51 罪悪感が半端ない
困惑しながらも、俺はひたすら斬撃を避け続けるが、全てを避ける事は出来ず徐々に傷が増えていく。
襲撃者は強い。
速さは俺と同等かそれ以上で、素手の状態では反撃する事が難しい上に、二刀流だ。
斬撃に重みはない・・・・・・だが、確実に急所ばかり狙ってきている上に、得物が暗闇のせいもあって見えにく・・・・・・うぉ、危ねえ!
「・・・・・・惜しい」
「惜しいじゃねぇよ! 一体俺に何の恨みが・・・・・・ぬわぁ」
「・・・・・・惜しい」
咄嗟に屈み、低い態勢のまま横へと大きく飛び、距離をとる。
俺が顔を上げると同時に、ヒュンッと、風を切る音が聞こえ、複数の短剣が俺に放たれる。
襲撃者を視界に捉えながら、最小限の動きで躱し、幾つかを掴んで威嚇目的で投げ返し、その間に更に距離をとる。
「・・・・・・火炎弾・・・・・・火炎弾・・・・・・火炎弾」
「なっ!?」
俺の投げ返した短剣を、回避した襲撃者から、炎を纏った弾丸が数えきれない程放たれた。
「ダイスケ! 地面を本気で殴るんだ!!」
「っ! おらぁぁぁ!」
動揺し、硬直していた俺に後方からジークの声が聞こえ、俺は全力で地面を殴りつける。
ドォォォォォォォン!
すると、俺を中心として地面が数メートル程陥没し、大量の炎の弾丸が俺の真上を通過していく。
魔法をやり過ごした事を確認して素早く陥没した穴から抜けだした俺は、膝をついた襲撃者の姿を捉え、その隙に、ジークの元へと走る。
「ジーク、棒出してくれ! 素手じゃ厳しい」
「よいしょっと、みたいだね」
ジークから愛用の六尺棒を受け取り、襲撃者に突っ込む。
棒があれば、斬撃を受ける事ができ、反撃も出来るようになる。
まさか、人間相手に使う事になるとは思わなかったが、殺されるわけにはいかない。
「・・・・・・棒術・・・・・・愉快」
襲撃者が、凄まじい速さの斬撃を繰り出すが、俺は右からの攻撃を棒で受け止め、左からの攻撃を身を捻って躱し、ガラ空きの腹に、力を込めた後ろ蹴りを入れる。
「ガハッ!」
襲撃者が後方に大きく吹き飛び、木に衝突する。
派手に吹き飛んでダメージを与えたようにみえるが、手応えがなさすぎた。
恐らく蹴りを食らった瞬間に、自ら後ろに飛んで威力を軽減したと思われる。
ダメージなどまるでないかの様に直に立ち上がり、炎の弾丸を放ちながら俺に突っ込んで来た。
炎の弾丸を棒で払い落としつつ、両方の斬撃を棒で受け止め、再び蹴りを放つが、襲撃者が上へ跳び上がり回避される・・・・・・が、着地の瞬間を狙い鋭い突きを放つ。
ボキッ!
俺の突きが、襲撃者の左腕に命中し、骨が折れる鈍い音がした。
襲撃者は、苦痛の声を上げる事もなく、俺から距離をとる。
「おい、まだやるか? これ以上は・・・・・・」
「愉快愉快愉快愉快・・・・・・強い強い強い強い・・・・・・ダイスケ・・・・・・本気・・・・・・炎竜」
「なっ!?」
襲撃者が何か呟いたと思うと、俺の前に炎を纏った巨大な竜が現れた。
幻覚だと思いたいが、竜の炎によって森が焼けている。
魔法か? それとも、召喚魔法が存在して、本物の魔物って可能性も・・・・・・ちっ、考える時間もないってか!
