31 夕食の招待
ダントンさんの家で飯をご馳走になった俺は、長居しては迷惑だと早々に引き上げ、宿に向かっている。
飯は美味かった。まさか異世界で唐揚げがあるとは・・・・・・リンジャーでの肉屋もそうだったが、食もそれ程俺の世界と変わらないようだし、食事で不満が出る事はなさそうだ。
そして、メアリーさんもハンターで虹色の腕輪・・・・・・Aランクハンターだったのは驚いた。
ライラの話では、Aランクハンターは数が少なかった筈だ、それなのに夫婦でAランクって凄い事じゃないか?
そんな事を考えながら、宿に向かって歩き続けていたが、宿から修練をした広場に向かった時に通った道が全く見当たらない。
あぁ、わかってる。
俺は方向音痴だ。
方向音痴な俺が、宿までの正確な道を把握出来ているわけがない。
俺がどういった状況に陥っているのか認めよう・・・・・・確実に迷ってると。
自らの非を認めるのは簡単ではない。
しかし、非を認める事により、改善され、やがて短所が長所に・・・・・・それは流石にないか。
まぁとりあえず迷っている。
これは揺るぎない事実だ。
このままではいつ宿に戻れるかわからない。
じゃあ今出来る最善の行動は・・・・・・
「すいません、夕暮れの湖という宿はどう行ったら着けますか?」
「兄ちゃん、ここらじゃ見ない顔だな、とハンターか。その宿ならこの道を真っ直ぐ進んでそれから・・・・・・」
村人に道を尋ねる事にした。
親切なおじさんで、丁寧に道を教えてくれたのでもう大丈夫だろう。
まず真っ直ぐ進み、突き当たりを左に曲がって暫くすると、市場に出るからそこを右に曲がり暫く進めば宿が見えてくるらしい。
簡単だ! 幾ら俺でも子供じゃあるまいし、もう迷う事はあるまい。
俺はおじさんの教えてもらった通り、道を進んでいく。
突き当たりまで真っ直ぐ進んで、そこを左に曲がって市場に出たら右に曲がる。
簡単だと思っていた。
しかし、現実は甘くない。
突き当たりを左に曲がったまではよかった、だが市場がいつまでたっても見えてこない。
何故だ? 何処で間違えた?
親切そうなおじさんが嘘を?
いや、俺に嘘を吐いて何の得があるっていうんだ。
では何故市場に着かないんだ?
まさか・・・・・・強力な幻覚魔法が掛けられているのか!?
いやいや、落ち着け。
そもそもそんな魔法あるかどうかもわからないぞ?
じゃあ俺がまた迷ってるのか?
いや、流石に俺もそこまで愚かじゃない筈だ。
真っ直ぐ進んで突き当たりを左に曲がって、市場に出たら右に・・・間違いようがない。
わからない、俺に一体何が起こっているんだ。
もう宿には戻れないんじゃないかと諦めかけたその時、聞き覚えのある可愛い声が聞こえた。
「ふふ、ダイスケ君、何してるのです」
「ふぅ、ダイスケ、期待を裏切らないおバカな男だね」
ライラだ。
何てタイミングなんだろうか。
いつも可愛いが、更に可愛いい。
救世主だ。
これで俺は宿に戻れる筈だ。
何故か馬鹿精霊もいるが、無視でいいだろう。
「ライラ助かったよ、宿に戻ろうとしてたんだが、不思議な事に戻れないんだ」
「こら! ダイスケ! 何故僕を無視するんだ!」
「ふふ、一緒に宿に行くのです」
ライラに先導してもらい、歩きながら気になっていた事を聞く事にした。
ライラの両親が助かったかどうかだ。
もし、間に合わっていなければ、気まずい空気が流れるかもしれないが、どちらにせよ聞く事だ。
早い方がいいだろう。
「ライラ、その・・・・・・雫は間に合ったか?」
「あっ、ごめんなさいなのです! 間に合ったのです! お父さんとお母さんは雫の効果ですっかり元気になったのです! 伝えるの遅れてごめんなさいなのです」
よかった。
どうやら間に合ったようだ。
「気にするな。よかったな!」
「ダイスケ君とジークが頑張ってくれたおかげなのです! ありがとうなのです! えっと、それでお礼がしたいのです! 夕食をご馳走したいのです」
うん、やっぱりライラは笑顔が似合うな。可愛い。
もう悲しい顔や泣き顔は見たくないな。
お礼か・・・・・・まぁ断る理由もないし甘えるとしようか。
「あぁ、わかった! 楽しみにしてるよ」
「はいなのです! じゃあ5つ目の鐘が鳴る頃に私の家に来てもらっていいのです? 場所はジークが知ってるのです」
おっ、まさかの手料理か!
ライラが作るんだろうか?
それともお母さんかな?
