56 勇者が望んだ救世主
「何で殴るのだよ! 酷いじゃないか!」
「悪かった。でも顔がムカついた」
こうしてる間にも、人々の歓声が少しずつ離れていくのがわかる。
ミアに合わせて移動しているのだろう。
急がなければならない。
ジークが、苛つく顔をしていたので、殴ってしまった。
この何の役にも立たないと思って、封印していた仮面を装着して、顔を隠せば、正体がばれる事もないだろう。
「まったく、後で対価を要求するからね。とりあえず理解はしているようだが、仮面だけでは完璧ではない。これを着たまえ!」
「はっ? 何でだよ?」
ジークがアイテムボックスから取り出したのは、俺が元の世界から持ってきた数少ない衣服・・・・・・じいちゃんの剣道着だった。
「ダイスケが今着ている衣服も、レムレールでは多少目立っているが、この紺色の衣服は更に目立つだろ? 出来るだけインパクトが強い方が、ギャップがあっていいからだよ! 当たり前だが、この衣服は変装する時以外は着てはいけないからね」
じいちゃんの剣道着は、着る為ではなく、形見的な感じで持ってきたんだが、まさかこんな形で着る事になろうとは、思わなかった。
ジークの言っている事は理解出来る。
じいちゃん、ミアを・・・・・・世界を救う為に、使わせてもらうよ。
「わかった! すぐ着替える」
俺は着ている服を脱いで、剣道着に急いで着替える。
上着は確か・・・・・・ここで結んでっと、袴は、前側の紐を一周させてから、後ろで結んで、それから後ろを持ち上げて・・・・・・よし、出来た!
じいちゃんを真似して、何度か着ていてよかった。
「ふむ、中々似合ってるね。靴を脱ごうか。それも目立っているからね」
靴と靴下を脱いで素足になる。
「よし、最後に仮面を装着したまえ!」
言われるがまま、白い狐の仮面を装着する。
紐で固定するタイプのようで、後頭部で縛って、軽く身体を動かし、外れない事を確認する。
「ジーク、これでどうだ?」
「ぷっ、思っていたより不気味だね。これならダイスケだとわからないはず・・・・・・あっ」
「ん? どうした?」
変装した俺を小馬鹿にしていた、ジークは何かに気付いたのか、間抜けな声を上げた。
「・・・・・・腕輪が隠れてない。Aランクハンターだって事がばれて、変装した意味がなくなるね。どうしたものか・・・・・・」
長袖じゃないから、仕方ないが、確かにこのままだと、変装した意味がない。
Aランクハンターは数が少ないだろうし、検問もあったから、王都に滞在しているAランクハンターが何人いるかわからないが、特定される可能性もなくはない。
腕輪を外す事は、ギルドにいかなければ出来ないし、そんな時間はない。
「ダイスケ! 苦肉の策だが、左腕を袖を通さずに、衣服の中に隠すんだ」
「袖を通さずに? こういう事か?」
左腕を強引に、袖から外して、胴の部分に仕舞い込む。
「少し違和感があるね、左腕を伸ばして隠すんだ!」
ジークの言葉に従って、左腕を伸ばすが、胴の部分では長さが足りず、袴に強引に突っ込む事にした。
「ぷっ、白い仮面の変態・・・・・・おまけに隻腕。完璧だ! これならダイスケだと誰もわからないよ! ぷぷっ!」
「この野郎ぉ、馬鹿にしやがって! 後で覚えとけよ!」
「何か言ったかい? さぁ、勇者が大分離れてしまったよ? 無駄な言い争いをする暇はない。よいしょっと。行こう!」
「ちっ、わかった! 行くぞ! しっかり掴まってろよ!」
生意気なジークを肩に乗せ、俺は高く跳び上がり近くの石造りの建物の屋根に着地して、辺りを見回すと、遠くの広場に人々が集まっているのを確認できた。
大分離れてしまったようだ。
広場の先には、灰色の大きな建物が見える。
おそらくは王城で、ミア達は城に向かっているのだろう。
王都を囲んでいた石壁の倍以上はあると思われる城壁が見え、数多くの兵士達が厳重に警備をしているのが、遠目でもわかる。
まぁ当たり前の話だが、城に侵入するのは難しそうだな。
強行突破なら、問題なさそうだが、騒ぎになる可能性は高そうだ。
思考しながらも、屋根伝いに移動を続ける俺の耳に、次第に大きくなる歓声が聞こえてくる。
ワァァァァァァァ!
