21 大精霊は酔いやすい
「あ、あの、何かあったのです?」
「いや、何もないぞ。なぁジーク?」
「あぁ何もなかったよ。何もなかったんだ・・・・・・」
ライラと合流した俺達だったが、動物に好かれる白い仮面に金貨10枚と大量のSPを失いテンションが上がらない。
そんな俺達を見て、ライラは何かあったのでは? と心配してくれたようで申し訳ないが、それでもテンションは上がらな・・・・・・
「お腹空いたのです? お昼ご飯にボアサンド買ってるのですけど、食べるのです?」
「「食べる!!」
「ふふっ、いっぱい買ってきたのです」
俺達のテンションはボアサンドによって上がった。
俺もジーク同様、案外単純なのかもしれない。
テンションが戻った俺達はライラの故郷のアーデル村へと出発した。
スタイルは前回と同じで、ライラを前にお姫様抱っこして、ジークはいつも通り肩車。
一応ライラに前か後ろどっちがいい? と聞いたのだが、前でいいらしい。
前回あれだけ恥ずかしがって怒ってたのに女の子って不思議な生き物だ。
ライラと俺の荷物は、ジークのアイテムボックスに入れてるので、前回よりも身軽で速く走れている。
リンジャーからアーデル村まで普通に徒歩で行けば7日程・・・・・・という事は、今のペースで行けば2日か3日って所だと思う。
ちなみに数時間に一回休憩をする事になっている。幾ら体力に自信がある俺でも休憩なしで走り続ける事は不可能だ。そんな事が出来たら、きっと俺は人間じゃない・・・・・・ってか出来ないよな? 試した事ないからわからないが、まぁ出来ないという事にしておこう!
リンジャーを出発して走り続けていた俺の髪が後ろから引っ張られる。
ジークからの休憩の合図だ。
俺は徐々にスピードを緩めて、適当な広さの場所を見つけて停止した。
「2人とも大丈夫か?」
「は、はい! 大丈夫なのです」
「・・・・・・気持ち悪い」
今いるのは街道から少し外れた森の中だ。最初は街道を走っていたんだが、商人やらハンターやらとすれ違う頻度が高く、女の子をお姫様抱っこして街道を疾走する男の姿は怪しすぎると思い、街道を少し外れて移動する事にした結果だ。ちなみに普通の色をした森なので少し落ち着いたりしてる。
ライラは顔を赤くしているが、大丈夫そうだ。相変わらず可愛い。優しく降ろしてあげた。
「ジーク、休憩だぞ」
「・・・・・・」
「ジーク?」
肩車しているジークに声を掛けるが反応がない。
どうしたんだ?
「おーい、寝てんのか?」
「・・・・・・い」
「ん? 何て言った?」
「・・・・・・気持ち悪い」
気持ち悪い? 酔ったのか? 乗り物酔いみたいなもんか?
「大丈夫か? とりあえず降りて・・・・・・」
「・・・・・・うっ」
「おっ、おい!? まさか!? ジーク、とりあえず・・・・・・」
危険を察知した俺が、焦ってジークを放り投げようと手をかけようとした瞬間
「うぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「やめろぉぉぉぉぉぉ」
ジークが俺の肩の上で盛大にリバースした。
「っ!? ジーク大丈夫なのです!?」
ライラがジークの背中を優しく摩っているようだ。
「ふぅ、すまないライラ。もう吐き尽くしたから大丈夫だよ」
「よかったのです」
俺の後頭部から背中にかけて、とんでもない事になっているだろう。鼻につく臭いも中々キツイ。
わかってる。ジークは酔ってしまって吐いたが、故意ではないし、悪くはないって、わかってる。わかってるんだが・・・・・・ムカツク!
うん、とりあえず殴ろう!
今回はジークはそんなに悪くないと思うし、言うなれば八つ当たりだが、俺の怒りを発散させる為に犠牲になってもらうか。
ジーク、悪く思うなよ? 一発で許してやるからさ!!