先程メアリーさんが作った手料理も美味かったし、期待しとこう。
ジークが何でライラの家の場所を知っているのかは疑問が残るが、後で確認するか。
ジークは俺の肩の上で爆睡中だから、今は聞けないしな。
「わかった、おっ? あれが市場か?」
「そうなのです! 色んな物が売っているのです」
俺が辿り着けなかった市場に遂に辿り着いた。
市場は昼時のせいか、賑わいをみせていて、様々な露店があって見ているだけでテンションがあがる。
野菜っぽいものを売っている露店
果物っぽいものを売っている露店
おっ? あれは服屋か!
俺の服装はレムレールでは違和感もあるし何着か買っといてもいいかもな。
「ふふ、ダイスケ君楽しそうなのです」
「あぁ、楽しいぞ! 見た事ない物が多いからな! ・・・・・・ん?」
市場を満喫していた俺は、服が売っている露店である物を見つける。
それは純白の髪飾りで、清純なライラに似合いそうだ。
そう言えば、リンジャーでの食事のお礼をしてなかったな・・・・・・よし、これをプレゼントしよう!
「おばちゃん! この髪飾りくれ! 幾らだ?」
「あいよ、それは素材が良いから少し高いよ?金貨1枚だ」
意外に高いな、まぁでもライラに似合いそうだし、問題ないな。
「買うよ! すぐ付けるから包まなくていいぞ」
おばちゃんに金貨1枚払って、不思議そうに俺を見ていたライラに髪飾りを付けてやる。
うん、似合うな!
「ダ、ダイスケ君、な、何を・・・・・・」
「ん? リンジャーの飯のお礼・・・・・・まぁ、それ以外にもライラには世話になったしな! 受け取ってくれよ! よく似合ってるぞ」
「あ、あぅ、あ、ありがとうなのです」
こうして市場を満喫した俺はライラの案内で無事に宿に戻って来た。
ライラは髪飾りを付けてからずっと黙り込んで下を向いていて、もしかして髪飾りが気に入らなかったのか? とも思い、余計な事をしたかな? と不安になったんだが、宿の前で別れる際に笑顔でお礼を言われたので安心した。
宿のおばちゃんに軽く挨拶をして、ようやく部屋に戻ってこれた。
長かった・・・・・・ライラと合流した時に鐘が鳴っていたので、今は昼過ぎだろう。
ライラの家には5つ目の鐘が鳴る頃に行く事になっているので、時間には余裕がある。
朝から身体を動かし続けたせいか、少し眠いので昼寝でもしたい所なんだが、夕食をご馳走になる事について、ジークと話をしなければならない。
ライラには存在がばれているから問題ないが、ライラの両親に知られる訳にはいかない。
ライラは特例として、ジークの・・・・・・精霊の存在を明かすのは、ミアの大切な人達・・・・・・ミランダとその家族に、ミアの家族。後は聖女様って所だな。
存在を明かさないと、捜したり、守ったりと、ミアの為に自由に動き回れないから仕方ない事だ。
精霊の存在はレムレールでは大きく、騒ぎに巻き込まれる可能性が高い為、軽はずみにジークの存在を明かすわけにはいかない。
ジークには悪いがライラの家まで道案内だけしてもらって隠蔽しといてもらう。つまり飯抜きになる。
俺が無視を続けたせいか、俺の肩の上でふて寝しているジークを、ひょいっと摘み、軽く揺すり声を掛ける。
「ジーク、起きろぉぉ!」
「っ!? あががががががぁぁぁぁ! お、起き、た、や、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「大袈裟な奴め、なぁライラの家に行く時はわかっているとは思うが、隠蔽しろよ?」
「ふざけるなぁぁ! 物凄い揺れだったぞ! もう少し優しく起こしてっていつも言ってる・・・・・・っ! い、隠蔽? あ、あぁその必要はないよ。ダ、ダイスケが寝ている間に色々あってね。ライラの両親には僕の存在は既に知られているんだよ」
はっ!? 知られてる?
どういう事だ?
ジークがライラの家を知っているのは、家に既に行ったからか?
そして、その時何かあって両親に存在を??
「ジーク、俺の寝ている間に何があった??」
「えっと・・・・・・ふぅ、ダイスケ。事情があり、今はまだ話せない。うん、話せないんだ! 後々説明はするが、とりあえず問題はないから安心したまえ!」
今はまだ話せないか。
それにしてもさっきからジークの奴、妙に慌ててないか?
気のせいか?
まぁとりあえず、精霊の存在を明かした理由がわからない以上、ジークを怒るのも保留だな。
止むを得ない事情があった可能性もある。
「わかった! とりあえず保留にしとこう。だが、わかってるな? くだらない理由で正体を明かしたんなら・・・・・・」
「ほ、保留ってなんだぁ! まさか僕を殴ろうなどと・・・・・・」
「とりあえず約束の時間まで余裕があるから、俺は寝る。4つ目の鐘が鳴る頃には起きる」
「こ、こらぁ! 話はまだ終わってないぞ! そもそも、僕を起こしておいて、寝るなんてどういう・・・・・・」
もし下らん理由だったら、お仕置きが必要だな。
拳骨という名のお仕置きが・・・・・・ふわぁ眠い。
起きてから考えよう。
ジークが何やら叫んでいるが、俺は無視して眠りについた。




