39 母と娘
「ミラちゃん、入るわよ」
「あ、あぅ、お母さん」
ダイスケ達が立ち去った後、メアリーは泣き出してしまった娘を心配して、娘の部屋を訪れると、布団に包まり、大粒の涙を零す娘の姿があった。
「よしよし、ミラちゃんはダイスケ君と離れたくないのよね?」
「うぅ、そうなのです。離れるなんて嫌なのです。寂しいのです」
メアリーは優しく娘を抱き締め、頭を撫でて泣いている娘を落ち着かせる。
ミランダは先程の会話から、ダイスケ達が村を出るつもりだと理解し、気持ちが抑えきれず意図せず涙してしまった。
「で、でも、わかっているのです。ダイスケ君達は神様の意思によってやらなければならない事が、きっとたくさんあるのです。わかっているのです。でも・・・・・・それでも」
「そうね。頭ではわかってはいても、心は・・・・・・感情は抑えきれるものじゃないわ。ふふふ、ダイスケ君も罪な男ね。こんな可愛いミラちゃんを泣かせるなんて」
「ダ、ダイスケ君は悪くないのです! わ、私が勝手に好きになって、それで・・・・・・弱いから駄目なのです。ダイスケ君は凄い優しいのです。きっと今頃私の事を心配してくれてるのです」
自分が弱いばっかりに、感情を抑えきれず涙してしまい、その様をダイスケにみられ、困惑させてしまった。
ダイスケの優しさを、共に過ごした数日で理解しているミランダは、ダイスケに、余計な心配をさせてしまっている事を理解していた。
「ふふふ、そうね。きっと物凄く心配してくれてるわね。でもダイスケ君はミラちゃんが何故泣いているのか、理解できないでしょうね。ミラちゃんの気持ちにも気付いてないだろうし」
メアリーは娘と同様に、ダイスケがそういう面では酷く疎いと、判断していた。
娘がダイスケといる時の仕草や表情をみれば、想いを寄せているのは一目瞭然だ。
出会った瞬間に一目惚れして、それに気付かぬ初心な娘は、端からみれば、丸分かりな態度や表情をしていたに違いない。
それにも関わらず、ダイスケの様子を見る限り、娘の気持ちには、全く気付いていない。
「あぅ、気付かれたら恥ずかしくて顔を合わせられないのです」
「普通は気付くと思うわよ? ミラちゃんとってもわかりやすいんだから」
「うぅ、そうなのです? そんなにわかりやすいのです?」
「大好きオーラが半端ないわよ? ダイスケ君が鈍くて助かったわね」
「こ、これから気をつけ・・・・・・でも、もう会えないかもしれないのです」
「ミラちゃん、ダイスケ君は村に戻って来ると思うわよ」
「えっ? 本当なのです!?」
メアリーは、ダイスケが村を出ていったとしても、戻って来る可能性が高いと推測していた。
誓約について何故聞かれたのかは、理解できないが、魔物の襲撃の情報を求めた理由を理解していたからだ。
「えぇ、魔物の襲撃について聞いてきたでしょ? 多分ダイスケ君とジークはね、魔物から私達を・・・・・・村を守るつもりなのよ。だから、近々村を出たとしても一月で戻って来ると思うわ」
「そ、そんな・・・・・・また会えるのは嬉しいのです。でもお世話になりっぱなしなのです」
「そうねぇ、でもね、ダイスケ君はミラちゃんじゃなく、ライラを救って、ライラの両親を救う為に、無理をして村まで運んでくれたのでしょ? 結果的にダイスケ君達が捜していたミラちゃんと私達を救う事になったけどね、それは結果であって、その過程はダイスケ君達が言う神様の意思とは関係ないわ。ミラちゃん、私が何が言いたいかわかる?」
メアリーの言葉を聞き、ミランダは考える。
ダイスケが自分をライラではなくミランダと知ったのは、アーデル村に着いてからだ。
ジークにしても、村に来る途中で知った訳で、あくまでもミランダではなく、ライラを救い、ライラの両親を救う為に、全力で走り続けた訳で。
メアリーの言う通り、その行動に神様の意思は関係ないと思われる。
では何故助けてくれたのか?
ミランダは頭を働かせるが答えに辿りつけず、メアリーに訊ねた。
「わからないのです。何が言いたいのです?」
「簡単に言えばね、ダイスケ君とジーク・・・・・・いえ、多分ダイスケ君の考えね。ダイスケ君はね、困っている人は見捨てられないお人好しなのよ。ふふふ、珍しいわよね? 若くしてAランクハンターで実力もある強者がお人好しだなんてね、変わった子よね」
「ふふ、確かにそうなのです。ダイスケ君は優しくて、お人好しなのです」
沈んでいた娘に笑顔が戻り、メアリーは優しい微笑みを浮かべた。
「ふふふ、だからね、お人好しなダイスケ君は魔物の襲撃があるとわかっている村を見捨てる事が出来ず、戻って来ると思うわ。私達が何を言ってもね。それに神様の意思で私達にも何か役割があるらしいから、それも考慮すると更に可能性は上がるわね。だからミラちゃん、元気だして。ミラちゃんが元気ないとダイスケ君に心配かけて迷惑かけちゃうわよ?」
「あ、あぅ、迷惑はかけたくないのです。わかったのです! でも寂しいのです」
「ミラちゃん、それが恋なのよ。ダイスケ君と離れたくないなら、振り向いてもらってダイスケ君の特別な人にならないとね」
「と、特別な人!? そ、そんな、私とダイスケ君が・・・・・・あぅ~」
「大丈夫よ! ミラちゃんは可愛いんだから! きっとダイスケ君もミラちゃんに夢中になるわ! 私も協力するから頑張りましょう!」
「ダイスケ君が私を・・・・・・が、頑張るのです!」
「そうよ、元気が出てよかったわ。もう大丈夫ね? 私はダントンが反省したか見てくるから」
「はいなのです! お母さんありがとうなのです!」
元気になった娘に見送られ、部屋を出たメアリーは、醜い嫉妬によって、娘の初恋をぶち壊そうとした愚かな旦那の様子を見に、家の外へと向かった。
ううううぅぅぅぅ
ううううぅぅぅぅ
ううううぅぅぅぅ
「うるさいわよ! 反省したかしら?」
ううううぅぅぅぅ
ううううぅぅぅぅ
ううううぅぅぅぅ
「全く、わかってはいると思うけど、ダントン、次はないわよ?」
ううううぅぅぅぅ
ううううぅぅぅぅ
ううううぅぅぅぅ
「【氷牢】解除!」
メアリーが不気味な呻き声をあげる氷の彫像に向けて手を翳し、魔法を解除すると、氷が溶け始め、数分経つ頃に寒さに身を震わすダントンの姿があった。
「メ、メアリー、お、俺がわ、悪かった! は、反省してる! 二度としないと誓う!」
「ふふふ、わかればいいのよ? ほら、さっさとお風呂に入って身体を温めてきなさい。風邪引くわよ?」
「お、おう! っと、メ、メアリー、あ、足がいうことを効かねえから、肩かしてくれぇ!」
「はいはい、わかったわよ」
「助か・・・・・・くしゅんっ!」
メアリーの罰により、冷えきった身体を風呂で温めたものの、結局高熱でうなされたダントンは翌日の朝まで眠りについた。