「・・・・・・っ!? ラ、ライラ、迷惑を掛けておいてこんな事を言うのは心苦しいのだが、僕の頼みを聞いてくれないかい?」
「頼みなのです? 何なのです?」
「僕をダイスケから守・・・・・・」
「ジーク! こっち来いよ!」
「い、嫌だぁ! 絶対殴ろうとしてるだろぉぉ!? ラ、ライラァァァ、僕を守ってぇぇぇ」
「ダ、ダイスケ君! 駄目なのです! 落ち着くのです!」
ゲロ塗れになった俺がジークを殴る事はライラによって阻止されてしまった。
怒りの治まらない俺だったが、ライラの魔法によりゲロで汚れた服と身体を綺麗にしてもらい、ジークを許す事を約束させられた。
浄化という水魔法らしく、汚れを綺麗に落としてくれる魔法で旅に便利らしい。
「ジーク、吐くのは構わないが俺の上で吐くな!」
「悪かったよ、でも我慢できなかったんだ。そもそもだね、もう少し振動を抑えて走ってくれれば僕も酔わずに済んだと思わないか?」
むっ、振動を抑えて走る・・・・・・うーん、全速力じゃなくスピードを少し抑えれば幾らかマシだと思うが、アーデル村に着くのが遅くなってしまうしなぁ。それでライラの両親が手遅れになったら最悪だし、うん、無理だな。
「ジーク、アーデル村に着くまでは諦めろ! その後は速さを調整して振動を抑えるようするが、今はアーデル村になるべく早く着くのが大切だ。わかったな?」
「まぁそうだね。ライラの為だし、今回だけは我慢するとしようか。なぁに、僕も同じ失敗は二度と繰り返さないさ! 安心したまえ」
「2人ともありがとうなのです!」
それから数回の休憩を挟み、日が暮れてきたので、適当な場所を見つけて野宿する事になった。
ライラは顔は赤いが元気で、焚き木を集めていて、ジークは真っ青でダウンしている。
休憩する度に吐いていたからな。
俺は晩飯の調達係で、獲物を探して辺りを散策している。
あまり遠くに行くと迷って帰ってこれなくなるから、遠くには行かないようにと死にかけのジークに釘を刺されたので遠くには行けずに、獲物が中々見つからない。
それでも晩飯の為に諦めずに暫く探し続けていると
ガサッ
前方の茂みから物音が聞こえると同時に何かが飛び出して来た。
俺は咄嗟に何かをぶん殴ると
グチャッ
一撃で何かを葬ったようだ。
問題はその何かがグチャグチャに潰れて何かわからない・・・・・・いや、そもそも異世界に来たばかりだから何かわからないか。
大きさは全長2メートルって所で、爪が鋭いっぽい。
とりあえず魔石を取り出していると
ガサッ
ガサッ
ガサッ
複数の何かが、茂みから飛び出して来たので、今度は潰さないようにと、手加減して素早くぶん殴った。
ギィッ! と悲鳴を上げてぶっ飛んでいった複数の何かに近付くと何とか潰さずに仕留めたようで、翼が生えた猫みたいな生物とわかった。
「うーん、食えるかわからんなぁ。ライラに確認してもらおう」
1体の死体だけ持ち帰る事にして、放置する死体から魔石を取り出し、俺はライラ達の元に戻る事にした。
「ダイスケ、無事に戻って来れたようだね。それが今日の晩餐かい? 僕の舌を満足させる事が出来るか楽しみだ」
「あっ、ダイスケ君! お帰りなのです」
「ライラ、これ食えるかわかるか?」
野宿する場所まで戻ると、ジークが復活していた。
「Cランクの魔物のウィングタイガーなのです! 流石ダイスケ君なのです! とっても美味しいのです」
相変わらず安易な名前だが、食えるなら何でもいいか。
ライラがウィングタイガーの解体をしてくれている間に、雑貨屋で買った地図をまだ一度も見てないなぁと思い、暇潰しにジークと見る事にした。
「ふむ、これはかなり大雑把だね」
「だな。だが、ないよりは全然マシだろ? 今は大体この辺か?」
地図は聞いた通り大雑把だった。
記されているのは街や村の位置に魔境の場所やその他の危険な場所。
まぁこんな地図でも俺達にとっては役に立つ。
例えばアストリア王国の街や村の数がわかった。
街が5箇所に村が14箇所、後は王都だ。ここからミアが訪れた街や村を消去して、ミアが訪れていない街や村をリストアップする。
このリストアップした街や村にミラ達がいる可能性が高いってわけだ!
俺のナイスな考えをドヤ顔でジークに伝えると
「ダイスケにしては中々な意見だね。だが、まだ甘いね」
「っ!? 甘いだと? どういう事だ?」
「より効率的に動く為に、リストアップした街や村が今現在滅びてないかの確認をした方がいいと思う」
確かに最もな意見だ。
もし滅びた街や村があったとしたら、言い方は悪いが無駄足になるしな。
問題は・・・どうやって確認するかだな。いや情報収集するしかないんだけど、よく考えれば情報収集ってどうやるんだ?
「ダイスケ、この魔物が蔓延る異世界を自由に動き回るのはどんな職種の人間かな?」
こういう時エスパーは便利だな。会話がスムーズだ。
自由に動き回るのは・・・・・・まず商人と後は・・・・・・ハンターか!
「その通りなのだよ。まぁ他にも僕等が知らない世界を回る職種はいるかも知れないが、商人とハンターは確実だろう。特に高ランクのハンターだね。各地の魔物を討伐する為に多くの街や村を訪れている可能性が高いと思われる」
高ランクのハンターなら確かに各地を回って魔物を討伐している可能性が更に高くなるな。
ならアーデル村に着いたらハンターギルドに行って高ランクのハンターが滞在しているか確認するのが最善だな。
「ふむ、確かに最善だ。だけどねダイスケ、今できる最善もあるのだよ?」
今できる最善?
どういう事・・・・・・あっ!
「気付いたようだね。その通り! ライラだよ!」
見た目の可愛いさで忘れていたが、ライラもBランクのハンターだ!
「ダイスケ君、ジーク、お肉焼けたのです! 食べるのです」
「やっとか。ライラには食事をしながら訊ねてみるといいよ。さぁ! 僕の舌を満足させる事が出来る肉かな」
「だな! とりあえず飯にしよう」
腹ペコな俺達はライラの元へと小走りで向かった。




