54 勇者エイミア=ランス
743年7月
【無事にヤンの村を魔物から守る事ができたけど、ミラ達の情報を得る事は出来なかった。私は勇者失格だと思う。人々を救えた喜びの気持ちよりも、ミラ達に再会出来なかった悲しみの気持ちの方が強いのだから】
「うぅ・・・・・・ミラ」
大切なお友達と優しい両親。
私のせいで人生を狂わせてしまった。
再会して謝りたい。
私を許してほしい。
王都を出て各地の村や街を魔物から守り一月以上が経つ。
訪れた村や街にはミラ達は居なかった。
「・・・・・・ミラ何処にいるの」
パタンと【白の本】を閉じ、瞳に溜まった涙を服の袖で乱暴に拭う。
私は弱い
心が弱い
情けない
勇者は人々の希望であり、全てにおいて強くなければいけない。
なのに私は、ミラ達や故郷の家族を考えるだけで、すぐ泣いてしまう。
故郷を出て7年、ミラ達と引き離されて2年・・・・・・私を勇者としてではなくエイミアとして見てくれる大切な人は傍にいない。
淋しい
辛い
悲しい
帰りたい
帰りたい
帰りたい
故郷に帰りたい
お父さんとお母さんとジースに会いたい。
お父さんに頭を撫でてもらって、お母さんに大好物のペリルの唐揚げを作ってもらって、ジースといっぱい遊んであげて、夜は皆で一緒に手を繋いで寝て、お父さんの鼾で夜中に起こされて・・・・・・
「うぅ・・・・・・帰りたい」
瞳に溜まった涙が頬に零れ落ちる。
帰りたい・・・・・・帰れない
私は故郷には帰れない。
魔王を全て倒し、世界が平和になるその時まで帰れない。
幼く無知だった私は誓ってしまった。
勇者として、人々を救い、魔王を滅ぼし、世界を平和にするその時まで、国に仕えると、誓約の儀式によって。
幼かった私は、その誓いがどれだけ重いものなのか理解出来ていなかった。
村を離れる時に、お父さんとお母さんが泣き崩れていた理由がわからなかった。
「お父さん、お母さん、どうして泣いているの? 私は勇者になるんだよ? 嬉しくないの?」
何もわかっていない私を優しく抱き締めてくれた、お父さんとお母さん。
今ならわかる。
お父さんとお母さんはわかっていた。
全てが終わるその時まで、会う事が出来ないと。
愚かな私が国に仕えるという意味を知ったのはミラ達が追放された直後の事だ。
ミラ達の後を追うと、王様に伝えると
「勇者様、誓約をお忘れですかな? 誓約により王族の許可なく王都を離れる事はできませんぞ?」
衝撃だった。
そんな話聞いてない。
勇者としての責任感があって、淋しいけれど、故郷には帰らず頑張って来た。
その気になれば、いつでも帰れると思ってた。
いつでも家族に会えると思ってた。
でも違った。
王族の命令がない限り、私は王都から出る事が出来ず、命令された場所以外には行けない。
もしも、命令に背けば恐ろしい事が起こるらしい。
それが私になのか、それとも家族になのか、わからない。
私は城の部屋に戻り、一晩中泣き続けた後、前向きに考えようと自分に言い聞かせた。
誓約はあれど、やる事は変わらない
魔物と魔王を倒して、世界に平和を
そうすれば、誓約なんて関係なくなる
今まで以上に頑張ればいい
ミラ達にも再会できる
故郷にも帰れる
私は勇者
人々の希望
世界に平和をもたらす者
弱気になる度に、言い聞かせる。
でも・・・・・・頭ではわかっていても、弱い私の心は耐えられない。
もしかしたら私には世界を平和にする事なんて・・・・・・魔王を倒す事なんて・・・・・・出来ないんじゃないか
そうすれば二度と・・・・・・
「うぅ・・・・・・嫌だぁ~」
大粒の涙がポロポロと頬へと零れ落ちていく。
「勇者様! そろそろ王都に到着します。準備をお願いします」
馬車の外の兵士から声が掛けられる。
中で私が泣いているとは知らずに。
窓の目隠しを僅かに動かし、外の様子を窺うと、私を縛る王都の姿が僅かに確認できた。
「ぐ、ぐすっ・・・・・・わ、わかりました。すぐ準備します」
私はいつもと同じように、大泣きして腫れてしまった目を【治癒】の魔法で治した。
泣いていた事を・・・・・・弱さを悟られるわけにはいかない。
涙で腫れた目を貴重な回復魔法で治すなんて、世界中で私だけだと思う。
情けない。
もう少しで王都に着く。
王都が嫌いなわけじゃない。
王族や偉い方は嫌いだけど、皆よくしてくれていると思う。
でも・・・・・・息苦しさを感じているのは確かだ。
ワァァァァァァァァァ!
辺りが騒がしくなってきた。
どうやら王都に到着したらしい。
前回帰還した時と同様に、勇者の帰還という事で、多くの人々が門の前に集まり、お祭り騒ぎになっているようだ。
「勇者様、外へとお願いします」
「わかりました。すぐ行きます」
私は勇者
人々の希望
私は勇者
人々の救世主
私は勇者
魔の天敵
私は勇者
誰よりも強い
偽りの私は、理想の勇者
本当の私は、弱い勇者
人々が望む勇者はどちらか?
ワァァァァァァ!!
「勇者様だぁぁ!」
「勇者様ぁぁぁぁ!」
「我らの希望!」
「我らの救世主!」
顔を引き締めた私は、馬車の外へと足を踏み出し、腕を軽く上げて歓声に応える。
「何て凛々しく、美しいんだ!」
「あぁ、勇者様ぁ〜、素敵」
「神々しい!」
「め、女神様じゃぁ!」
本当の私を封じ込めて、私は偽りの私を演じる。
人々の理想の勇者であり続ける為に。




