44 ダイちゃんって呼ぶな!
ハンターギルドの2階にある豪華な扉の前で立ち止まった美人さんは、俺に「少々お待ち下さい」と言って扉を叩いた。
コン
コン
「はぁ~い、誰かしら?」
「ルカです。マスター、ダイスケ様をお連れしました」
「やっとぉ~、見つかったのね~、入って~」
どうやら美人さんはルカというらしく、声で判断するに、ギルドマスターも女性のようだ。
「はい、失礼します! ダイスケ様お入り下さい」
ルカさんの後に続き、部屋に入ると、豪華な机に肘をつき、気怠そうな顔をした女性がいた。
「はじめまして~、私はねぇ~、このぉ~ギルドの長ナユルよ~、長でもマスターでも、ナユルでも好きに呼んでちょうだいね~」
「はじめまして、ダイスケです。お呼びと聞きましたが・・・・・・」
「そうよ~、話があるのよ~。とりあえずルカありがと~、ご苦労様」
「はい、それでは私は業務に戻ります」
ルカさんが部屋を退出し、部屋には俺とナユルさんだけになった。
「とりあえず~、座ってちょうだいね~、お茶くらいだすからね~」
俺は近くのソファーに座り、お茶が出されるのを待つ。
「は~い、どうぞ~。あら~、近くで見ると中々良い男ねぇ~」
「えっ、い、いや、ちょっと! ち、近いです!」
お茶を出して、俺の目の前まで顔を近付けるナユルさんに動揺した俺は、ソファーの端に移動して距離を取る。
「あら~、女慣れしてないのかしら~、可愛いわね~」
そんな事を言いながら俺の横に座り、お茶を啜るナユルさん。
「あ、あの、時間が余りないので、何か話があるなら・・・・・・」
「せっかちねぇ~、そんなせっかちだと~、女の子にもてないぞぉ~」
俺が時間がないと言っているのに、無視して、微笑みながら俺の身体をペタペタ触るナユルさん。
ナユルさんは多分マイペースで人の話を余り聞かないタイプの人だ。
強く言いたい所だが、何か言いにくい。
さっさと街を出たいのに、厄介だ。
「うふふ~、困ってる~困ってる~。可愛いわね~」
あぁ、ジーク助けてくれ。
俺のスキルではこの場から強引に去るのは無理だ。
ナユルさんは垂れ目のオットリ系美人さんで、腕も細い。
胸はミラ程ではないが、中々の破壊力が・・・・・・おっとそんな事は今はどうでもいい。
とにかく、力尽くで引き離して、部屋から出るのは俺には無理!
ギルドとの関係が悪化とかそんな事関係なく、わからんが無理だ!
「いじめすぎたわ~、可愛いんだも~ん。ごめんなさいね~」
「い、いえ、そ、それで俺に何か話があるんですか?」
「そうよ~、あのね~、ダイちゃんはね~、Aランクでしょ~?それでねぇ~」
・・・・・・ダイちゃんって。
ジークが笑いを堪えているのがわかる。
畜生! 絶対後で馬鹿にされる。
「ちょっと~、聞いてる~?」
「は、はい! 聞いてます!」
ナユルさんの話を要約すると
登録と同時にAランクになったのは過去に例がなく、俺の生い立ちや、登録前に魔物をどれだけ倒したかを知りたい。
Aランクハンターは貴重な存在で数が少なく、お偉いさんから声が掛かる事があるから、状況に応じて臨機応変に対応する事。
目をつけられると厄介な事になる可能性が高いらしい。
俺はとりあえず、山奥で育った田舎者設定を説明し、強さに関しては、他界したじいちゃんに鍛えてもらったと説明した。
登録前に倒した魔物はCランクとDランクの魔物をそこそこの数と、後はBランクのブルドラを倒したと話した。
これは事実で嘘じゃない。
「あら~、ブルドラを倒したの~? ダイちゃんつよ~い」
「あっ、は、はあ。あ、あの話はもう終わりですか?」
「そんなに私から逃げたいの~? ひど~い!」
「い、いや、そういう訳じゃ」
だぁぁぁ!
