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勇者が望んだ救世主  作者: サスケ
25/61

25 救われた命

 

 ー741年11月ー 王都アストリア


「これは王の命令だ! これ以上勇者に関わるのを控えよ!」


「嫌なのです! ミアは勇者だけど、私の大切な友達なのです!」


「ミラの言う通りだ! あの子は勇者である前に、ミラの友達で良い子だ! そんな命令聞けるかよ!」


「2人共落ち着きなさい。冷静になって話をしましょう」


 王都アストリアの西の外れにある小さな民家を、数十人の白銀に輝く鎧を身につけた兵士達が取り囲んでいた。

 民家の前では、民家に住む3人の家族と王の書状を持った兵隊長が激しく言い争っていた。


「冷静? 笑わせるな! いいか? もう一度言う、これは王の命令だ! 命令は絶対だ! もし聞けぬと言うなら、追放処分とすると王から言い渡されておる。選べ! 勇者と今後一切関わらないと契約の儀式を行うか、追放処分となるか、選択肢は2つだ!!」


「なっ!? 追放処分に、契約の儀式だと!? ふざけやがって!!」


「い、嫌なのです! ミアは友達なのです! ずっとずっと友達なのです!」


「ダントン! お願いだから冷静に! ミラも落ち着きなさい」


「メアリー、俺は冷静だ! ただ腹が立ってるだけだ!」


 ダントンと呼ばれた男が、激しく怒鳴り、メアリーと呼ばれた女が今にも斬り合いになりそうな場を鎮めようと、声を掛け、ミラと呼ばれた少女を抱き寄せ、落ち着かせている。


「さっさと選べ! それとも、ここで死にたいか?? 全員構え!!」


 兵隊長が声を荒げ、周りを囲む兵士達へ命令すると、数十人の兵士達が剣を抜き、弓を構え、魔法を放つ為、腕を家族へと翳す。


「くっ、クソ野郎共がぁぁぁ!」


「ダントンお願いだから落ち着いて!」


「わ、私はミアとずっと友達なのです」


「5秒で決めろ! 契約の儀式か、追放か! 選ばぬ場合は攻撃を開始する! さぁ、選べ! 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1・・・・・・」


「クソがぁぁ! 追放だ!! 追放処分を受け入れる!!」


「そうか! なら即刻立ち去れ! 二度と王都へ足を踏み入れるな! 踏み入れた場合は死罪とする!」


「おい! せめてミラだけで構わねぇから、ミアと別れの挨拶をぐらいさせてやってくれ!」


「ならん! 即刻立ち去れと言った筈だ! それとも・・・・・・死にたいか?」


「クソ野郎がっ!!」



 こうして王都を追放処分にされた一家は勇者に別れの挨拶も出来ぬまま、故郷であるアーデル村へ帰る事となった。



 王都から馬車で移動して7日が経ち、一家は王都とアーデル村の中間地点にあるトランの村で宿を取っていた。

 宿の一室に入ったメアリーとダントンは窓の外や室内を慎重に探り、互いを見合い頷き合う。

 この7日間ついていた王都からの監視がいなくなった事を確認したのだ。



「ミラちゃん、元気だして? 私達はなんにも悪くないのよ?」


「そうだ! 俺達は悪くねぇ! 大臣の操り人形の愚王が! 何が身分だ! しょうもねぇ!」


「うぅ、ミア・・・・・・」


 監視がいなくなり本音で話すダントンとメアリー。

 メアリーは落ち込み続ける愛娘を優しく慰め、ダントンは王への不満をぶちまける。


「ミラちゃん、きっとまた会えるわよ。だからダントンは追放処分を選んだのよ?そうでしょ?」


「あぁ、契約の儀式を受けてしまえば、陰で会う事もできないが、追放処分なら王都の外でなら会えるからな!」


「ほ、本当なのです!? またミアに会えるのです?」


 ダントンが追放処分を選んだのには理由がある。

 愛娘であるミラと勇者であるミアが再会できる可能性が残されていたのは追放処分だった。

 もし、王都に残り、契約の儀式を受けてしまえば、破る事は決して出来ない。破ってしまった場合は死に至る恐ろしい呪いの儀式。それが契約の儀式だった。


「そうよ? ミアちゃんは勇者なのだから王都にずっと引きこもっている筈はないわ。数年経てば国中を動く事になる」


「メアリーの言う通りだ。だが、王都以外は魔物の襲撃が頻繁にあって、いつ命を落とすかわからねぇ。だから、ミアと再会できるその時が来るまでにしっかり実力を付けて、生き延びねぇと駄目だ!」


 アストリア王国で最も安全な街は王都である。堅固な城壁に多数の訓練された兵達が数多く、多少の魔物の襲撃ではビクともしない安全な街だった。

 しかし、王都以外の街や村は安全ではない。

 数多くの魔物の襲撃に怯え、兵士の数も多くはなく、力無き者はいつ命を落としても不思議ではない環境だった。


「私強くなるのです! お父さんとお母さんみたいに、早くAランクのハンターになって、絶対ミアとまた会うのです!」


 本当は寂しがりで、弱い大切な友達に再会する為にミランダは強く決意する。


「その意気だ! ミアは勇者で強いが、中身は普通の女の子だ。だからミラがミアの支えになってやれ!」


「そうよ、ミラちゃんはお姉ちゃんなんだからミアちゃんを守ってあげないとね?」


「はいなのです! 頑張るのです!」



 いつかミアと再会する事を支えに、ミラはアーデル村に到着してから、王都にいた頃よりも、ひたすら剣を振り、確実に実力をつけていった。



 ミラの両親であるダントンとメアリーは世界でも数少ないAランクハンターであり、そんな高い実力を持つ2人がいるアーデル村は幾度かの魔物の襲撃にあいながらも、力を合わせ、大きな犠牲を出す事もなかった。

