38 誓約の儀式と契約の儀式
「そうだ、メアリーさん、お聞きしたい事があるんです」
ダントンさんが、襲ってきた理由を追求する事を諦め、難を逃れた俺は、元々聞こうと思っていた事をメアリーさんに訊ねる事にした。
「なぁに? 私がわかる事ならいいんだけど」
「誓約についてです。知っていますか?」
「えぇ・・・・・・知っているというか、知らない方が珍しいわよ?」
「お母さん、ダイスケ君は山奥に住んでいて常識に疎いのです!」
誓約は誰もが知っているものらしく、何故そんな事も知らないのか? と怪しまれている気がしたので、常識に疎い事を説明しなければと、口を開こうとすると、ミラが説明してくれた。
ミラは、俺が矛盾しないように浅はかに決めた、山奥から出てきた常識に疎い田舎者設定を覚えていてくれたようだ。
「山奥ねぇ・・・・・・まぁいいわ。誓約っていうのはね、代々王家に伝わる誓いの儀式よ。古から存在しているもので・・・・・・」
誓約の儀式は古から王家に伝わっていて
どの様に生まれたのか
魔法なのか
謎だらけの儀式らしい。
王家への忠誠を誓う為によく行われるらしく、誓いを破ってしまうと、想像も出来ないような恐ろしい不幸がその身に舞い込むといわれている。
ただこの儀式は強制ではなく、王家と本人が同意した上で行われる。
基本的には、国に仕えるお偉いさんや、騎士達が行うらしい。
王家への反逆を防止する為の手段でもあるってわけだ。
それと、もう一つ、同じような儀式が存在する。
契約の儀式
これは誓約の儀式とは違い、強制的に行われるらしい。
主に、犯罪者等に適用され、破れば死に至る呪いの儀式。
契約の儀式なら、恐らく呪いの一種であり、解呪で問題はなく解決出来ると思われるが、誓約はどうなんだ?
互いに同意した上で行われる儀式、果たして呪いなのか・・・・・・それとも他のものなのか。
ミアは誓約の儀式を行ったと思われる。
強制ではないなら何故? と疑問も残るが、情報的には充分だな。
「メアリー、わかりやすい説明感謝するよ。それとね、アーデル村周辺の魔物の状況も教えてもらっていいかな?」
ジークも充分だと判断したのか、俺達が必要とするもう一つの情報に話題を変えるようだ。
「魔物? そうね、ダントンが昨日調査した話を聞いた感じだと一月は襲撃はないと思うわよ」
「ふむ、メアリー、その調査はどのくらい正確なんだい?」
「あらあら、真面目な顔しちゃって可愛いんだから。そうね、ここ数年の傾向から言ってもほぼ間違いないわね。そもそも・・・・・・」
メアリーさんの話を纏めると
ここ数年、魔物の群れがアーデル村を襲撃する時は必ず前触れがあり、俺達が村に来る途中に休憩をとったアーデル湖周辺にとんでもない数の魔物が集まるらしい。
その数は数百体に及ぶとの事。
但し、多くは低ランクの魔物で、FランクとEランクの魔物が大半を締め、群れのボス的な立ち位置で高ランクの魔物が数体いるらしい。
ダントンさんが昨日調査して、湖の周辺の魔物の数から、一月は襲撃はないと判断したそうだ。
数年間魔物の襲撃を退け、村を守り続けてきた事から、大きな誤差はないと思われる。
ちなみに、アーデル村に戦える者はハンターを含め200人程。
Aランクハンターであるダントンさんとメアリーさんが、その者達を率い、高ランクの魔物を仕留める事で、村を守ってきたらしい。
だが、前回の襲撃で想定外の事が起こった。
今までは、高ランクといってもCランクやBランクだった魔物の群れのボスが、Aランクだった事だ。
想定外のAランクの魔物が現れ、何とか撃退する事は出来たが、殺せてはいない・・・・・・つまり、次の襲撃にもAランクの魔物が群れを率いている可能性が高いとの事。
「ふふ、安心しなさい。2度も不覚を取るつもりはないわよ。ダイスケ君とジークが救ってくれた命・・・・・・無駄にしないわ」
「お母さん、無理はしては駄目なのです」
「ふふふ、ミラちゃん心配してくれてありがとう。でも大丈夫よ」
とりあえず魔物の襲撃は一月の猶予が・・・・・・いや、もしもの事があるかもしれないから半月だと思っておこう。
半月で王都に行って、戻ってこれるか?
「メアリー、この村から王都まではどのくらいの距離だい?」
ジークも俺と同じ事を疑問に思ったらしい。
頼りになる相棒だ。
「王都? そうねぇ、馬車で半月って所だから徒歩だと一月ね」
「なるほどね・・・・・・ダイスケ、必要な情報は揃った。後で話そう」
ジークが小声で俺に囁いたので、俺は無言で頷き、了承の意を伝えた。
誓約の儀式に契約の儀式。
呪いならば問題なく、呪いじゃなければ、また他の手段を考えなくてはいけない。
魔物の襲撃の情報も、大方把握できたし、王都までの距離もわかった。
徒歩で一月・・・・・・全力を出せばおそらくは半月程で辿り着けるだろうが、かなりの強行策になるだろう。
リンジャーからアーデル村まで僅かな休憩で、全力で走り続けた結果7日かかる道程を2日まで短縮できたが、ジークに無理をさせたし、俺自身も限界寸前だった。
帰りは精霊陣をアーデル村に設置しておけば何の問題もないが、どちらにせよ余裕がなさすぎて危険だ。
ジークがどういった考えなのか気になるが、ミラ達の前では詳しい事は話せない。
「メアリーさん、ありがとうございました! 色々把握できました」
「そう? ならよかったわ。ねぇダイスケ君、話せる範囲で構わないのだけれど・・・・・・近々村を出るつもりなのね?」
「可能性は高いとだけ言っておきます。詳しい事は話せませんが、俺とジークにはやらなければならない事があるので」
アーデル村から直ぐに出発して、王都を目指し、ミアを連れて襲撃までに戻ってくるのか、それとも襲撃があるまで村に滞在してから王都を目指すのか。
誓約が呪いの一種で解呪によって解けるかで、行動が大きく変わるだろう。
ジークと話して早く決めないと。
「わかったわ。でももし村を出ていくのなら、その前に家に顔は出してね。お別れの挨拶ぐらいさせてちょうだい。貴方達は私達の恩人なのだから」
「勿論です。そろそろお暇します。色々教えて下さってありがとうございました。後、朝食も美味かったです! それじゃあ・・・・・・ミラ!? どうした!?」
話を切り上げ、今後の事を話す為に家を出ようとした俺がチラリと先程から黙っているミラを見ると、大きな瞳から大粒の涙が溢れていた。
「あ、な、何でも・・・・・・ごめんなさいなのです」
「えっ、ミ、ミラ!」
ミラは何故か謝り、そのまま奥の部屋へと逃げるように駆け込んでしまった。
「ダイスケ君、ミラちゃんは大丈夫だから・・・・・・早く行きなさい」
「えっ、いや、でも・・・・・・」
「行きなさい!」
「・・・・・・はい、わかりました。ジーク行くぞ」
「行こうか。それにしても、人間というのは複雑なんだね」
俺達がミラの家から出ると、目の前に先程までなかった謎の氷の彫像があり、彫像から呻き声が聞こえていたが、ミラの様子に困惑していた俺は、気にかける余裕もなく、彫像を無視して人が居ない場所を求めて、あてもなく歩き続けた。




