50 襲撃者
「おぉ! 予想以上に美味い!」
「ふむ、美味だね」
今日の夕食は、昨日の雨のせいでお預けになったブルドラの肉を、村で購入したパンに挟んだブルドラサンドだ。
ボアサンドを真似てみただけなのだが、これが予想以上に美味く、食が進んだ俺とジークは、2人で30個程平らげた。
「ごちそうさん、ジーク地図を」
「満足満足。よいしょっと」
食後に、いつもと同じように地図を広げ、明日の進路を確認していると、ジークが「あっ」と何かを思い出したかのように声を上げた。
「どうした? 何か問題か?」
「いや、進路は何の問題もないよ。そういえばダイスケに魔法について話してなかったと思ってね。聞きたいだろ?」
魔法か。
魔法の才能がない俺にとっては余り関係ない話だが、まぁ知っておいて損はないだろう。
「そうだな。聞かせてくれよ」
「ふむ、仕方がないな。なら賢い僕がレムレールの魔法について教えてあげよう! 感謝したまえ!」
という感じで、ジークによる魔法講義が始まった。
「まず基本の火、水、風、土属性と特殊な光と闇の属性があってね、特殊な属性の・・・・・・」
うん、お馴染みの感じだな。
複雑じゃなくてよかった。
シンプルでわかりやすい。
闇属性は魔物が扱う属性っと! これは大事な事だな。
「・・・・・・なのだよ! 次に、生まれ持った魔力の量が多い程、使える魔法の幅が広がり、上級の魔法を扱える者になると・・・・・・」
成る程、異世界だからといって、誰でも魔法を使えるわけじゃないと。
強い魔法を使える者は数が少ないらしい。
まぁ、当然だな。
「・・・・・・であるからして、必然的に上級の魔法を扱える者は、重宝されるわけだよ! 僕の考えでは、地位の高い者や高ランクのハンターは、上級の魔法を扱える可能性が極めて高く、しっかりと対策を・・・・・・」
うん、もういいや!
大体わかった!
「ジーク! もういいぞ! 大体わかった!」
「こらぁ! ちゃんと最後まで聞きたまえ!」
「んな事言われても、俺に魔力の才能はないのわかってるだろ?」
才能がない俺が魔法を使えるのは、精霊王様のお陰だ。
今使える魔法とステータスにまだ表示されていない魔法を除けば、新しく魔法を使う事は出来ないだろう。
才能がないからな。
「勿論わかっているよ? ダイスケにレムレールの魔法を扱う事は出来ないだろうが・・・・・・ダイスケ? まさかとは思うが、君は魔物だけが敵だとは考えていないよね?」
「人間と争う可能性があると言いたいのか? 何でそんな考えになるんだ? 敵は人間ではなく魔物だろ?」
「やれやれ、甘いねダイスケ。確かに基本的には魔物が敵だろう。だがね、何処の世界にも愚かな人間というのは存在するのだよ。勇者を世界を救う為には、そんな甘い考えじゃ駄目なのだよ。あらゆる事態を想定して、対策しなければならない。魔法を知る事も対策になるのだよ」
「あらゆる事態って例えば?」
「ふむ、例えばね・・・・・・ダイスケはAランクハンターで強いだろ? 強さに飢えた戦闘狂が腕試しに襲ってくるかもしれないよ?」
ぷっ、ジークの奴、何を言い出すかと思えば・・・・・・戦闘狂って。
「ぷっ、ジーク、本気で言ってるのか? 強い奴と戦いたかったら高ランクの魔物と戦えばいいだろ? なんでわざわざ人間と戦うんだよ」
「むっ、馬鹿にしてるだろ! 強い人間と戦った方が得るものが多いって考える人間もいるかもしれないじゃないか! だから、魔法に関してしっかり把握して対策を・・・・・・」
「はいはい、わかった、わかった。考えとくよ。それで大精霊様? 他に人間と戦わなければならない事態はありますか?」
「まったく・・・・・・本当にわかったのかい? まぁいい。痛い目見るのはダイスケだからね。僕が現実に起こりえる可能性が最も高いと思う事態は、勇者を救う事によって僕達が国と対立する事になるかもしれないって事だ! 国も思惑があって誓約で勇者を縛っているのだろう。それを僕達は解こうとしている。何があってもおかしくない」
何!?
