20 白い狐の仮面の価値
「ふわぁ、よく寝た! やっぱり布団だと疲れの取れ方が違うな」
日が昇る前に目覚めた俺は、身体を軽く解し、修練の為に宿を出て街の外へと向かう。
周りに人がいない開けた場所を見つけて、2時間程身体を動かしてから宿へと戻り、風呂に入って汗を流す。
俺がさっぱりして部屋に戻るとライラが起きていた。
「おはようさん」
「ふわぁ、おはようなのです」
少し眠そうな緩んだ顔をしている。
そんな顔も可愛い。可愛い子は基本的に可愛いんだなと、一人で納得していると
「ふわぁ、僕もまだまだ未熟だという事か」
わけのわからん事を言いながら、ジークが起きた。
その後、ジークに聖なるお菓子を強請られて、少しからかってから渡していると、ライラの着替えが済んだようなので、宿を引き払い、朝食を食べに中央広場の露店へと向かう。
いやぁ、昨日から気になってたんだよな。何を食べるか悩ましい所だ。
焼き鳥っぽいのも美味そうだし、クレープっぽいのも甘くて美味そうだ。
他にも色んな食べ物が売っていて悩ましかったのだが、ある露店の前でジークに髪を引っ張られたので、そこで朝食を買う事に決めた。
ジークはもちろん姿を消している。
目の前の露店には白いパンの様なものに肉を挟んでいるハンバーガーみたいな食べ物が売っていた。
「いらっしゃい! ギカントボアの肉をたっぷり使ったボアサンド! 1つ銅貨3枚だよ! 美味いぜ!」
露店のおっちゃんが、食い物の説明と値段を教えてくれた。
ギカントボアって確か最初に倒した猪だったな。銅貨3枚か、安いのか高いのかわからんが、腹減ってるしな。
ジークの分も考えて多めに買うか。
「おっちゃん、ボアサンド10個くれ!」
「あいよ! にいちゃん、朝から食うねぇ! 銀貨3枚だ!」
支払いを済ませて、ボアサンドを受け取る。出来たてのようで温かくて美味そうだ。
ライラは何を買ってるのかな? と周りを見渡すと他の露店でクレープみたいな物を買っている。
クレープっぽい物を買ったライラと合流し、周りに人がいない路地を見つけたので座りこんで飯を食う事にした。
広場のベンチで食いたかったが、ジークがいるしな。
ボアサンドは噛めば肉汁が溢れ肉の旨みが広がって、美味かった。
ジークもご満悦なようで、無言で貪っている。
ジークが5個、俺が4個平らげて、俺が残りの1個を食べているとライラと目が合った。
しまった! ライラも食べたかったのか。俺とした事が、美味いもんだから夢中になっていて気が回らなかったようだ。でもまだ間に合う。一口程度だがまだ残ってる! 完食する前に気がついてよかったぜ。
「悪いなライラ、ほらこれ」
「えっ? なんなのです?」
「いいから遠慮するな、ほら、あ~んして」
「えっ? あ、あーんなのです」
遠慮しているライラが俺を気遣ってか惚けるので、あ~んしたライラの口に一口サイズのボアサンドを放り込む。
「っ!?」
「どうだ? 美味いだろ?」
俺が笑顔で話しかけると、ボアサンドを食べ終えたライラが顔を真っ赤に染めて頬に手をやり、
「ダ、ダイスケ君、い、一体どういうつもりなのです?」
「ん? 食いたかったんじゃないのか?ボアサンド見てただろ?」
「ち、違うのです! あ、あれはボアサンドを見てたわけじゃなくて・・・・・・」
「違うのか? まぁでも美味かっただろ?」
「お、美味しかったのです」
「ならよかった!」
「ふむ、僕の舌を満足させるに相応しい食事だった。ボアサンドか、覚えておこう」
俺達は朝食を終えて、路地を出て職人街へと向かう。
俺は地図が欲しいから雑貨屋、ライラは武具の調整の為鍛冶屋に向かい別行動だ。
鐘がなる頃に門の近くで待ち合わせをしているので別行動でも問題ないだろう。
ちなみに鐘は街の住人に時間を知らせる為に鳴らされているらしく、朝から夜まで6回なるらしい。今朝修練をしている最中に鳴って、宿を出てから露店に着くまでにも鳴っていたので、おそらくだが3時間に1回鳴ると予測している。
レムレールに来て数日だが、1日の長さは元の世界と変わらないっぽい。
1年も12ヶ月で四季があるのも、ミアの日記によって確認しているので、細かく違いがあるかもだが、大体は元の世界と同じだと思う。
時の流れに違和感を感じず過ごせるのは有難い事だ。元いた世界と違い過ぎたら苦労しそうだしな。
雑貨屋の場所をライラに教えてもらい時々ジークに「そっちじゃないぞ!」と耳元で注意されながら暫く歩き続けて、ようやく雑貨屋に辿り着いた。
「ふぅ、結構遠かったな」
いてっ、いててっ、髪を引っ張るな!
