として機能しており、日本海軍の横須賀鎮守府が置かれており、戦略上最も重要な軍港である。港には戦艦や駆逐艦、空母が停泊している。
甲板に出てきたユナを、周りにいた日本人たちはチラチラ眺める。開戦間近だ、ハーフとはいえ髪が銀色な異国風の人間を見れば、気になるのも当たり前だろう。特に、この時代は米英に対する考え方が厳しく、在日外国人は肩身の狭い思いをしていた。
しかし、運のいいことに1940年には日本はドイツ、イタリアの二国と同盟を結んでいる。いわゆる『三国同盟締結』だ。その上、ユナは同盟国であるドイツと日本のハーフである。
横須賀港へと降り立ったユナに、数人の兵士が近づいてきた。
「横須賀鎮守府所属の海軍憲兵隊である。この船に異国風の人物が乗船していたと聞いた。君のようだ、少しの間お付き合い願おう」
「構いませんよ。どこに行けばよろしいですか?」
「鎮守府へ来てもらおう」
荷物を取り上げられ、ワンピースのまま横須賀鎮守府へと連行されたユナは、取調室へと連れて行かれた。中には少し痛いことをするような器具があり、ユナの心拍数は異常に上がる。
「名前を聞こうか?」
「ユナ・クロイツです。16歳、ドイツ帝国と大日本帝国の親を持つ混血です」
「ほう、証拠はあるか?」
「荷物の中に身分証明書があります。両国大使館の印と、サインが記されているはずです」
「なるほど、確認を取ろう」
上司と思われる憲兵は、部下にドイツ大使館へ連絡する。しばらくして、担当の職員が身分証明書を確認する。
「間違えありません。これは本物です、持ち物に少し不審なものもありますが、彼女はスパイではありませんよ」
「そうですか、ありがとうございます」
憲兵に礼を言われた職員は部屋を出て行く。
「改めてお詫び申し上げよう。私は横須賀鎮守府所属、海軍憲兵隊の大杉清貴中尉だ。ユナくん、君は一体何者なんだ?」
「大杉中尉、私は歌い手です」
「ほう、歌を歌うのか?」
「はい、私は小さい頃から歌が上手と言われ、ずっと練習してきました。そこで、軍の人たちにもこの歌を聞いてもらって、元気になってもらおうと思って日本に来ました」
「そうか、なら一曲歌ってもらえるかな?」
「いいですよ、どうせなら皆さんも集まってください」
数分後、鎮守府にいる軍人たちが大広間に集まる。その視線の先には、膝丈のドレスに赤のリボンを付けたユナが立っていた。軍人たちは今か今かと彼女の歌を待っていた。
「では、聞いてください。『蒼天の彼方へ』」
『いつもと同じ日常を
繰り返すだけの日々はもうやめよう
も一度 子供の頃に見たあの夢を
ひたすら追いかけてみないかな
満天の夜空に光る
小さな星屑のように
希望は少しも大きくない
バラバラになった夢を集めて
いざ飛び立ちましょう
希望の空へ羽ばたく翼
青く透き通ったあの空へ
私はまだ飛べるよ
心配いらないよ
ほら見てよ
またここに私がいる
ここにいる
数え切れない星の中から
私を見つけ出して欲しい
もし明日死んでしまっても
あなたの思いは届くはず
明日こそ
見つけるよ
あなたを……』
切ないながらもサビで一番盛り上がる曲を歌い終えたユナは、深々と一礼する。すると、今まで緊迫した雰囲気だった大広間に、ポツポツと手を叩く音が聞こえる。そして、いつの間にか拍手で溢れかえっていた。
「素晴らしい、素晴らしすぎる!」
「何て綺麗な歌声だ!」
「思わず聞き入ってしまったよ」
「いやぁ、昔を思い出した」
軍人たちがユナに詰め寄ってくる。どうやら、『蒼天の彼方へ』は彼らの古い過去の記憶を思い出させたようだ。今まで軍務にだけロボットのように仕事をこなす彼らに、少し感情が芽生えたかもしれない。
「ほう、中々いい歌だったよ」
突然、扉からある人物が入ってくる。身長160センチほどの小柄で風格がある、海軍の第一種軍装を着ていた。そう、この男こそ、後世で日本海軍の歴史上最高の司令官とも言われ、尊敬され続けている軍人。
「や、山本五十六長官殿にけ、敬礼!」
その場にいた軍人たちは一斉に敬礼する。
「構わんよ、楽にしてくれ」
「失礼いたします!」
山本は二つに割れた人混みの中を歩く。そして、ユナの前まで歩み寄ると、軍帽を脱ぎ、深く一礼した。
「帝国海軍、連合艦隊司令長官の山本五十六と申す。ユナ・クロイツさん、あなたの歌声に私、感動してしまいました」
「えっ、あ、あの?」
「是非とも、我が友人たちにも歌を聴かせて欲しいのです。今晩、私とともに料亭へお越しください」
歴史上の偉人に食事へ誘われたユナは、どうしていいのか分からず、少しの間舞台の上でモジモジとしていた。
歌、募集中です(^ ^)




