32 少女の想いの正体
道に迷っているダイスケを助けて、何故か僕を無視するダイスケの肩の上で文句を言いながら、気がつけば僕は眠ってしまったようだった。
そして、僕は激しい揺れを感じ起こされた。
勿論犯人はダイスケだ。
優しく起こしてといつも言っているのに理解力がなさすぎて困るよ。
痛みや恐怖を感じず起きたいものだ。
まぁ今はそんな事はどうでもいい、問題はその後だった。
僕を起こしといて用が済んだらアホ顔で寝るダイスケをみて大きく息を吐く。
さっきは本当に危なかった。
咄嗟に誤魔化して、追求はされなかったが、下手をすれば悪巧みがばれていただろう。
ばれていたら、僕は今頃・・・・・・考えるだけでも恐ろしい。
ダイスケは言った。
「ライラの家では隠蔽しろ」と。
よくよく考えれば当たり前の話だ。
僕を・・・・・・精霊の存在を明かすのは勇者の大切な人達だけだと、決めたばかりだ。
ライラ・・・・・・まぁ結局ミランダだったんだが、ダイスケからすればミランダと知らないのでライラだ。
ライラの両親に存在を明かす訳にはいかないと判断するのは当然で、隠蔽するのは当たり前の話だ。
だが、僕はライラがミランダだと知っているし、つまり両親・・・・・・ダントンとメアリーも勇者の大切な人に含まれるから、隠蔽せずに正体を既に明かしてしまっている。
それらを踏まえて、僕はダイスケを驚かす緻密な計画を立て、ミランダに計画を伝え、今頃ダントンとメアリーにも伝わっているだろうが、僕の存在に気付いてない振りをしろとか、そんな指示はしていない。
つまり、ダイスケと予定通り、ミランダの家に行けば、ダントンとメアリー(ダイスケからすればライラの両親)が僕の存在を知っている事がばれて、おバカなダイスケでもどういう事か疑問に思うだろう。
そうなれば、僕の計画が崩れる可能性が高い・・・いや崩れるだろう。
だからと言って、今話すか?
ライラは実はミランダだったと。
いや、駄目だ。
出来ればミランダの前で伝えて驚かせたい・・・・・・こんな事なら欲張らなければよかった。
美味しい食事をして
ダイスケの驚くアホ顔みて
怒るダイスケからミランダ達に守ってもらう
この完璧な計画に拘りすぎた為に思わぬ落とし穴に気付かなかった。
まぁ、それでも何とかするのが賢い僕だけどね。
僕の存在を明かしたと正直に話し、明かした理由は複雑な事情があると言って説明を先延ばしにしてやった。
嘘は言ってない。
ライラがミランダだったなんて、ある意味複雑だしね。
とりあえず今を凌げれば問題ない。
まぁ、僕が慌てた様子を見せずに冷静な振りをしたからこそ凌げたんだろう・・・・・・うしし!
あぁ、早く5つ目の鐘が鳴らないかな?
フフフ、実に楽しみだ!
どんなアホ顔で驚いてくれるんだい?
おバカなダイス・・・・・・ふわぁ、無理矢理起こされたから僕も眠いな。
ダイスケの腕を枕にして僕も眠る事にした。
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「ただいまなのです」
「おかえりミラちゃん。あら? どうしたの? 顔が真っ赤よ?」
「・・・・・・そんな事ないのです」
はぁ、と溜め息を吐き、窓辺にある椅子に座ったミランダは、純白の髪飾りを手で優しく触れ、無意識に呟く。
「・・・・・・ダイスケ君・・・・・・ダイスケ君・・・・・・ダイスケ君・・・・・・」
消え入りそうな声で何度も何度もその名を呟く。
メルドアの森でブルドラに殺されかけていた自分を、救ってくれた命の恩人。
(ふふっ、ダイスケ君が道に迷ったから助けてもらえたのです。ダイスケ君は方向音痴なのです。さっきも迷っていたのです・・・・・・ふふふ)
ミランダは胸に手をやり、目を閉じダイスケを想う。
(ダイスケ君の髪と瞳は呑み込まれてしまうんじゃないかと思う程深い黒で、眼つきが鋭くて、でも笑った顔がとっても可愛いくて、格好よくて・・・・・・背も大きくて・・・・・・)
ダイスケを想い笑みを浮かべるミランダ。
ミランダはダイスケに恋をしていた。
17才の遅い初恋。
初めてダイスケを見た瞬間、魂すらも震える程の衝撃を受けた。
その後も心臓が激しく波打ち、顔は赤く染めあがり、ダイスケが傍にいるだけで、おかしくなってしまいそうだった。
しかし、ミランダはダイスケに対する感情が何なのか理解していなかった。
気が付けば、ダイスケを見つめている自分を理解できなかった。
(私は一体どうしたのです。わからないのです)
ミランダが大きな息を吐いて、窓から外を眺めていると、帰ってから様子がおかしい娘を黙ってみていたメアリーが声を掛けた。
「ミラちゃん? 何か悩み事があるなら話してみなさい。きっと力になれるわ」
メアリーはミランダの様子をみて、何となく事態を察していた。
真っ赤に染めあがった頬、潤んだ瞳、何より無意識に呟いている。
ダイスケ君と。
メアリーは不思議に思う。
今朝、ダントンが連れて来たAランクハンターの青年もダイスケと名乗っていた。
同一人物なのだろうか?
