37 知らない方が幸せな事もある
「ダ、ダイス・・・・・・ケ、ぶ、ぶっ殺・・・・・・」
「人の背中で物騒な事言うな! はぁ、何がどうなってるんだ」
俺は身体が麻痺して動けないダントンさんを背負い、ジークを頭の上に乗せて、ミラの家へと向かっている。
何か事情があって、ダントンさんが俺に激しい怒りを、殺意を抱いているならその問題を解決しないと、麻痺が治ればすぐにでも、襲ってくるだろうと判断したからだ。
何か原因があれば、まだ納得できるが、本当に何故、たった1日で殺意を抱く程憎まれたのかがわからない。
昨日の朝から今に至るまでに、何かあったんだろうが、俺に心当たりはない。
ミラかメアリーさんが事情がわかっているなら話は早いんだが・・・・・・
という事で、とりあえずミラの家に、向かっているわけなんだが、背中に背負ったダントンさんが、ブツブツ物騒な事を言い続けて、気が休まらない。
雷撃の麻痺が、いつまで続くのかも不安だ。
想像してたよりも、効果があって難を逃れる事が出来たが、徐々に麻痺が治ってきているようで、俺を呪う言葉が背中から聞こえてくる頻度が高くなっている。
「ダイスケ、見えたよ! もうすぐだ」
「はぁ、ダントンさんが暴れ出す前に到着出来そうだな。急ごう!」
「っ! ダ、ダイスケ・・・・・・や、やめ・・・・・・」
何故かダントンさんが、嫌がっている感じがするが、無視でいいだろう。
俺は小走りでミラの家に向かった。
コン
コン
「メアリーさん! ミラ! 朝早くすいません! いますか!」
「あら、ダイスケ君。朝早くからどうし・・・・・・ダントン!? 何があったの?」
「実は・・・・・・」
俺は驚くメアリーさんに事情を説明した。
訓練場でダントンさんと手合わせをする事になったが、ダントンさんの様子がおかしく、俺を殺す勢いで襲いかかってきた事、それにより、仕方なく無力化する為に魔法を放った事。
何故こんな事態になっているのかわからないので、とりあえずダントンさんを運んでここまで来た事を話した。
「なるほどねぇ・・・・・・状況は把握したわ。・・・・・・ダイスケ君、その馬鹿を降ろしてくれる?」
「っ! は、はい!」
「ダ、ダイ・・・・・・お、俺が、わ、悪かっ・・・・・・だ、から、や、やめ、・・・・・・ぐぇっ」
俺はメアリーさんに言われた通り、直ぐにダントンさんを背中から強引に降ろした。
いつもニコニコ笑ってるメアリーさんからは考えられない程の、巨大なプレッシャーを感じたからだ。
明らかに強者のみが出せるものだった。
ダントンさんが何か助けを求めていたような気がするが、知らん。
巻き添えはごめんだ。
「ち、ちが・・・・・・メ、メアリー、は、話を・・・・・・ガハッ」
「何が違うのかしら? ダントン、昨日私が言った事は覚えてるわよね? ふふふ」
地面を這いつくばり、許しを乞おうとしたダントンさんを、メアリーさんがその細く長い脚で踏みつけ、不適に笑っている。
俺がその様子を大量の冷や汗を掻きながら呆然と眺めていると
「ダイスケ君、ダントンと2人で話したいから中に入っててくれるかしら?」
「ひっ! は、はい! お、お邪魔します!」
俺とジークは逃げるように家へと駆け込んだ。
「ダイスケ、いつものメアリーと様子が違ったね」
「あぁ、絶対に怒らせたら駄目だな。俺達も気をつけ・・・・・・」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
居間の椅子に腰掛け、会話をしていた俺達の耳に、ダントンさんの叫びが耳に入る。
外で一体何が起こっているのかわからない、わからないが、ダントンさんの叫びを聞き、身体の震えが止まらない。
そう言えば魔境でミラに怒られた時も威圧感が半端なかった・・・・・・血は争えないという事か。
