26 揉め事の予感
「本当に治ったみたいでよかったよ。私は帰るから何かあったらまた声を掛けておくれ」
「バミル色々ありがとう」
「助かったぜ! 何か礼をしないとな」
「やめておくれよ。お互い様だよ」
「おばさん、ありがとうなのです!」
隣に住むバミルが部屋から立ち去った後、身体に多少の怠さを感じつつも、動ける様になったダントンとメアリーは、ミランダを椅子に座らせる。
先程までの柔らかい雰囲気はなく、ピリリっとした緊迫した空気が場を支配する。
(あぅ、きっと怒られるのです)
ミランダは場の空気が変わった事を敏感に感じ取り、今までの経験から説教を受けると悟った。
「さて、ミラちゃん。雫を手に入れたという事は、メルドアの森に行ったのよね?」
「えっと、そうなのです」
「ミラ、俺とメアリーは駄目だって言ったよな?」
「・・・・・・言ったのです」
「ミラちゃん、例え私達の為でも、無謀な行動をしてはいけないわ。ミラちゃんはBランクになったばかりでしょう? あの魔境の森はBランクでも最深部まで行かなければ何とかなるわ。でもね・・・・・・」
「最深部まで行くならAランクじゃないと命を捨てに行くようなもんだ! ブルドラがいるからな! 俺達が何を言いたいかわかるな?」
「わかるのです。ごめんなさいなのです」
ミランダの立場からすれば、大切な両親を助けれる可能性があるならと無理をしたのだが、ダントンとメアリーからすれば、自分達の為に大切な娘を失うかもしれなかったのだ。
「わかってるならそれでいい。もう無茶な真似はするな。俺達もこんな失態二度と起こさねえからよ!」
「そうね、私達が未熟だったからミラちゃんに無茶をさせてしまったわね。私達も反省しないとね。とりあえず今回は運がよかったわ。ミラちゃんブルドラに遭遇しなかったのでしょ?」
「えっ? したのです」
「はっ!? ミラ、ブルドラに遭遇したのか!? まさか・・・・・・ブルドラを倒したのか!?」
「倒してないのです。殺されかけたのです」
「ミラちゃん、どういう事? 詳しく説明してちょうだい」
「それは・・・・・・あっ! 大変なのです!」
ダントンとメアリーは、Bランクであるミランダが雫を手に入れ無事に帰って来た・・・・・・つまりブルドラには運よく遭遇しなかったのだろうと考えていた。
実際はミランダはブルドラに遭遇して、殺される筈だった所を助けられたのだ。
(私ったら何て事! ダイスケ君、ジーク!)
両親が助かった嬉しさですっかり忘れていた。
命を救ってくれて、村まで全力で走り続けてくれた恩人であるダイスケとジークの存在を。
「ミラ? どうした?」
「ミラちゃん?」
「ごめんなさいなのです! 出掛けてくるのです」
ミランダは事態を把握出来ない両親を残して、村の広場へと急いで向かった。
***********
「あらあら」
「一体どうしたって言うんだ?」
ミランダが慌てて飛び出し、事情が全くわからず困惑するダントン。
(ミラちゃんはブルドラに遭遇して殺されかけた・・・・・・でもミラちゃんは無事に雫を手に入れ私達の元へ帰ってきた。考えられるのは・・・・・・)
メアリーはミランダの言葉から、何が起こったのか何となく理解していた。
「ダントン、ミラちゃんは高ランク・・・・・・おそらくAランク以上の実力を持つ人に助けてもらったのよ。そうでないと説明が出来ないわ」
「あぁ、そういう事か! それなら納得が出来るな! でも何であんなに慌てて家を飛び出したんだ? もう日が暮れてるぞ?」
メアリーの言葉を聞き、納得するダントンだったが、ミランダが飛び出した理由がわからない。
(そこなのよね。うーん、もしかして村まで一緒に来ているのかしら? そういう事なら納得いくわね)
「多分だけど、ミラちゃんを助けてくれた方と村まで一緒に同行してたんじゃないかしら? それで、私達が無事に回復した事を知らせにいったって所じゃない?」
「なるほどな、それなら納得いくが・・・・・・男じゃねぇだろうな!」
メアリーの言葉を聞き、声を荒げるダントン。
可愛い娘が元気な姿で自分達の元へと帰る事ができ、そして自分達も回復し命を救われたのは、間違いなくそのAランク以上の実力を持つ者のおかげだろう。
しかし、もしその者が男だったら?
