第1話『白いお部屋の中』
長い間気を失っていたユナは、ふと目を覚ますと白い部屋の中にいた。やけに目がかすむので、少しの間ぼうっとしていた。
「ここはどこ?」
「気がついたかね」
ユナは声のした方を振り向く。そこには、洋風な庭にある椅子に座る一人の老人がいた。目はおっとりとしており、その顔はどこか懐かしい気持ちを思い出させる。
「こちらへ来たまえ」
言われたように老人の元まで歩いていく。ふと、刺された右胸を確認するが、右胸はおろかドレスすら綺麗に元どおりになっていた。
「こんにちはお爺様」
「初めましてじゃな。フロイライン、ユナ・クロイツ。ワシは人の命を管理する神じゃ」
「私の名前を、えっ、神様?」
「神といっても、ハデス様やアテナ様のような上級神じゃなくて普通の神様じゃがな、ほっほっほ」
神と名乗った老人は、神の中でも普通ということをあまり気にしておらず、自嘲するように笑う。
「神様、私はどうしてここに?」
「フロイライン、そなたは前世で殺人犯に後ろから刺殺され、死んだのじゃ。ここは天国ではなく、とある特別な部屋なのじゃ」
「特別な部屋……?」
椅子に腰掛けるユナに、神は温かい紅茶を差し出す。
「本来なら、そなたの魂は浄化され、意識は天国へ、魂は再び新しい生命となるため輪廻の渦へと戻される。ここはいわゆる、次の生への転生を行う部屋という感じじゃ」
「どうして私は転生の部屋に?」
「ふむ、本来ならそなたの意識と体は天国へ行き、魂は浄化されるはずなのじゃが、どうやら意識と体、そして魂が一つになったままこの部屋にやって来とる。つまり、そなたは新しい世界にそのまま転生することになる」
ユナは呆然とする。
「そなたの転生先は約1941年12月2日、第二次世界大戦が勃発して日本が真珠湾を奇襲攻撃する6日前の世界じゃ」
「そ、そんな世界に転生しても、すぐに死んじゃいますよ?」
「ほっほっほ、そこはちゃんと考えておる。そなた、歌が上手いのじゃろ?」
「ま、まぁ、それがどうしましたか?」
「そなたに三つの特典を用意しておるのじゃ。そのままでは、そなたはすぐに死んでしまうからのぅ」
「他の時代に転生できないのですか?」
「すまぬ、これだけは変えられないのじゃ。ワシより上の冥王ハデス様がお決めになられた事じゃ」
ユナは仕方なく、老人の話を素直に聞くことにする。
「まず一つ、そなたを一定期間の間不老不死にしようと思う。つまり、人が一生に過ごす間だけ、いつまでもその姿でいれるという事じゃ。もちろん、人間と同じく死は訪れる」
「それなら構いません。宇宙の終わりまで生きるわけにもいきませんし」
「二つ目は、そなたに未来予知という特殊な能力を与える。これは様々なことに応用が利き、自らが感じた危険を速やかに察知して危険を回避することができる。つまり、未来を知るそなたは最強だ」
「最強にはあまり興味ありませんが、それでいいです」
「最後は、歌の力じゃ。そなたが歌う歌に不思議な力を込めておく。そうすることで、歌に何らかの力が働き、人の心も動かせる」
「歌で生きてきた私には大歓迎です、神様」
「ほっほっほ、話がわかる良い子じゃ。じゃが、そろそろお別れの時間じゃな」
神様がそう言い終えると、ユナの下半身が少しずつ粒子となって消えていく。
「神様、最後にあなたのお名前を!」
「ワシの名はユクラテスじゃ。そなたが歌で世界に平和をもたらすことを祈っておる」
「ありがとうございますユクラテス様!」
そう言い終えると同時に、ユナの体は全て粒子となって転生の間から消え去る。残ったユクラテスは紅茶を飲み干すと、杖をついてどこかへと消えてしまった。消える寸前にユクラテスはこう呟く。
「ワシは戦争は嫌いなんじゃよ」