だとしたらミランダと何処で?
思考するが答えが出ずに、娘に訊ねる事にした。
「お母さん、私変なのです。ダイスケ君・・・・・・あっ、ダイスケ君はジークの契約者で・・・・・・そう言えば、ジークから夕食をご馳走してって・・・・・・」
「ミラちゃん、落ち着いて! 一度に言われてもわからないわ! まず、ダイスケ君っていう子は、ジークの契約者って事でいいの? それと・・・・・・」
メアリーはミランダから、少しずつ聞き出し、状況を理解した。
ダイスケという人物は精霊ジークの契約者であり、Aランクハンター。
ミランダの命を救い、方法はわからないが、アーデル村までミランダを凄まじい早さで運んだ・・・・・・つまりメアリー達の恩人でもある。
ダイスケには、ライラと名乗っており、娘がミランダと・・・・・・捜していた人物だと気付いていない。
ジークからのお願いで、命を救ったお礼として、夕食をご馳走する事になっていて、その際に、ミランダをライラと呼ばなければならない。
「何となくわかってきたわ! でも何でミラちゃんって事を教えてあげないの? ダイスケ君とジークは神の意思によって行動しているんでしょ?」
「私も教えてあげたいのです、でもジークが、その・・・・・・ダイスケ君を驚かせたいって・・・・・・」
「あらあら、ジークは悪戯好きなのね。とりあえず、5つ目の鐘がなる頃にダイスケ君とジークが家に来るのね。その時にミラちゃんをライラって呼べばいいのね? ふふ、私もライラだから笑っちゃうかもしれないわ」
「よろしくなのです! 私も、ほんの少しだけダイスケ君の驚いた顔をみてみたいのです」
「ふふ、ミラちゃんも悪戯好きね。それで話は戻るけど、ミラちゃんは何を悩んでいるの?」
メアリーは帰宅してからのミランダの様子とダイスケの事を話す表情で、全てわかっていたが、改めて訊ねた。
「私・・・・・・変なのです。変になったのは、ダイスケ君を初めて見た時に身体中に強い衝撃を受けたみたいな・・・・・・とにかく、経験した事のない感覚になってからなのです。ダイスケ君が傍にいると動悸が激しくなって、顔もすぐ赤くなるし、気がつけばダイスケ君の事を見てしまうし、考えているのです。こんなの初めてなのです・・・・・・お母さん、私は何か悪い病気にでもかかったのです?」
ミランダを想い過ぎる過保護なダントンのせいで、これまで異性と関わる事など殆どなかった。
当然恋愛なんて・・・・・・人を好きになった事なんてない。
自分が抱いてている感情が何かわからないのは当然だった。
「ふふ、ミラちゃん? それは病気なんかじゃないわ。寧ろとってもいい事なのよ?」
「えっ? そうなのです? じゃあ何なのです?」
「ミラちゃんはね、ダイスケ君に一目惚れして恋をしているのよ」
ミランダを優しい眼差しで見つめるメアリー。
「・・・・・・恋」
ダイスケに抱く感情の答えを知ったミランダがポツリと呟いた。