馬鹿にするつもりで訊ねたが、先程の戦闘狂と違って、現実的だ。
日記を読んだ限り、アストリア王国の王は愚か・・・・・・最終的にミアを裏切ったし間違いないだろう。
何を考えて誓約でミアを縛っているかはわからないが、誓約から解放した時に、問題が起こる可能性はジークの言う通り高そうだ。
「揉め事がなければそれが一番いいんだけどね。でも僕達の行動次第では、勇者を救って、魔王を倒したのに、国から命を狙われるって可能性もあるんだよ。そうなってしまえば、身を守る為に人間と戦わなければならないよ? 僕達・・・・・・ダイスケは、もう元の世界には戻れない、この異世界レムレールで生きていかなければならないんだから」
相変わらず深すぎる意見だ。
俺は後の事なんて何も考えていなかった。
ミアを救って、魔王を全て倒して世界を救う。
その為に、手段は問わないつもりだったが、その後も俺はこの異世界で生きていくんだ。
俺が善と思った行動も他者からすれば悪になるかもしれないわけで、恨まれる可能性もあって、そうならない為には、物事を常に客観的に・・・・・・うーん、難しい!
「ククク、悩んでいるね? まぁ全てがうまくいく事は難しいが、恨みを抱かれない名案は用意しているよ? 時がくれば教えてあげよう。だから今は深く考えなくてもいいよ。誓約が呪いだと信じて、勇者を救う事だけを考えておけばいい」
「名案か・・・・・・わかった。今はミアを救う事だけを考えよう。他の事はその後考える事にする!魔法についてもな。真面目に聞かずに悪かったな」
「わかってくれればいいのだよ。さてと、ダイスケ? 貴重な意見だったろ? 僕に渡す物があるんじゃないか?」
「あぁ、色々考えさせられたよ。ほら受け取れ」
ジークにキャンディを1個渡すと、嬉しそうに受け取り、俺の膝の上に移動してきた。
偉そうな帽子も、脱いでいる。
これは頭を撫でて可愛がれという事だ。
「ガキンチョめ! ありがとな!」
「フハハハハハァァァ! もっと撫で撫でしてくれたまえ!」
暫くジークの頭を撫でた後、俺は目を閉じ、周囲に魔物の気配がないかを探る。
今日寝床に選んだ場所は、見通しのいい場所ではない。
森の中という事もあり、死角のない場所が発見できず、仕方なく選んだ場所だ。
意識を集中させ、魔物の気配を探っていた俺は、違和感を感じる。
静かすぎるのだ。
元いた世界と同じくレムレールの季節は夏・・・・・・虫の鳴き声すらしない。
一体何が? と首を傾げていると、遠くの方から微かに音が聞こえたような気がした。
「ん? ジーク? 何か聞こえなかったか?」
気のせいかもしれないが、違和感を感じていた事もあり、ジークに訊ねてみると
「ふわぁ、何も聞こえないよ。僕は眠いからそろそろ・・・・・・」
「っ!? ジーク! 悪い!」
ジークが眠そうに喋っている途中に、後方から凄まじい殺気を感じた俺は、咄嗟に膝の上のジークを放り投げ、転がるようにその場を離れる。
「うわぁぁぁぁぁぁ」
ジークの間抜けな声が暗闇の森に響き渡る。
俺が受身を取り、素早く顔を上げると、真紅のマントを纏った何者かが、空中を反転していた。
音もなく着地した何者かはじっと俺を見据えて微動だにしない。
「おい! いきなり何するんだ!」
「・・・・・・ダイスケ」
「何で俺の名を? 何処かで会った・・・・・・」
「・・・・・・勝負」
「ぬわぁ! ちょっと落ち着けぇぇ」
突然の事に困惑する俺に、容赦無く襲いかかる真紅のマントの襲撃者。
俺は後方に跳び、難を逃れようとするが、想像以上の斬撃の速さに、右腕を斬りつけられる。
「っ!」
「・・・・・・流石・・・・・・本気・・・・・・死」
何故襲われているのか理解出来ぬまま、俺と真紅のマントの襲撃者の戦いが始まった。




