60 勇者と精霊3
「ジーク様、取り乱してしまい申し訳ありませんでした。遅くなってしまいましたが、私の元に手紙を届けてくださり、ありがとうございます」
長い時間泣き続けていた勇者が、うとうとしていた僕に声を掛けてきた。
目元は腫れ上がり、声は枯れているようだが、呼吸も安定して落ち着いているようにみえる。
「ふわぁ、気にする事はないよ。僕が酷い目にあいながらも、君に会いに来たのは、神の意思だからね。手紙はついでだよ」
「えっ! 神の意思!? それは一体どういう・・・・・・」
「悪いが、詳しくは話せないよ。勇者の君にもね」
「・・・・・・そうですよね。きっと私なんかには想像も出来ないような、偉大な使命をもって行動しているのですね。それで・・・・・・私は一体何をすればいいのでしょうか?」
ミランダ達と同様に、納得してくれたみたいで一安心だ。
精霊王様との約束があるから真実は話せない。
本当は神の意思なんかじゃなく、ダイスケの意思。
日記を読んで知った、勇者の不幸な人生を救う為・・・・・・世界を救う為、僕達は行動している。
「話が早くて助かるよ。さて、本題に入るが、君はミランダ達に会いたいのは間違いないね?」
「えっ・・・・・・勿論会いたいです。手紙でアーデル村という場所に居る事がわかりました。今すぐにでも会いに行きたいです・・・・・・でも私は・・・・・・王都を離れる事は出来ません」
「誓約があるからかい?」
「っ! 何故誓約の事・・・・・・愚問でしたね。ジーク様は偉大な精霊で神の使者です。全てお見通しなのですね。仰った通りです。私は誓約によって王族の命がない限り、王都を離れる事は出来ないのです」
「誓約は既に無効になっているよ」
「・・・・・・えっ?」
僕は、勇者に丁寧に説明した。
誓約が既に無効になっていて、自由だと言う事。
仮面の男が僕の契約者であり、契約者の魔法によって誓約という名の呪いを解いた事。
勇者を今すぐにアーデル村に連れて行ける事を・・・・・・
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「・・・・・・えっ?」
私は間の抜けた声を出してしまった。
でも仕方ないと思う。
だってジーク様が誓約が既に無効になっているって言ったから・・・・・・
「・・・・・・という事でだ、君は自由だ。もう王都に縛られる事もないよ」
自由?
私は自由?
故郷に帰れるの?
ミランダ達に会いに行けるの?
「広場での仮面の男を覚えてるかい? あれは僕の契約者で、脳筋で残念で悪魔のような男なんだが、誓約を無効にできる魔法を使えてね、君を誓約という名の呪いから解放したわけだよ」
契約者?
仮面の男が契約者?
私の誓約を解いてくれた?
あの時の魔法は私の誓約を無効にする為に・・・・・・っ!? 私は何て事をしてしまったんだろう。
私を救う為に魔法を唱えた契約者に、中級の魔法を唱えてしまった。
「私、誓約を解いてもらったのに、契約者の方に中級魔法放って、謝らないと・・・・・・うぅ」
「あの馬鹿は、今は別行動中だよ。城の警備が厳しいから騒ぎを起こさずに侵入する事は難しいと判断した結果、隠蔽術が使える僕だけが君に会いに来たわけだ。また機会があれば謝ればいい。本人はまったく気にしてなかったけどね。さて、誓約が無効になったのは理解したね? よいしょっと」
ジーク様が私の膝の上から、ぴょんっと飛び降りて、何か呟いた。
すると、何もなかった空間が突然眩い光に包まれて、神々しい扉が現れた。
「っ!? ジ、ジーク様、この神々しい扉は一体・・・・・・」
「ふむ、見る目があるね。どっかの馬鹿とは大違いだ! 僕は空間を司る大精霊・・・・・・この扉を僕と共に潜れば、今すぐに、アーデル村へと行けるよ! フハハハハハァ!」
「ほ、本当ですか!?」
「勿論だよ。ミランダ達に会いたいんだろ?」
「は、はい! ミラに、おじさんとおばさんに会いたいです!」
「じゃあ行こうか、僕を離さないように扉を潜るんだ」
「は、はい!」
カーン
カーン
カーン
6つ目の鐘が鳴り響く中、私はジーク様を背中に乗せて、神々しい扉を潜り抜けた。
扉を潜り抜けた先は、質素な部屋だった。
部屋の隅に布団が畳まれていて、壁には奇妙な文字が円の形で描かれている。
アーデル村の住人の家なのだろうか?
