49 捕捉
くぅー
くぅー
くぅー
俺が風呂に入っている間に、恐らく余計な事を話した馬鹿精霊が、アホ顔で眠っている。
「まぁ! 可愛いわねぇ! ダイスケ君、ジークは私達と寝るから連れて行くわね!」
「わかりました! すいません、寝床まで用意してもらって」
疲れも溜まっている事だし、早く休もうと家を出ようとしたが、どうやら俺達を泊めてくれるつもりだったようで、お言葉に甘える事にした。
食事の事もあるので、幾らか支払おうとしたが、メアリーさんの無言の圧力に屈して、払えなかった。
その際、皆に笑われたのは謎のままだ。
「ダイスケ! 明日起きたら軽く手合わせしてくれや!」
「わかりました! でも手合わせですよ? 前みたいのは勘弁です」
「ガハハ! わかってらぁ! 反省してるから安心しろ! じゃあ明日な!」
メアリーさんとダントンさんが、ジークを連れて寝室へと向かう。
居間に残された俺は、水を飲みながら、これからの事を考えていた。
先程聞いた話では、魔物の襲撃はまだ先らしいが、少しでも数を減らす為に、定期的に村のハンターを連れて、周囲の魔物を狩っているらしい。
ちなみに、俺達が魔物の襲撃の際、村を守ろうとしている事は勘付かれていた。
まぁ、普通に考えればわかる事だ。
隠すつもりもなかったし、問題はない。
王都までどのくらいかかるかは、ダントンさん達に訊ねたが、わからなかった。
村を経由せず、道無き道をひたすら進んでいる為、現在地を把握出来ていないのが原因だ。
間違った方向に進んでなければいいが、ジークの方向感覚を信じるしかない・・・・・・俺は方向音痴だし。
「あ、ダイスケ君。皆もう寝ちゃったのです?」
「あぁ、そうみたいだ」
頬を上気させ髪がしっとりと濡れたミラ・・・・・・どうやら風呂上がりのようだ。
「・・・・・・ダイスケ君、聞いてもいいのです?」
「ん? 何だ?」
「ダイスケ君達は王都に向かってるのです?」
「あぁ、そうだ。目的は話せないけどな」
俺の言葉を聞いたミラが何故か黙り、難しい顔をしている。
「ミラ? どうした?」
「あっ、ごめんなさいなのです! ダイスケ君・・・・・・お願いがあるのです」
「お願い? 俺達に出来る事なら大丈夫だが、何だ?」
「・・・・・・もし、王都で勇者に会う機会があれば、出発までに手紙を書くので渡して欲しいのです」
そういう事か。
ミラと勇者の・・・・・・ミアの関係は日記によって把握している。
王都を追放されたミラ達は、王都に戻る事が出来ず、会う事が出来ない。
だが、俺達が王都に行くならば、勇者に会える可能性があり、手紙を渡す事によって、無事を伝えたり、居場所を伝える事も出来る。
「わかった! 手紙を勇者に渡せばいいんだな?」
まぁ、ミアを救うために王都に行くんだから、問題ない・・・・・・ってか事が上手く進めば、村に連れてくるつもりだしな。
「本当なのです!? ありがとうなのです!」
「あぁ、任せとけ!」
うん、笑顔が素敵です。
「早速手紙を書くのです! あっ、ダイスケ君は、早く寝るのです。旅の疲れがとれないのです」
「そうだな。じゃあ部屋に戻るよ」
「はいなのです。また明日なのです」
「あぁ、また明日」
精霊陣が設置してある部屋に戻った俺は、用意してもらった布団に横たわり、目を閉じた。
翌日は早朝から、若干殺気を纏ったダントンさんと手合わせをして、朝食後をご馳走になってから、ミラの案内で村の市場へと食料を買い込みに行った。
ボアサンドが欲しかった所だが、残念な事になく、昨日の食事にも出たペリルの唐揚げや、パンを買い込む事にした。
ミラの家へと戻り、前回と同様の大量のお弁当と、ミラからミア宛の手紙を受け取り、ジークを起こす。
「ジーク、そろそろ起きろ! 出発するぞ!」
「ふわぁ、わかったよ! 行こうか」
ジークは朝食を食べてから今まで二度寝していた。
旅の疲れが溜まっていたんだろう。
「じゃあ、精霊陣を設置してくれ」
「おっと、そうだったね。よっと!」
空き部屋に新たに精霊陣を設置して、準備完了だ。
これでまた村へと戻って来る事が出来る。
「それじゃあ行ってきます! 色々お世話になりました!」
「世話になったね。数日の間に僕の舌を更に満足させる料理を研究しとくんだよ?」
「気にしなくていいのよ? ふふふ、ジーク? 私も本気を出すわよ?」
「大丈夫だとは思うが気をつけてな」
「ダイスケ君、ジーク、無理したら駄目なのです! いつでも帰って来るのです」
ミラ達に見送られ、俺達は再び旅へと戻った。
***********
「・・・・・・面白い」
視界を遮るものが存在せぬ荒野の片隅で、原形を留めていない魔物の死骸を見つけた真紅のマントを纏った彼女は、ポツリと呟いた。
「・・・・・・一撃・・・・・・武器・・・・・・素手・・・・・・強い」
魔物の死骸を観察し、どのようにして殺したのかを分析し終わると、鼻を鳴らし、立ち上がった。
「・・・・・・近い・・・・・・僅か」
行く手を遮る魔物を、腰に携えた二対の小太刀で仕留めながら、移動を続けていた彼女は、ふと足を止め、天を見上げる。
「・・・・・・雨・・・・・・厄介」
リンジャーの街から、匂いを辿って獲物を追い続ける彼女にとって、匂いを流す雨は厄介だった。
完全に匂いが流される前に出来る限り獲物に近付かなければと考えた彼女は、不眠不休の疲れ切った身体に鞭をいれ、更に足を急がせる。
やがて夜が明け、僅かな仮眠と食事をとった彼女は、鼻を鳴らし、呟く。
「・・・・・・匂い・・・・・・強い・・・・・・近い」
強くなった獲物の匂いに僅かに表情を緩め、再び走り出す。
徐々に濃くなる強者の匂い。
道に転がる魔物の死骸を調べると、殺されてから時が余り経っていないようだ。
そして彼女は匂いの異変に気が付く。
先程から獲物の匂いに混ざり、肉の焼けた匂いがする事に。
「・・・・・・肉・・・・・・飯・・・・・・好機」
獲物が食事の為に休憩していると判断し、足を急がせる。
日もすっかり沈み、辺りが薄暗くなっていく中、彼女はピタリと足を止めた。
腰に携えた二対の漆黒の小太刀を軽く握り、胸の前で交差させる。
グッと足に力を込め、無表情な彼女の口元が大きく歪む。
「・・・・・・捕捉」
ダァァァァン!
凄まじい速度で、獲物に向かって突撃する。
「ん? ジーク? 何か聞こえなかったか?」
「ふわぁ、何も聞こえないよ。僕は眠いからそろそろ・・・・・・」
「っ!? ジーク! 悪い!」
「うわぁぁぁぁぁぁ」
交差させた小太刀で獲物を切り裂こうとしたが、獲物に勘付かれ躱されてしまう。
彼女は突撃の勢いのまま、正面にあった木を蹴り、クルリと身を反転させて獲物と向き合う。
「おい! いきなり何するんだ!」
「・・・・・・ダイスケ」
「何で俺の名を? 何処かで会った・・・・・・」
「・・・・・・勝負」
「ぬわぁ! ちょっと落ち着けぇぇ」
彼女は困惑する獲物に再び斬りかかった。