ジーク、ジーク様ぁぁぁ!
助けてくれぇぇぇ!
「うふふぅ~、冗談よぉ~。もう話は終わり~」
「そ、そうですか、じゃ、じゃあ、お、俺はこれで・・・・・・」
「はぁ~い、ありがとぉ~」
た、助かった!
ナユルさんの気が変わらない内に早く部屋から逃げ・・・・・・出よう!
「じゃ、じゃあ失礼します!」
「ねぇ~、また会いに来てくれるぅ~?」
「は、はい! ギ、ギルドに顔を出す時には、か、顔を出すようにします!」
「うふふぅ~、約束よぉ~」
「は、はい! 約束します! それでは」
「はぁ~い、またねぇ~」
足早に部屋から出た俺は、やっと、ナユルさんから解放された事に安堵して息を大きく吐き、ギルドを後にした。
職人街で予め決めていた、調味料、水、寝具を購入して準備完了っと。
魔石を売った事により、金銭に余裕が出来たし、全て購入する事が出来た。
本当は服も欲しかったが、売っている店が見つからなかったので今回は諦める事にした。
まぁどうしても必要な物じゃないし問題ない。
「おっちゃん、出来てるか?」
「おぅ、兄ちゃん! 出来てるぜ! ほらよ! また来てくれよな!」
「あぁ、また来るよ! ありがとう!」
熱々のボアサンドを受け取って準備万端だ。
出発するには微妙な時間だが、ナユルさんによってロスした時間を少しでも取り戻したい。
という事で、今夜は野宿する事にして街を出て、王都へと向かう事にした。
再び精霊陣が設置されている草原へと戻った俺はジークに話掛ける。
「ジーク、遅くなったが行こうか!」
「ふむ、そうだね、ダイちゃん! ぷぷっ」
この野郎ぉ! 馬鹿にしやがって!
やっぱり俺が困っているのを楽しんでやがったなぁ!
「くっ、ジーク、王都はどっちだ?」
「ぷぷっ、あっ、あっちだよ、ダ、ダイちゃん? ぷぷぷっ」
「ダイちゃんって呼ぶなあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺の魂の叫びが、草原へと響き渡った。
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「マスター、ルカです!」
「はぁ~い、どうぞ~」
ダイスケがギルドを出て、少し経った頃、ルカがナユルの部屋を訪れた。
「マスター、本部から通知が届きました」
「えぇ~、また面倒ぉ~な事だったら~どぉ~しよう」
面倒臭そうに、通知に目をやったナユルは、その内容を把握し、はぁ~、と大きな溜息を吐いた。
ナユルの様子を見ていたルカは、苦笑いしながらも口を開く。
「マスター、厄介事ですか?」
「ジャニスがねぇ~、ダイちゃんを~捜してるらしいわぁ~」
「なっ!? あ、あの、戦闘狂のジャニス様がですか!?」
「そうよぉ~、ダイちゃんの事は~、各地のギルド長に通知されているわぁ~、何処かで情報がぁ~漏れたのよぉ~」
「ダ、ダイスケ様に知らせないと!」
「それがねぇ~、急いでいたからぁ~、多分街にはもう居ないと思うわぁ~、一応捜すけどねぇ~。はぁ~、面倒臭いわぁ~」
「す、直ぐに、ダイスケ様を捜すように手配します!」
慌ただしく、部屋から退出したルカを無言で見送り、ナユルは夕暮れに染まる街並を眺めながら、眉間に皺を寄せ呟いた。
「ジャニスかぁ~、ダイちゃんも運がないわねぇ~」
戦闘狂のジャニス。
最年少でSランクハンターになった戦いの天才。
多くの魔物を殺戮する英雄だが、魔物だけではなく、強者ならば人間であろうとも、戦いを挑む、ハンターギルドの3大問題児の1人だった。
「はぁ~」
ナユルは再び大きな溜息を吐き、ダイスケの身を案じた。