「あれ、ダイスケ君、ジーク? おはようなのです」
「お、おはようミラ、ちょっと色々あってな」
「おはようミランダ」
「ふぅ、あらミラちゃんおはよう! 朝食にしましょうか。ダイスケ君達も食べていきなさい、ね?」
「はっ、はい! お言葉に甘えさせていただきます!」
「ふぅ、仕方ないな、わかっているとは思うが・・・・・・手を抜くんじゃないよ? メアリー?」
「ふふふ、朝から可愛いわぁ! ジークはこっちいらっしゃい! 抱っこしてあげる!」
奥の部屋から現れたミラに挨拶をしていると、すっきりした顔で普段の様子のメアリーさんが家へと戻って来た。
ダントンさんがどうなったのか聞きたい所だが・・・・・・やめておこう。
知らない方が幸せな事もある。
腹も減っているし、ご馳走になって忘れよう・・・・・・うん、それがいい。
「あれ? お父さんは何処なのです? それにさっき声が・・・・・・」
「ダントンなら今は外で反省させているわ、ミラちゃんは気にしなくていいのよ? ふふふ」
「反省なのです? わかったのです」
俺はダントンさんの事を考えないようにして、朝食が運ばれて来るのを黙って待った。
「ご馳走様でした!」
「メアリー、僕の専属料理人にしてあげよう」
メアリーさんが作る料理は相変わらず美味くて、満足いくものだった。
時々外から呻き声が聞こえてこなければ、最高だったんだが・・・・・・
「ねぇダイスケ君? あの馬鹿を許してあげてくれない? 私がしっかり反省させておいたわ」
「も、勿論です! でも、どういう事か説明してもらえますか?」
「え? お父さんが反省しているのは、ダイスケ君が関係しているのです?」
そう、俺はまだ、ダントンさんが、殺気を纏って俺に襲いかかった理由がわからない。
これからもミア関係でミラ達とは関わっていくだろうし、何か俺がしたなら、しっかり謝って和解したいし、誤解なら誤解を解きたい。
しっかり確認しておかないと駄目なんだ。
俺よりも状況が理解できないミラが不思議そうに首を傾げている姿が可愛いくて、表情が緩んでしまいそうだが、大事な事だ。
俺は緩みそうな表情を意識的に引き締め、顎に手をやり何か考えている様子のメアリーさんの言葉を待つ。
「・・・・・・ねぇ、ダイスケ君、知らなくていい事も世界にはたくさんあると思わない? これで納得してくれないかしら?」
「いえ、これは大事な事です。どういう事かメアリーさんが理解しているのなら、教えて下さい」
余程な理由なのか、メアリーさんは、俺がダントンさんに殺されかけた理由を話す気はないらしい。
でも、俺も譲るわけにはいかない。
今後の行動に僅かでも影響しそうな事は今のうちに解決して、ミアの幸せの為に最善の道を・・・・・・
「・・・・・・ダイスケ君、もう一度だけ言うわ。知らなくていい事なの。納得してくれるわよね? ふふふ」
「ひぃ! は、はい! わかりました!」
うん、メアリーさんの言う通りだ。
知らなくていい事もある!
間違いない!
ダントンさんは反省している様だし、理由なんてどうでもいいじゃないか!
何の問題もないさ!
そうだろ、ジーク?
「ぷぷっ、そうだね! 何の問題もないと思うよ。そうかぁ・・・・・・ダイスケの弱点は・・・・・・ぷぷっ」
「ふふふ、わかってもらえてよかったわ」
「ふふ、よくわからないけど、皆楽しそうなのです!」
怯えた俺を馬鹿にして、笑いを堪えるジークに、不適に微笑むメアリーさん。そんな様子をみて何を勘違いしたのか、ミラが皆楽しそうだと言い、ニコニコしている。
「そうよ、ミラちゃん、皆楽しいのよ。ねぇダイスケ君? ふふふ」
「は、はい! あ、あはははは!」
「あぁ、実に愉快だ! フハハハハハハァ!」
「ふふ、楽しいのです」
俺の乾いた笑いと、ジークの不快な笑い声が部屋に響き渡った。