竜が俺の方へと突進してきている。
巨大すぎて避ける事も難しいだろう。
ならばやる事は一つ。
叩き潰す! それだけだ。
俺は棒の端を右手で強く握り、背中に回して左手で反対の端を強く握り、対極に力を込めて維持し、気合いを入れる為に雄叫びをあげなから、竜に向かって突進する。
「ウオォォォォォォォォォォ!!!」
「ひっ、ひぃぃ! こ、声で殺されるぅ! ば、化け物ぉぉぉぉぉ!」
ジークが何やら叫んでいるが、よく聞こえない。
多分だが、竜に突っ込もうとしている俺の身を案じてくれているのだろう。
俺は足に力を込め、更に加速し、竜の目の前で高く跳び上がり、左手を棒から離し、渾身の振り下ろしの一撃を竜に叩きこんだ。
ドゴォォォォォォォォォォォォン!!
思惑通りに、竜を叩き潰す事に成功したが、凄まじい音と共に、爆発が起こり、吹き飛ばされる。
何とか空中で態勢を整え、着地する事に成功した俺は、辺りを見渡し、余程怖かったのか、座りこんで震えてるジークを発見する。
「ジーク? もう大丈夫だぞ?」
「ひっ、ひぃぃぃ!」
そんなに怖かったのか? ジークは精霊で、あらゆる攻撃を受けないんだから、怖がる必要なくないか?
怯えるジークをひょいっと掴んで、肩に乗せる。
「ジーク、大丈夫か?」
「はっ! 正気を失っていたようだ。すまないね。ところで襲撃者は?」
「そういえ・・・・・・ぬわぁ、しつこい奴だ! 俺が何したって言うんだよ!」
「・・・・・・感激・・・・・・称賛・・・・・・ダイスケ・・・・・・強い強い強い・・・・・・」
片腕をダラリと下げ、爆風で傷を負ったのか片足を引き摺りながら、襲撃者が俺に短剣を投げ、少しずつこちらへと近付いて来る。
満身創痍の状態で、尚も俺に襲いかかって来るなんて、恨まれすぎだろ!
「・・・・・・ダイスケ・・・・・・決着・・・・・・勝負」
殺すしかないのか?
殺せるのか?
襲われたとはいえ人間だぞ?
だが、ここで見逃せば、また襲ってくる可能性が高い・・・・・・それに、かなりの実力者だ。
何か間違えていれば、俺が殺されていた可能性も充分ある。
ミアを・・・・・・世界を救う為に、俺は殺されるわけにはいかない。
だが人間を殺す覚悟は俺にはない。
どうすれば・・・・・・
「あっ!」
「どうした?」
「・・・・・・雷撃」
「あっ! 忘れてた」
いきなり襲われた事と、相当な実力者だったので、俺もジークも心に余裕がなかったのだろう。
すっかり存在を忘れていた。
効果はダントンさんで証明済みだ。
「・・・・・・ダイ」
「【雷撃】」
ドサッ
何か言おうとしていた襲撃者に【雷撃】を放ち麻痺させる事により、無力化に成功した。
「ふむ、うまくいったね。それでどうするんだい?」
「すまん、俺に人間を殺す覚悟はまだない。だから殺さない。ここに放置したら、炎に焼かれて死んでしまうだろ? だから連れて行く」
「そう言うと思ったよ。とりあえず話は後にして、森から脱出しようか」
俺は麻痺した襲撃者に近付き、小柄な身体を抱き上げ、やっぱりかと溜め息を吐く。
戦闘中は、暗い上に余裕がなかったので顔がハッキリ見えなかった。
だが、時折発せられる声で何となく予想はしていた。
襲撃者は・・・・・・女性だ。
しかも美人さんだ。
「はぁ、襲われたとはいえ、こんな美人さんを傷つけて罪悪感が半端ねぇ」
「ふむ、女性だったのか? どれどれ・・・・・・中々綺麗な顔をしているね」
「ジーク、どっちに行けばいい?」
「おっと、王都はあっちの方角だ」
見渡す限り炎に包まれた森を、俺は全力で走り抜け、多少の火傷を負いながらも、脱出する事に成功した。