「勇者様ぁぁぁ!」
「勇者様ぁぁぁ!」
「なっ!? なんだぁぁ!」
「あ、あれは!?」
流石に目立つか。
屋根を移動する俺の姿を目撃したのだろう。
歓声の中に驚きの声が混じり出した。
だが、何の問題もない。
その為の変装だからな。
「キャァァァァ! ば、化け物!」
「き、狐の化け物だぁ!」
「ま、魔物だぁ!」
「勇者様ぁぁぁ! 我らをお救い下さい!」
問題はないが、少し凹む。
化け物とか魔物とか、酷い話だ。
俺は人間だ!
怪しまれるのは仕方ないけど。
「ぷぷっ! 狐の化け物って」
ジーク、笑うな! 誰の案だと思ってるんだよ!
ジークに心の中で突っ込みを入れながらも、移動を続ける。
徐々に広場に近付く程、歓声が悲鳴にかわっていき、遂には異常に気付いた兵士達が騒ぎ始める。
「上だぁ! 怪しい奴が屋根伝いでこちらに向かっている!」
「全員警戒しろ!」
「魔法隊! 攻撃準備!」
うん、まずい。
攻撃準備とか言ってるぞ!
「おい、ジーク。やばくないか? 完全に狙われてるぞ」
「ふむ、確かにまずいね。変装はよかったが、見た目が怪しすぎたようだ」
「何で冷静なんだ・・・・・・危ねえ」
念の為に、周りに声が聞こえないように小声で会話していると、魔法なのか水と炎の刃が俺の目の前を通過していく。
「ダイスケ、あの建物の屋根に移動するんだ!」
「わかった!」
ジークに指示された建物は、広場の中心にある円柱の塔だった。
屋根近くは空洞になっていて、大きな鐘が設置されている。
円柱の塔に何とか移動した俺が、周りの様子を窺うと、真下には、白銀の鎧を纏った多くの兵士達の姿。
「怪しい奴め! 降りてこい!」
「魔法隊! 早くこっちへ来い!」
「勇者様の命を狙う魔物の類いに違いない! 殺せ!」
「やっちまえぇぇ!」
「魔物に慈悲を与えるなぁ!」
「殺せ!」
「殺せ!」
兵士達と歓声を上げていた人々が、物騒な事を叫び続けている。
俺がどんどん悪化する状況に、冷や汗を浮かべていると
「鎮まりなさい!」
可愛いくも、力強い声が狂騒としていた広場に響き渡り、静寂が訪れる。
凛とした声の持ち主は、白銀の鎧を纏った女の子。
銀色の髪は腰まで伸び、銀色の瞳は神秘的で綺麗だ。
うん、想像通りだな。
きっと笑顔は素敵だろう。
「私は勇者エイミア=ランス。貴方は一体・・・・・・」
俺は日記を通じて、誰よりもミアの事を知っている。
勇者として強い責任感を持ち、人々の平和の為に頑張り続けていた事
人々に不安を与えない為に、弱さを隠し、理想の勇者を演じ続けた事
救えなかった命は全て自らの弱さのせいだと背負い込んでいた事
大切な友達を想い、罪悪感を抱えながらも死ぬ瞬間まで身を案じ続けた事
家族、故郷を失い、絶望しながらも、勇者として戦い続けた事
恋愛結婚に憧れる、普通の女の子だって事も知っている。
「・・・・・・聞いていますか? 質問に・・・・・・」
そして何より・・・・・・本当は弱い彼女が望んでいた事を知っている。
勇者は世界の救世主
救世主が望んだのは
勇者が縋れる強い存在
勇者を守ってやる存在
勇者を救う存在
救世主だ。
「・・・・・・貴方が何者で、何の目的があるのか答えて下さい!」
俺は、救世主
ミアが・・・・・・勇者が望んだ救世主
ミアを救う為に、やって来た
ハッピーエンドが好きだから