 しかし、1年と数ヶ月が経ったある時、Aランクの魔物の襲撃に合い、何とか撃退したものの、ダントンとメアリーは重傷を負ってしまった。


 ミランダはあらゆる回復薬や、回復呪文の使い手を捜し出し、両親を助けようとしたが、効果は殆どなかった。

 治療しても傷口が塞がらないのだ。

 高価な回復薬や強力な回復呪文でも進行を僅かに遅らせるくらいの効果しかなく、徐々に傷口が大きく開いていくき、衰弱していくダントンとメアリー。


 それでも諦めず治療法を探し続けたミランダは、母であるメアリーの持ち物である古い書物で希望を見つけた。


【世界樹の雫】あらゆる傷を癒す世界樹からとれる奇跡の雫であり、100年に1度、数滴採取でき、書物の記録から幸運な事に今年がその採取できる年だと知ったのだった。

 問題は、世界樹がある場所だった。


【魔境メルドアの森】


 Bランクハンターに成り立てのミランダでは、森の主であるBランクモンスターのブルドラに出会ってしまえば、命はなく、危険な場所だった。

 しかし、ミランダに迷いはなかった。


「お父さん、お母さん! もう少し頑張ってなのです!私が世界樹の雫を手に入れてくるのです!」


「ミ、ミラ、だ、めだ」


「ミ、ラ、ちゃん、だ、め」


「ごめんなさいなのです! でも私は諦めないのです! 絶対世界樹の雫を手に入れて生きて戻って来るのです! だから、お父さんもお母さんも頑張ってなのです! いってきますのです!」


 こうしてミランダは両親の世話を隣人に頼み、家を飛び出した。

 そして、魔境メルドアの森に世界樹の雫を手に入れる為にソロで乗り込み、ブルドラによって命を落とす筈だった。

 ダントンとメアリーは、ミランダが命を落とした3日後、ミランダの身を案じながら命を落とす筈だった。

 そして、アーデル村は、魔物の襲撃によって滅びる筈だった。




 異世界から来た青年と精霊がいなければ・・・・・・




 ***********




 ミランダは、村外れにある少し大きめの木造の民家を目指して全力で走っていた。


(お父さん、お母さん)


 半月前と変わらぬ景色を横切り、民家に辿りついたミランダは、勢いそのままに乱暴に扉を開け放った。


「お父さん! お母さん!」


「っ!? ミ、ミラちゃん! 戻ったのかい!?」


「おばさん、お父さんとお母さんは!?」


 留守の間、両親の世話を頼んでいた隣人に両親の容体を確認すると


「とにかく、早くこっちへ!」


 手を引かれ、両親がいる寝室へと向かう。

 心を何とか落ち着かせながら、ゆっくりと扉を開くと、変わり果てた両親の姿が目に入った。


「っ!? お父さん! お母さん!」


「ミ、ミ・・・・・・ラ」


「ミ・・・ちゃ・・・」


「早く雫を! おばさん! 水を急いで持ってきて欲しいのです!」


「わかったよ! 待ってな!」


 身体が大きく、筋肉質だったダントンの身体はやせ細り、美しかったメアリーの頬はこけ、手足は力を入れれば折れそうな程細くなっていて、肌の色がドス黒くなっていた。


「もう少し頑張るのです! 雫できっとよくなるのです!」


「ミラちゃん! 持ってきたよ!」


「ありがとうなのです!」


 腰のポーチから雫の入った瓶を慎重に取り出し、書物に書かれていた方法で慎重に雫を水で薄める。


「出来たのです!」


 完成した雫を、両親の口に少しずつ流し込み終わり、神に祈る。


(神様お願いなのです! お父さんとお母さんを助けて!)


「ミ、ミラちゃん!」


 隣人の言葉で顔を上げると、雫を飲んだ両親の身体が淡い光に包まれ、痩せ細った手が、足が、痩けていた頬が、ドス黒くなった肌が、少しずつ元の状態に戻っていく。

 数分が経ち、光が消えると、そこには筋肉質で大きなダントンの姿と、豊満な胸でスタイル抜群の美しいメアリーの姿があった。



「こ、これは!? 治ったのか?」


 傷が癒え、痩せ細った肉体までもが元に戻り驚いているダントン


「みたいね、ミラちゃんが無茶をしたようね」


 いつも優しいメアリーが、ミランダを見て微笑んでいる


「あ、あぅ、お父さん、お母さん」


「ミラちゃん、とりあえずこっちいらっしゃい」


「よくわかんねぇが、まぁいい! ミラこっちこい!」


「うわぁぁぁぁん! お父さん、お母さん!」



 ミランダはメアリーに優しく抱き締められ、ダントンに乱暴に頭を撫でられ、声を枯らし泣き続けた。



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