30 迷う男
「おや? ミラちゃんじゃないか? どうしたんだい?」
「おばさん、ダイスケ君・・・・・・昨日から宿泊している201号の黒髪の男の子は部屋にいるのです?」
美味しい朝食を食べて満足な僕は、ミランダと一緒に宿に戻って来た。
2つ目の鐘も鳴り終わり、お寝坊さんのダイスケでも流石に起きているだろう。
勿論姿は隠蔽しているよ?
今はミランダに肩車してもらっている。
とりあえず、ミランダの両親が・・・・・・おっと、ダイスケにはライラと言わなければ。
ライラの両親が無事に回復した事を教えてやらないとね。
後は、ライラがミランダって事をどのタイミングで教えるかだね。
アホ顔で驚くダイスケの顔を早く見たいが、出来るだけ驚かせたいしね。
驚かせた後は、お利口な僕がミランダや両親にある程度の事情を説明した事を話そう。
ダイスケは、自分がアホ顔で眠っている間に僕が頑張っていた事を知り、未熟な己を嘆き、そして僕を褒め称える事だろう。
その際には勿論聖なるお菓子を貰うけどね・・・・・・うしし!
あぁ、楽しみだ。
「おやおや? ミラちゃん、昨日も言ったけど、あの子の事随分と気に入ってるんだね?どういう関係だい?」
「えっ!? そ、そんな事ないのです! それでダイスケ君は・・・・・・」
「若いねぇ~、あの子なら1つ目の鐘が鳴ったぐらいに朝食を食べて出掛けたっきり、帰って来てないよ」
おや? ダイスケが出掛けていないらしい。
おそらく、何処かで修練しているのだろう。
あの化け物は一体どれだけ強くなろうとしているのか、僕には理解できないけど向上心があるのはいい事だ。
でも、何でまだ戻って来てないんだ?
1つ目の鐘が鳴ってから出掛けて2つ目の鐘が鳴り終わり、暫しの時間が経ってるぞ?
幾ら何でも遅すぎるね。
考えられるのは、修練に余程熱が入っているのか、それとも、迷子になってるか・・・・・・うん、迷子になってるね! 間違いない!
あの方向音痴なダイスケが無事に宿に戻って来れるか? 無理だね。
リンジャーの街では、宿の場所がわかりやすく、幾ら方向音痴のダイスケでも問題はなかったが、このアーデル村は僕がみた感じだとリンジャーに比べて非常にわかりにくい。
曲がりくねった道に、木造の似たような建物が並んでいて、目印になる物があまりない。
広場から宿には簡単に来れるだろうが、あの方向音痴が広場に戻って来れるか・・・無理だ!
「えっ? そうなのです? 一体何処に・・・・・・」
「ミランダ、僕に考えがある。とりあえず宿を出よう」
「? おばさん、また来るのです」
「あいよ! またねミラちゃん」
ミランダにしか聞こえないように耳元で囁き、宿を出たミランダが周りに人がいない事を確認して
「ジーク? 考えってなんなのです?」
「ふむ、まずだね、ダイスケは馬鹿なんだ。だから道によく迷うんだよ。つまり2つ目の鐘が鳴り終わったにも関わらず戻って来てないのは迷っているからだと思う」
「馬鹿なんて言ったら駄目なのです。でも、ダイスケ君は道によく迷うのです?」
「迷うっていう次元じゃないのだよ。いいかい?そもそも、ミランダを助けた時もね・・・・・・」
僕はダイスケの方向音痴さをミランダに丁寧に説明した。
魔境で街とは逆方向に進む愚行・・・・・・まぁミランダを助ける事が出来たんだけど。
そしてリンジャーで広場から雑貨屋へ行った時は酷かった。
ミランダに大体の場所を教えてもらったのにも関わらず、全く違う方向に進みだし、厄介なのは自分が進む方向に圧倒的な自信があるかのように迷いなく進む事だ。
結果・・・・・・同じ路地を行ったり来たりしていたんだが、馬鹿なダイスケはそれに気付かず、僕が助言しなければ永遠に雑貨屋には辿りつけなかっただろう。
「ふふふ」
「ん? どうしたんだい? ダイスケの馬鹿さ加減が愉快なのかい?」
「違うのです。あんなに強くて優しくてかっこいいダイスケ君にも欠点があるのです・・・・・・可愛いのです。それに・・・・・・」
ふむ、確かに僕に似て容姿は整っている部類には入ると思うが・・・・・・
「ダイスケ君が方向音痴だから、私もお父さんもお母さんも命があるのです。ダイスケ君の欠点に私達は救われたのです。ふふふ」
本当はダイスケの方向音痴と僕の未熟さも救えた要因なんだが、これは精霊王様との約束で話せないし、黙っておこう。
