55 王都到着
王都に向かって9日目。
4つ目の鐘が鳴る時間を少し過ぎた頃、街道を外れて走っていた俺は、遠目に街を捉え、足を止める。
「ジャニス、あの街が王都か?」
「・・・・・・肯定・・・・・・ダイスケ・・・・・・ジーク・・・・・・西・・・・・・魔物・・・・・・再戦・・・・・・再会・・・・・・約束・・・・・・手合わせ」
「そうか・・・・・・わかった! 案内してくれてありがとな!」
「ダイスケ! 通訳してくれないと僕にはわからないよ!」
耳元で騒ぐジークに、ジャニスの言葉を通訳してやった。
あれは王都。
私はここで別れる。
西に取り逃がした強い魔物がいるから、再戦しに行かなければならない。
また会いましょう。
その時は手合わせをしてね。
約束よ。
こんな感じだ。
多分合ってる筈。
「理解したよ。やれやれ、ジャニスも普通に話せるんだから普通に話せばいいのに」
「・・・・・・拒否」
少し顔を赤くして、ジークを可愛がるジャニス。
ジャニスが普通に話せるという衝撃的な事実が発覚したのは、昨日の朝の事だ。
俺の膝を枕にして、気持ちよさそうに寝ていたジャニスが、目を覚まして眠そうに言った。
『ダイスケ、おはよう。手合わせしよう』 と。
『ジャニス? お前普通に話せるのか?』 と俺が驚きながらも訊ねると
『っ!・・・・・・ダ、ダイスケ・・・・・・夢・・・・・・勘違い』
明らかに焦って怪しかったので、正直に話さないと手合わせしないぞ? と軽く脅しをかけると素直に白状した。
『・・・・・・話せるけど、恥ずかしい。私・・・・・・物凄く人見知りで・・・・・・照れ屋だから』
人見知りで照れ屋なら、初対面の相手にいきなり襲いかからないと思うんだが・・・・・・まぁそれが理由であんな話し方らしい。
どうしても伝わらない場合は、頑張ってわかりやすい言葉を使うようにしているとの事だ。
その後手合わせをして、朝食を食べながらジークにその事を教えてやると
『ジャニス、僕には普通に会話したまえ! そうすれば・・・・・・』
『・・・・・・ジーク・・・・・・混乱・・・・・・理解不能・・・・・・愛でる』
『こらぁ! 誤魔化して・・・・・・ふむ、もう少し優しく撫でてくれたまえ』
ジャニスが惚けて、ジークを可愛がる事によって誤魔化していた。
そんな人見知りで照れ屋なジャニスともお別れだ。
出会いは中々最悪だったが、数日一緒に旅をして楽しかった。
手合わせも、色々勉強になった。
「ジャニスは強いから大丈夫だと思うが、無理はするなよ? また手合わせしよう! 約束だ!」
「ジャニス、僕の可愛さには中毒性があるから、気をつけたまえ!」
「・・・・・・・・・・・・またね」
いい言葉が思いつかなかったのか、普通にまたね、って言って物凄い速さで西へと走り去るジャニス。
「またねって言ったな」
「言ったね。まったく・・・・・・あの話し方だと、僕にはさっぱりだったよ。理解出来るのはダイスケくらいだろう」
「わかりやすかったけどな。さて、俺達も行こうか」
「精霊陣を設置しておこう。あまり近すぎても危ないしね」
「それもそうだな。街道に出るから隠蔽忘れんなよ?」
「お馬鹿なダイスケと一緒にしないでくれたまえ、よっと、設置完了」
街道に出た俺達は、目立たぬよう、歩いて王都へと向かった。
石造りの巨大な壁は、リンジャーの街より遥かに高く、街道に面した壁に設置された大きな門の周辺には、白銀の鎧を纏った兵士達が、魔物を警戒しつつ、検問を行っているようだ。
異世界っぽいなぁと、思いながらも、お約束の揉め事が頭に過ぎり、ドキドキしながら、列の最後尾に並び順番を待ち、程なくして俺の順番がやってきた。
「身分を証明出来る物を出せ!」
「あぁ、これでいいか?」
「ほぉ、見ない顔のAランクハンターだな? 名は何と言う? 滞在目的は・・・・・・聞くまでもないか。持ち物は、問題なさそうだ。通行税で銀貨1枚徴収する事になっている」
「ダイスケだ」
名を名乗って、銀貨1枚を払い、問題なく検査を終える。
色々考えていただけに、少し拍子抜けしたが、気にしない事にする。
揉め事もなく、王都へ入る事が出来るのだから。
門を潜ると、賑わう街並みではなく、石壁に囲まれた通路だった。
2方向に別れていて、どちらに進めばいいのかわからないので、前に歩く商人っぽい人の後を追う事にした。
暫く歩き続けていると、再び巨大な門があり、白銀の鎧を纏った兵士が腕を挙げると、ギィィッと門が開いた。
そして、門が開くと同時に聞こえてたのは・・・・・・
ワァァァァァァ!!