「そこの扉を開けてくれたまえ」
「あっ、は、はい」
ジーク様に言われるがままに、木製の扉を開けると
「むっ、いい匂いがするね。よっと、さぁ行こうか」
「えっ、ジーク様待ってください」
私の肩から飛び降りたジーク様が、小走りに薄暗い廊下を進んで行き、角を曲がって姿が見えなくなる。
姿が見えなくなった事で慌てた私が、急いで後を追い、角を曲がろうとした時だった。
「あらぁ、私のジーク! 帰って来るのは明日だと思ってたわ」
慈愛に満ちた優しい声が聞こえた
忘れる筈がない声
私を勇者としてではなく
エイミアとして見てくれて
いつも笑顔で優しくて
とっても綺麗で
美味しいパイをいつも焼いてくれた
「ジーク様? お戻りになられたんですね! 遅い時間ですが丁度飯にする所だったんです。よかったらご一緒に!」
低く野太い声が聞こえた
見た目は熊みたいで
初めて会った時はとっても怖かった
でも、本当はとっても優しくて
よく頭を撫でてもらった
「ふむ、匂いは中々だが、僕を満足させれる味だろうね?」
この角の先には
私の大好きな
おじさんとおばさんがいる
「生意気ぃ! おいで抱っこしてあげるわ!」
「メアリー、俺にも後で抱っこさせてくれよ!」
「やれやれ、可愛いって罪だね」
涙が溢れて視界が霞む中、私は足を進めて角を曲がった
「ミアちゃん!? ミアちゃんでしょ!?」
「ミア!?」
私を勇者としてではなく、エイミアとしてみてくれる
私の大切な・・・・・・
「うぅ・・・・・・うわぁぁぁん!」
私は泣き崩れた
子供みたいに
大きな声で
泣き続けた
「ミアちゃん、泣かないで。ほら良い子だからね」
おばさんが泣き続ける私を、優しく抱き締めてくれた
「事情はわかんねぇが、また会えて嬉しいぞ! ミア」
おじさんが私の頭を優しく撫でてくれた
「うぅ・・・・・・ごめんなさい、ごめんなさい、でも、でも・・・・・・うわぁぁぁん!」
喚く私を、何も言わずに優しく抱き締め、頭を撫で続けてくれる、おばさんとおじさん。
「お父さん? お母さん? 何事なのです? さっきから泣き声が調理場まで聞こえ・・・・・・」
声が聞こえた
透きとおった
美しい声
おばさんの胸から顔を上げた私は
霞む視界の中
少し大人になった
大切な
大好きな
友達の姿を捉えた
「あ、あ、ミ、ミラァァミラァァミラァァミラァァ、うわぁぁぁん!」
「えっ、ミ、ミア!?」
いつも笑顔で
優しくて
私が落ち込んでいると励ましてくれて
心に安らぎを与えてくれた
私の大切な
大好きなミラ
ドンッと強い衝撃が私の身体にはしった。
ミラが私に飛びついてきたからだ。
「ミ、ミア、げ、元気にしていたので、す? ま、また泣いてい、るのです? ふふふ、泣き虫な、のは、あ、相変わら、ず、な、のです」
「げ、元気じゃ、な、い。だ、だってミラがいな、かったから。な、泣き虫だ、もん。ミ、ミラだって、泣き虫だ、もん・・・・・・寂しかった、あ、会いたかった、ミラァァミラァァミラァァ」
ありがとう
生きていてくれて
ありがとう
私を昔と変わらず受け入れてくれて
ありがとう
ミラ
ありがとう
おじさん
ありがとう
おばさん
ありがとう
神様
ありがとう
ジーク様
ありがとう
名も知らぬ契約者の方
私は今・・・・・・幸せです




