29 Aランクハンターの実力
カーン
カーン
カーン
「ふわぁ・・・・・・うるせぇな」
鐘の音で目が醒めて、身体を解しながら窓を見ると朝日が差し込んでいる。
昨日は宿に着いて、部屋のベッドに倒れこんでから、疲れていた俺はすぐ寝てしまったようだ。
何かあったらジークに起こしてくれと頼んどいたんだが、起こされなかったって事は問題はなしって事でよさそうだ。
ん??
そういえば、ジークは何処だ?
俺に隠蔽は効かない筈だから、部屋にいないのは間違いないが・・・・・・一体何処に?
腹でも空かせて彷徨ってんのか? まぁそのうち戻って来るだろうし、放置でいいだろう。
問題はライラだな。
両親が助かったか気になるが確認出来ない。
広場で別れたっきりで俺が宿に居る事を伝えてないんだ・・・・・・うん、疲れていたとはいえ、これは俺のミス。
そして、アーデル村を初めて訪れた俺が、ライラが何処に住んでいるのか知る筈もないので、ライラを捜さなければならない。まぁ、時間掛けたら何とかなるだろう・・・きっと、多分。
悩んでいても仕方ないし、日課の修練を行おうと部屋を出て、階段を降りていると
「おや、お出掛けかい? 食事は摂らないのかい?」
昨日宿の受け付けをしていたおばちゃんが声を掛けてきた。
うーん、普段は修練の前に食べる事はないんだが、何も食べずに寝たせいか、酷く空腹だ。
おばちゃんがわざわざ声を掛けてくれた事もあるし・・・・・・よし!
飯食ってから修練しよう!
「お言葉に甘えるよ。腹が減ってるから多めに頼むよ」
「あいよ! あっちで座って待っときな! すぐ持っていくからさ」
受け付けの近くにある食堂の片隅に腰を落ち着け、数分するとおばちゃんが大量のパンとスープとサラダみたいな物を持ってきた。
「はいお待ち! ごゆっくり~」
「ありがとう、いただきます」
パンは焼きたてなのか熱々で柔らかく、スープは何の肉かわからないが大量に入っていて塩味が効いて美味い!
サラダっぽい物はサラダだった。マヨネーズが欲しい所だが、まぁ充分食えるし問題なし!
「ごちそうさま」
腹が膨れた俺は、身体を動かせそうな場所を探して村を歩き、村の外れにある広場を見つけた。
「うし! 広さも充分だしここでいいか」
ジークが居ない為、棒は使えないが、やる事は数多くある。
この世界に来てから、幸いにも苦戦する程強い魔物にまだ遭遇していないが、何れ遭遇するだろう。
その時に手も足も出ない事にならないように、更に修練を積み、もっと強くならなければならない。
自分を過信してはいけない
僅かな油断が死を招く
じいちゃんによく言われた事だ。
だから俺は日々努力を怠らず、やるべき事をやる。
「はっ、ふっ、せぃ、やぁ!」
右腕、左腕、右足、左足
体重を乗せ、しっかり振り抜き、蹴り上げ、時には脱力して、踊るように滑らかに、移動しながら、小一時間程身体を動かし続けると
「おい、そこの兄ちゃん! 中々いい動きしてんな! よかったら手合わせしてくれや!」
唐突に声を掛けられ、視線を向ける。
すると、俺と背は同じくらいで筋肉質の熊みたいなもじゃもじゃのおっさんが大きな大剣を肩に担ぎ、笑みを浮かべていた。
腕を見ると虹色に輝く腕輪・・・・・・Aランクハンターの様だ。
「あぁ、未熟者だがよろしく頼む」
1人で身体を動かすよりも、効果があるし、まぁいいかと素早く判断した俺は熊のおっさんの提案に乗り、手合わせをする事にする。
「そうこなくっちゃな! しかし、その若さでAランクハンターなんだ、自分を過小評価するんじゃねぇよ! さぁ行くぜ!!」
そう言えば、俺も腕輪を付けてるんだったな、すっかり忘れていた。
俺がそんな事を考えていると熊のおっさんが大剣を構え、物凄い速さで突っ込んで大剣を振り下ろす。
「っ!? チッ!」
俺は咄嗟に横に飛び難を逃れるが、すぐに態勢を整えた熊のおっさんが俺の後を追い、大剣を斜めに振り上げる。
回避が間に合わないと判断した俺は、咄嗟に大剣の腹を右足で蹴って、その勢いのまま空中で一回転し、熊のおっさんと距離を取る事に成功する。
「ガハハハハ! いい動きだ! 刃は潰してあるから安心しな!」
「おっさん強えな! 次はこっちから行くぜ!」
レムレールに来て余り戦闘はしてないが、間違いなくこちらに来て1番の強者だ!