「・・・・・・様ぁ!」
「・・・・・・様ぁ!」
狂ったように声を張り上げる人々の歓声。
何事だ? と驚きながらも、開いた門を潜り抜けると、通りには多くの人々が溢れ、声を張り上げ続けている。
「勇者様ぁぁぁ!」
「勇者様ぁぁぁ!」
っ!・・・・・・勇者様?
勇者・・・・・・ミアがいるのか!?
何処だ? 何処にいる?
急な展開に戸惑いつつ、辺りを見渡すと、門から遠く離れた所に人々が集中している事に気付く。
近付こうとしても、人が多すぎて満足に動けない。
「ダイスケ、僕に名案がある。人がいない所まで移動するんだ」
周りに多くの人がいるのに、ジークが話し掛けて来た。
まぁこれだけ騒がしかったら誰にも聞かれてないか。
俺はミアが居ると思われる場所から遠ざかり、人がいなさそうな路地へと入った。
周りを確認すると人の姿も気配もしない。
「ジーク、名案って何だ!? 早くしないとミアが・・・・・・」
「少し落ち着くんだ。今勇者と会えたとしても、これだけ人がいるんだ。何も行動を起こせないだろ?」
「いや、関係ないだろ! 強引にでもミアを連れ去って、呪いを解いて、早くミラの所に・・・・・・いてっ、いてて、や、めろ! ハゲる!」
「君は阿呆か! そんな事をしたら大罪人として命を狙われるよ? 前話した事を忘れたかい? ダイスケはずっとこの世界で生きていくんだよ?」
うっ・・・・・・冷静に考えれば確かにそうだ。
ミアを救うのは勿論だが、国に命を狙われる事になる状況は避けたい。
ただでさえ、ミアを救っても全ての魔王を葬らないと駄目なんだ。
人間と敵対してる暇なんてないし、何より・・・・・・人間と争いたくない。
「すまん。もう大丈夫だ。愚かだったよ」
「冷静になったようだね。まぁでも勇者の姿くらいは確認しておいてもいいだろう。僕達は勇者の顔を知らないからね。でも人が多すぎて、容易には近づけないだろ? そこでダイスケの身体能力を使って屋根伝いに移動する。そうすれば勇者に近づけるだろう。でも問題がある。物凄く目立ってしまうって事だ!」
「なるほど、名案だ。でも、目立つ事は気にしなくてもいいんじゃないか? 今回はミアの顔を確認するだけで、事は起こさないんだろ?」
「甘いよ、今は起こさなくても、後々起こすのは確定だろ? 勇者に何かあれば国は大騒ぎして、そして原因を探る筈だ! 何故こんな事になったのか? 何か異変はなかったか、ってね。その際に、屋根を自由に移動するAランクハンターが居たって話になって怪しまれる可能性もあるよ? 検問もあったし、ダイスケだとばれてしまう可能性も高いよ。だから目立たない方がいい」
考え過ぎだと思うが、慎重すぎるくらいの方がいいか。
「わかった。それで目立たないようにする対策があるんだな?」
「そういう事だよ・・・・・・ククク」
ジークは不適に笑いながら、アイテムボックスを開いて、ある物を取り出した。
「・・・・・・ジーク、対策ってまさかこれの事か?」
「そうだよ! 僕の忌々しい過去の誤ちを打ち消す為に、これを装着したまえ! さぁ・・・・・・ぎゃふん」
俺は無言でジークに拳骨を食らわせた。
ジークがアイテムボックスから取り出したのは・・・・・・仮面だった。
ジークに唆されて大金を払って購入した・・・・・・呪いの仮面。
呪いを解呪で打ち消して、動物に好かれる効果のある事がわかった何の役にも立たない、白い狐の仮面。