ジークめ! 俺が方向音痴だから時間が余計にかかったと言いたいのか!!
「よくわかってるじゃないか」
俺にしか聞こえないように耳元で囁くジーク。
何で俺が考えてる事がわかるんだよ! エスパーめ!
「ダイスケは単純だからさ」
もう俺喋らなくてもよくね?
そんなこんなで雑貨屋へと入り、地図の前に何か使えそうな物は売ってないかなぁと、店内を物色する。
軽い傷を治す回復薬が銀貨5枚、ほんの少し魔力を回復させる魔法薬が金貨3枚だった。高額過ぎるだろ!と思ったものの、異世界4日目の俺が適正価格を知るわけがない。でも高いと思う。
気になったので店主のおばちゃんに何でこんなに高額なのかと聞いた所
「今は各地で魔物と戦ってるだろ? だから、回復薬や魔法薬が品薄状態でね、価値が上がっているんだよ」
との事らしい。
まぁ納得だな。どっちみち俺には必要ないけどな。回復魔法使えるし、魔力ないし。
再び店内を見回ってた俺はある物を見つけた。
それは白い狐の仮面だった。目元の穴が細く釣りあがっていて、口も何ていうか不適に笑っていてかなり不気味で凶々しい。そして・・・・・・お値段なんとびっくり金貨10枚! って誰が買うんだよ! って突っ込みたい、ってか突っ込もう。
「おばちゃん! この仮面不気味な上に何でこんな高いんだよ!? 誰が買うんだよ!!」
「あぁその仮面かい、その仮面はね、この店の開業当時からあるらしく数百年は売れてないんだ。気味が悪い上に高いだろ? だからまったく売れないし値段を安くしたいんだけど、先祖代々から価値がある物だから値段は下げないようにと伝えられていてね、値段を下げれないんだよ」
古くから店で売れ残ってる仮面か。何故高いのかはおばちゃんにもわからないのか。まぁどうでもいいか。
俺には必要ない。いや俺じゃなくてもこんな不気味な仮面を金貨10枚出して買う物好きは・・・・・・
クイッ
クイッ
クイッ
ジークが俺の髪を引っ張り何やらアピールしてくる。
まさかこの馬鹿精霊、この不気味な仮面が欲しいとか思ってるんじゃないだろうな!
クイッ
そうだって事か!? まじか! 馬鹿だとは思っていたが、ここまで馬鹿な奴とは思っていな・・・・・・
グィッ!!
「・・・・・・っ!? いてぇ!」
「お兄ちゃん? どうしたんだい?」
「あっ、いや何でもない」
ジークの奴、思いっきり髪を引っ張りやがった! いてぇぞ! この野郎!
クイッ
クイッ
クイッ
あぁ、もうウザい!
わかったよ! 買えばいいんだろ!?
ガキンチョめ! もうヤケクソだ!
「おばちゃん! この仮面買うよ! 後地図も買いたい!」
「えっ? お兄ちゃん正気かい!? こんな仮面に金貨10枚だよ? それに地図ってあんな適当な地図が欲しいのかい? そっちは金貨20枚だよ?」
おばちゃんが俺が正気か疑っている。
おばちゃん、俺は正気なんだ・・・・・・馬鹿精霊が狂ってるんだ。
「あぁ、構わないよ」
「そうかい。まぁ私としては嬉しいんだけどさ!」
俺は金貨30枚を払い、不気味な仮面と地図を手に入れた。
雑貨屋を出た俺は、時間にはまだ早いがジークの導きによって門へと向かい、そのまま街の外に出て少し離れた草原までやってきてジークに声を掛ける。
「納得いく説明して貰うぞ?? こんな不気味な仮面を買わせやがって、これでボアサンド何個食えると思ってるんだよ!!」
「ふぅ、僕は残念に思うよ。ダイスケがこの白い仮面の価値がわからない事をね」
なっ!? この白い仮面に価値があるだと?? 俺には不気味で凶々しい趣味の悪い仮面にしか見えないんだが、精霊のジークが言っているんだ。何かあるというのか??
「ジーク俺には凶々しい不気味な仮面っていうくらいしかわからん、説明してくれ」
「惜しい、実に惜しいね、ダイスケ。凶々しさを感じたのだろ? ただの仮面に凶々しさ等普通感じると思うかい? そしてこの仮面は数百年以上前の物だ。そこから僕は推測した。驚くなよ? この不気味な仮面はね、おそらく神が授けたアーティファクトだ!」
「神が授けたアーティファクト!?」
ノリで驚いたが、アーティファクトの価値がわからん。
ジークは得意気な顔をして鼻を擦っている。
まぁよくわからんがジーク曰く凄い物っぽいな。でもどういった効果があるかわからないし、結局使い道がなくないか?
「ダイスケ、脳筋すぎるよ? 解析を仮面に使いたまえ!」
なるほど! 俺とした事がすっかり忘れてたぜ! 脳筋だと言われても仕方ない。さっそく使ってみよう!