「とりあえず、村で身体を動かせそうな、周辺に何もないような場所はあるかい? ないなら村の外に出てる可能性もあるよ」
「あるのです。村の外れにハンターがよく使う訓練場があって、私の家から近いのです」
ふむ、そこでダイスケが修練をしていた可能性が高いね。
「よし、とりあえずその訓練場の方へと向かおうか。途中で迷っているダイスケに会える可能性が高い」
「わかったのです! あっちなのです」
僕とミランダは村の外れにある訓練場へと歩き出す。
リンジャーの街に比べて規模は小さいが、それなりの人々が生活しているようで村はそれなりに賑わっている。
「おはよう、ミラちゃん」
「お姉ちゃん、おはよう!」
「ミ、ミランダ! 今度俺と・・・・・・」
「馬鹿! ダントンさんに殺されるぞ!」
そして、ミランダは中々人気者なのがわかった。
多くの人が笑顔でミランダに声を掛けてくる。
「ミランダ、人気者だね?」
「そうなのです? 大きな村でないので知り合いが多いだけで、普通だと思うのです」
「そういう事にしておこうか。ところでお願いがあるんだけど、聞いてくれるかい?」
「お願いなのです??」
「あぁ、ダイスケに君がミランダって事を・・・・・・」
僕は、ダイスケにライラがミランダだと、伝える方法を思いついたので、ミランダに協力を求めた。
まず、ミランダの両親にも協力してもらう。
僕とした事が、ダイスケの事を伝えるのを忘れていたので、伝える役目はミランダに頼み、命の恩人である僕達を夕食に招待してもらう事にする。
偉大で可愛い僕のお願いだと聞けば、メアリーもダントンも断らないだろう。
ダイスケにはライラの両親が助かったからお礼に夕食を、と伝えておく。
その席でタイミングを見て、ライラがミランダである事を暴露する。
すると、おバカなダイスケでも、僕達が意図せずミランダとその両親を捜し出すという目的を達成したと理解するだろう。
ダイスケが理解すれば、僕がダイスケがアホ顔で寝ている間に、如何に勢力的に動き頑張ったかを伝え、褒めてもらい、ご褒美を貰う。
ライラがミランダって事を知っていたんなら何故すぐに教えなかったとダイスケは疑問に思うだろうが、そこだけは何とか誤魔化そう。
驚くアホ顔が見たかったから・・・・・・何て正直に話したら・・・・・・考えただけでも冷や汗が。
まぁ僕は賢いから大丈夫だと思うけどね。
万が一、ダイスケが怒っても、ミランダとダントンとメアリーに守ってもらえばいい。
ダイスケの驚くアホ顔を見て、褒めてもらって、ご褒美を貰って、美味しい夕食を食べて、怒られない・・・・・・完璧だ! 完璧過ぎる!
「という事で、ミランダは両親にダイスケの存在を伝えて、僕達を夕食に招待してくれたまえ! 後、ダイスケはミランダって事を知らないから、僕が暴露するまでは、ライラと呼ぶ様に伝えてほしい。わかったかい?」
「わかったのです! でも、何だかダイスケ君に申し訳ないのです」
「大丈夫だよ、ダイスケも驚きつつも喜んでくれる筈だ! だから頼んだよ」
「喜んでくれるのです? なら頑張るので・・・・・・あっ! ダイスケ君なのです」
前を見ると、確かに遠くの方に黒髪が目立っているダイスケの姿が確認できた。
どうやら道を尋ねているようだ。
「ミランダ、隠れて! 少し様子を見よう。ククク、ダイスケの方向音痴さを理解できるよ」
「えっ、わ、わかったのです」
近くの建物の陰に隠れて、ダイスケの様子を窺うと、村人が指した方向へと歩き出した。
広場の方向だ。宿の場所でも聞いたんだろう。
隠れる僕達を通過して自信満々に歩くダイスケ。
「ジーク、ダイスケ君ちゃんと広場の方に行ったのです」
「甘い、甘すぎるね。ミランダ、僕の予想が正しければ、あの馬鹿は必ず戻って来る。多分あの路地から出てくるんじゃないかな?」
「ふふ、本当なのです? じゃあもう少し隠れているのです」
ダイスケが通過して、その場で隠れて待っていると
「あっ! ダ、ダイスケ君なのです!」
「言ったろ? ダイスケは馬鹿なんだ。暫く同じ場所を行ったり来たりするから見ておくといい」
予想を裏切らないおバカなダイスケ。
僕が示した路地から出て来て、広場の方へ歩き出し、また同じ路地から出てくる無限ループを繰り出している。
「そろそろ助けてあげようか? ミランダわかったろ?」
「ふふふ、ダイスケ君可愛いのです」
カーン
カーン
カーン
3つ目の鐘が鳴る頃、僕とミランダはダイスケを救出した。