可愛い娘が男と魔境の森から遠く離れたアーデル村まで2人っきりで旅をしていたのだとしたら・・・・・・娘を溺愛するダントンは考えるだけで激しい怒りが沸き起こり・・・・・・
「ぶっ殺す!!」
「ダントン、落ち着きなさい。女性かもしれないでしょ? もしかしたらパーティかもしれないし・・・・・・それにもし男性でもミラちゃんと私達の命の恩人よ? 殺しちゃ駄目よ!」
物騒な事をいい、今にも飛び出していきそうなダントンを宥めるメアリー。
Aランク以上の実力を持つからといって、男性とは限らない。
もしかしたらBランクのハンターのパーティかもしれないのだ。
メアリー同様女性の実力者の可能性もなくはないが、その線は薄いとメアリーは考えていた。
(うーん、とりあえず宥める為に言ったけど、女性の線は薄いわね。Aランク以上の実力を持っている女性なんて、私と勇者のミアちゃんと、戦闘狂のあの子と・・・・・・魔法狂いのあの子くらいだし)
メアリーが知りうる限り、Aランク以上の実力を持つ女性の実力者は皆顔見知りであり、性格もよく知っていた。わざわざこんな田舎の村まで同行するような変わり者はいない。
「女だぁ? んなわけねぇだろ!? 女なら心当たりが数人しかいねぇが、こんな田舎の村まで同行するようなお人好しいねぇよ! 強いていうならミアぐらいだが、ミアならミラが真っ先に俺達に知らせるし連れてくる筈だ! だから絶対男だ! 間違いねぇ! ぶっ殺す!」
(あら~、いつにもまして鋭いわね。ミラちゃんの事になると頭が切れるんだから、まったく)
はぁ、と大きく息を吐き出し、怒り狂うダントンを横目にメアリーは、揉め事が起きそうだと、頭を抱えた。
***********
村の広場に着いた頃には日が完全に堕ちていた。
(ダイスケ君、ジーク! いないのです? 一体何処に・・・・・・)
姿が見えないダイスケとジーク。
体力が付き疲れ果てていたとはいえ、実力者であるダイスケに何かあったとは思えないが、もしもの事がある。
(何処なのです!? 何かあったのです? それとも、村にはもう・・・・・・ううん、それはきっとないのです)
神の使者である精霊のジークと契約者のダイスケ。
神の意思により行動し、ジークの話では自分と両親を捜していたという。
そんな2人が、両親の無事を確認する前に村から出ていくとは思えなかった。
「あらぁ、ミラちゃん久しぶりだねぇ、どうしたんだい?」
広場で佇み考え込むミランダに、偶然通りかかった、村で唯一の宿【夕暮れの湖】の店員が声を掛けてきた。
「おばさん、あの、黒髪の男の子を見なかったのです? 背はこのぐらいで、眼つきはちょっと悪いけど、かっこよくて、笑うととっても可愛いくて、性格も優しくて、頼りがいがあって、ちょっと短気な男の子なのですけど、知らないのです?」
ミランダの言葉を聞いた宿の店員は一瞬呆気にとられ、ニヤリと笑い
「ミラちゃん、随分とその子の事お気に入りなのねぇ、村の男共が知ったら泣くわよ」
「えっ、そ、そんな事ないのです! それで知らないのです?」
「そう言えば、5つ目の鐘が鳴る前に黒髪の男の子が宿に来・・・・・・」
「何号室なのです!?」
「っ!? 201号だよ」
「ありがとうなのです!!」
宿の店員の話を聞き、直様宿に向かったミランダは、宿の扉を乱暴に開け、そのままの勢いで階段を駆け上がり、201号室の前までやって来て、呼吸を整えて、扉をノックして声を掛ける。
「ダイスケ君! 私なのです、いるのです?」
すると、トテトテと走る音が室内から聞こえ、扉をよじ登る音が聞こえたと思うと
ガチャッ
鍵が空いた音がした。
不思議に思いつつも、扉を開き、部屋の様子を見渡すと、真っ暗で何も見えない。
「あ、あのダイスケ君? ジーク? いるのです?」
「ここだよ」
「ジーク? ダイスケ君は?」
「そこにいるよ?」
部屋の暗さに目が慣れ、月の明かりが僅かに差し込み、ベッドの上でうつ伏せのまま、眠っているダイスケの姿があった。
「ダイスケ君? 眠っているのです?」
「あぁ、ミランダと別れてから直ぐに宿に移動してね、着いた瞬間にそのまま寝てしまったよ。ダイスケにしては珍しく疲れたようだね。そんな事より両親は無事治ったかい?」
「はいなのです! 元気になったのです! その事を伝えたかったのです! 遅くなってごめんなさいなのです」
「それはよかったね。僕もダイスケも頑張った甲斐があったね。ダイスケもきっと喜んでくれるよ」
「はいなのです! 本当にありがとうなのです!」
「気にしなくていいのだよ? でもミランダがどうしてもと言うなら、頭を撫で撫でしてくれてもいいんだよ?」
「ふふっ、可愛いのです」
備え付けられた椅子に座ったミランダは、ジークを抱き上げ優しく頭を撫でる。
満足気な表情を浮かべていたジークだったが、暫くすると真剣な表情になり、ライラを見上げる。
そんなジークの様子をミランダが不思議に思っていると
「ミランダ、頼みがあるんだ」
「?? なんなのです?」
「ダイスケが眠ってしまい、僕はずっと放置されていた。そして精霊である僕は姿を見られるわけにはいかないから無闇に行動出来ないわけだ。つまり・・・・・・」
「ふふっ、ご飯を食べたいのです?」
「流石だよミランダ。その通りだ。ダイスケが僕に何も与えずに眠りについたんだよ!」
「ジーク、6つ目の鐘が鳴った後なので宿のご飯はもう食べれないのです。だからジークさえよかったら家に来るのです? お礼がしたいのです、お父さんとお母さんにだったら姿を見せても問題ないのです?」
「ふむ、君の両親に姿を見せるのは問題ないし、名案だね。早く行こう。ダイスケは起こさず寝かせておこうか」
「わかったのです」
こうしてジークはミランダと共に、回復した両親が待つ家へと向かった。