対象を白い仮面にしてっと。
「解析!」
【呪いの仮面】
【魔物によって殺された者達の怨念が篭った仮面。
仮面を装着すると、負の感情に取り込まれ精神に異常をおこし、狂ってしまう。死ぬまで外せない】
「・・・・・・」
「ダイスケ、どうだった? 勿体ぶらないで教えてくれないかい? さぞかし素晴らしい効果の・・・・・・」
「・・・・・・が」
「ん? ダイスケ今何て言ったんだい? 声が小さくて聞こえなかったよ。もう一度・・・・・・」
「このぉぉぉぉ! 馬鹿精霊がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ひっ! ひぃぃぃぃぃ!? な、なんでぇぇぇぇぇ」
俺の怒りの咆哮とジークの悲鳴が辺り一帯に響き渡る、クソッ、やっちまった。
ジークに唆されたとはいえ、何の役にも立たない呪われた仮面に金貨10枚も払ってしまった。
俺は、とりあえず馬鹿精霊に落とし前をつけさせる事にした
「ジーク、こっちに来いよ! 俺が殴ってやる!」
「ちょっ、待つんだダイスケ! 落ち着くんだ! お、落ち着いてぇぇ! せめて状況を把握させてぇぇぇ!」
懇願するジークに呪いの仮面だという事、装着すれば狂って死ぬまで外れない事を説明してやった。
何が神の授けたアーティファクトだ!
俯き俺の拳骨を恐れているのか震えるジーク。
だが容赦はしねぇぞ! しっかり反省させないとまた同じ失敗を繰り返す可能性があるからな。
「偉大なる大精霊様、状況はわかったよな? 観念してこっちに・・・・・・」
「フッ、フハハハハァァ!」
「っ!?」
何故かいきなり笑い出した大精霊。
恐怖で狂ったのか!? わけがわからず混乱する俺に笑い終えたジークが、はぁと息を吐き出し、やれやれと言わんばかりに俺をチラリと見た後、話し出した。
「ダイスケ、少しは僕を信じたらどうだい? 僕は偉大なる大精霊だよ? 物を見る目は人間である君よりも確かさ。呪いの仮面だと言ったね? さぁここで問題だ! 強い呪いを持つ仮面だが、呪いが解けたらどうなるかな??」
呪いを解くだと? 思いつきもしなかったが、確かステータスで確認した魔法の中に呪いを解く事ができる解呪の魔法があった。
呪いを解き放つ事により、あの仮面がとんでもない代物に変わるって言うのか? そんな都合のいい話が、と思うが、ジークのあの余裕の顔・・・・・・自信があるらしい。
仕方ない、SPを消費するのは勿体無い気がするがここはジークを信じてみる事にしよう。
「わかった! ジークを信じて仮面の呪いを解き放つ!」
「理解してくれて嬉しく思うよ。僕も無実の罪で殴られるのは嫌だからね。さぁ早速解き放つんだ!」
俺は凶々しい呪われた仮面を対象に魔法を唱える。
「解呪!」
すると仮面を浄化の光が包み込み、仮面の凶々しさが薄れていくのがわかる。数分もすると、凶々しさが完全に消えたようだった。
「上手くいったようだね。凶々しさが消えて神々しさが出たと思わないかい? さぁダイスケ解析を使ってみるといい!」
確かにジークが言ったように、凶々しさが消えて神々しさが出た様な気がする。不気味だと思っていた狐の表情も寧ろ凛々しく見える・・・・・・これは期待できそうだ!
「解析!」
【白い狐の仮面】
【遥か昔に動物好きの職人が作った仮面。装着すると動物に(特に狐)好かれる】
「・・・・・・」
「ダイスケ? 言葉を失う程素晴らしい効果があるのかい? 早く僕にもその神々しい仮面の効果を教えてくれないかい?」
「装着すると動物に好かれるらしい」
「・・・・・・」
「特に狐に好かれるそうだ」
「・・・・・・」
「ジーク、何か言う事はあるか?」
「ないです。すいませんでした」
「あぁ、さっさと終わらせよう。こっち来いよ」
「はい・・・・・・ギャフンッ!」
ジークに拳骨しても気持ちは晴れない
金貨10枚を払い大量のSPを使って手に入れたのは、動物に好かれる効果がある狐の仮面。
半泣きで蹲っていたジークに無言で仮面を差し出し、アイテムボックスに収納させ、ついでに近くの岩場の陰に精霊陣を設置させた。何かジークが呟くと光って地面に陣が現れた。
その後、ジークを肩に乗せて門へと向かう。そろそろライラとの待ち合わせの時間が近い筈だ。
カーン
カーン
カーン
ほら、鐘が鳴った。
門の方向を見るとライラがこちらに向かって手を振っている。
「ジーク、ライラには仮面内緒な」
「もちろんだよ。あの仮面の事は忘れよう」
男の約束をして俺達はライラと合流してアーデル村へと旅立った。