ギルドの試験の時に戦ったBランクハンターのアーロンだったか?
アーロンとは動きがまるで違う。
BランクとAランクでは実力に大きな差があるようだ。
俺は足に力を込め、全力で大地を蹴り上げ、熊のおっさんに向かって突っ込み、振り下ろされた大剣を皮一枚で交わして、熊のおっさんの横っ腹に拳をぶちこもうとするが
「甘えよ!」
熊のおっさんがゴツイ右腕で俺の拳を受け止める。
大剣を振り下ろしたと同時に素早く手放したようだ。
流石に全力で殴ってはいないが、それでも4割くらいの力を込めているのにも関わらず、熊のおっさんは余裕そうだ。
「おっさん、やるな!」
「兄ちゃんもな! もっと本気出していいんだぜ?」
俺が手を抜いている事に気付いていたようだ。
流石Aランクハンターといった所か。
もう少し力を込めても大丈夫そうだと判断した俺は、6割の力で拳を振るい、熊のおっさんは再び大剣を手に、俺達は2つ目の鐘が鳴るまで打ち合い続けた。
カーン
カーン
カーン
「はぁ、はぁ、兄ちゃんありがとな! 病み上がりでまだ本調子じゃなかったんだが、大分感覚が戻って来たぜ!」
「はぁ、おっさん、こっちこそありがとな! いい修練になった! 病み上がりだったのか? それであの動きとは流石Aランクハンターだな」
「ガハハ! 兄ちゃんもAランクハンターだろうが! なぁ腹減らねぇか? よかったら手合いの礼をさせてくれ」
修練の前に宿の飯を満足いくまで食べたが、激しい運動を続けたせいか、若干腹が減ってる・・・・・・うん、ここはお言葉に甘えよう!
「あぁ、是非頼む!」
「そうこなくっちゃな! すぐ近くに家があるんだ、女房の作る飯は美味いから楽しみにしてな!」
Aランクハンターは想像以上に高い実力を持っているようだ。
という事は、その上のSランクハンターはもっと強く、魔物もAランク、Sランクとなると、相当手強いって事だ。
引き締めないとな。
そんな事を考えながら熊のおっさんの後を着いていき、村の外れにある木造の民家の前までやって来た。
熊のおっさんがノックもせずに扉を開き
「メアリー帰ったぞ! 客がいる! 飯を用意してくれ!」
「あら、ダントンお帰りなさい。客? 珍しいわね?どなた?」
「あぁ、勘を取り戻す為に手合わせしてもらったんだ! そういや兄ちゃん名前聞いてなかったな」
どうやら熊のおっさんはダントンさんというらしい。
そしてこの美人の女性はきっと奥さんっだな。名前はメアリーさん。
誰かに似ている気がするな・・・・・・おっと、そんな事より俺も名乗らないと
「俺はダイスケです。ダントンさんのお言葉に甘えて、お邪魔しました。どうぞよろしく」
「おう、ダイスケか! 良い名だ!」
「ふふ、よろしくダイスケ君。さぁ入ってちょうだい。すぐ用意するからね」
「はい、お邪魔します」
俺はダントンさんの家で、俺にとって2度目の朝食をご馳走になった。




