19 今後の方針
宿に戻って一息ついた俺は、ジークをベッドに放り投げ、凝った肩と首を回して解す。
ふぎゃっ、と聞こえたので多分起きただろう。
ライラは今は部屋に備えつけられている風呂に入っている。
風呂に入るライラを想像して鼻の下が伸びそうになるが、そんなやらしい事を考えている暇はない。
今後の事を考えなければ。その為に優しくジークを起こしたのだ。
「ダイスケ! もっと優しく起こしてくれたまえ!」
「優しくしたつもりなんだけどな。まぁそんな事はいいじゃないか。今後について話そう」
「・・・・・・はぁ、わかったよ。でも次からはもっと優しく起こしてくれたまえ!」
「はいはい。それでライラの故郷に向かう事になってるが、その後どうする? 魔石が売れて今手元に金貨42枚と銀貨1枚あるぞ」
宿に戻ってからすぐにライラから魔石の取り分を受け取った。
Dランクのブラッドウルフの魔石が1個で銀貨6枚で21個分。
Cランクのギガントボアの魔石が1個で金貨3枚で10個分。
合わせて金貨42枚と銀貨6枚を受け取りそこから宿代を払った。
ライラが半分でいいと中々受け取らなかったが、美味い食事のお礼だと言うと渋々納得してくれた。まぁ、色々世話になってるし、これくらいはしないとな。
「ふむ、それだけあればアストリア王国の地図が買えるね。ライラから聞いた情報が正しければだが」
食事の際ライラに地図が手に入らないかと相談した所、地図は雑貨屋で売っているらしい。
値段は金貨20枚とかなりの値段だ。しかも、かなり大雑把な地図らしい。
大体この辺に村があってその東に森がありますよ、みたいなレベルらしいのだ。細かな距離や街道などはのっておらず、適当らしい。
では何故そんなに高いのか・・・・・・理由は地図を作成した人が何年もかけて苦労して作ったかららしい。このぐらい高くないと元が取れないのであろう。
高い上に大雑把な地図・・・・・・誰が買うというんだ? って話になる。まったくその通りでどの地域でも全く売れない不人気商品だ。だが、そんな適当な地図でも何もないよりはマシだと俺は考える。大体どの辺に王都があって何処に何の村があるのか、知っているのと知らないのでは効率が変わってくるだろうしな。
「あぁ、ないよりはマシだと思うし、明日の出発前に買おうと思う。それで大まかな地理を把握してからだが、とりあえずリンジャーに戻って来るかどうかを決めたい」
「うん、それでいいんじゃないか。戻ってくるかどうかわからないが、とりあえず精霊陣だけでも街の近くに設置しとこう。そうすればいつでも戻って来れるし、今は何処にも設置してないから問題ない」
「よし、とりあえず出発前に地図を買って街の近くに精霊陣を設置する。その後ライラと合流してライラの故郷の村に行って、情報収集しつつ、地図を見てどうするか決めよう」
「問題ないね。後はそうだな・・・・・・君は今の段階で何を優先して行動するんだい? それによっては大きく動き方が変わっていくだろうしね」
とりあえずの方針は決まった。今出来る最善だと思いたい。
さて、ジークの問いに答えねば。何を優先するか、ミア・・・・・・勇者は言い方が悪いが今は放置だ。日記を見る限り数ヶ月は問題ないだろう。他にやる事がなければ、王都に向かい手助けをするんだが、やるべき事はある。ミラと両親の安否を一刻も早く確かめる事だ。もう何か不幸があってこの世にはいないのかもしれないが、それでも生きているのか、死んでいるのかを知るだけでも今後の行動に大きく関わってくると思う。願わくば生きていてほしい。そしたらミアと再会させて、ミアもミラ達もきっと笑顔で喜んでくれるはず。だから・・・・・・今、優先すべきはミラ達の安否を確かめる事、それしかない。
「ミラ・・・・・・ミランダとその両親を捜索する事を優先する。ミアの日記に出てこなかった村を重点的に訪れて、地道な聞き込みだな」
「うん、具体的でいい案だと思うよ。
でも詰めが甘いねダイスケ君。何故探しているのか? 実際見つけたらどうするのか、細かい事も考えておいた方がよいと思わないかい? 知り合いでもないダイスケがミランダとその家族を探していて、不審がられる可能性も充分にある。それにね、もし目の前に本人が居たとしても顔も知らないのだから、怪しまれて本人に違いますとシラを切られたらお終いだよ?」
「っ!? なるほど、深い・・・・・・深すぎる意見だ。さすが大精霊といった所か」
ジークの意見は深すぎる。俺の考えは浅すぎた。
知らない奴にいきなり貴方はシンドウダイスケですか? って聞かれたらどう答える? そうですって言えるか? 俺は言える。そして襲ってきたら返り討ちにして・・・・・・って考えだったが、皆が皆そういうわけじゃないんだな。
もっと物事を客観的に見なければ。
ジークに教えられるとは・・・・・・悔しいような気もするが、流石だ。俺だけじゃ考えもつかなかった。
俺が褒めた事が余程嬉しかったのか、ニンマリ笑うジーク。
「フハハハハァ! 僕は君の相棒だからね。役に立つだろう? ダイスケがどうしてもと言うなら聖なるお菓子をくれてもいいんだよ? フハハハハァ」
ちゃっかり聖なるお菓子を要求する食いしん坊ジーク。
まぁまだ残ってるし、いいんだけどな。
「わかったよ。貴重な意見ありがとな、ジーク」
「あれ? どうしたのです? ジークご機嫌なのです」
ライラが風呂から出てきた。
頬がほんのり上気していて、格好も寝巻きなのか薄い桃色の服を着ている。何ていうか・・・・・・色っぽい。
ライラもいるし、とりあえず話はここまでだな。
俺も風呂に入るか。
「俺がジークを褒めたんだよ。風呂入ってくるから眠かったら先に寝てて構わないからな。ジークもな」
ご機嫌なジークをライラに押しつけて俺は風呂場へと向かった。
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「ねぇジーク、何を褒められたのです?」
「ダイスケがある問題を解決する為に解決案を述べたのだけどね、その案が少し浅はかでね、僕が深い意見でその案の問題点を指摘したのだよ。ライラにも見せたかったよ。ダイスケの僕を尊敬する眼差しを」
「そうなのです? ジークは賢いのです」
僕はご機嫌だ。ダイスケに褒められるし、ライラに頭を撫でられて気持ちいいしね!うしし!
頭を撫でられて、睡魔が僕に襲いかかる。ふっ、大精霊たる僕が睡魔になんか負けるはずがな・・・・・・あ、危ない! 今一瞬意識が・・・・・・何て強力な睡魔なんだ。僕はまだ眠るわけにはいかないんだ!何故ならダイスケからまだ聖なるお菓子を受け取っていないんだ。
おバカなダイスケの事だ。寝て起きれば忘れているに違いない。だから僕は寝るわけにはいか・・・・・・はっ! 危ないまた意識が。何か考えて睡魔を誤魔化さそうと、僕はライラについて考えてみる事にした。
レムレールにやって来て、ダイスケの方向音痴が功を奏し、偶然助ける事が出来た少女ライラ。もし僕達があの日あの場所に現れなければ、ダイスケが道に迷わなければ、魔物に殺されていただろう・・・・・・僕達がもし世界を救っても救えない命もあって、ライラは間違いなくその救えぬ命だったはずだ。でも、偶然が重なり、その救えぬ道から救う事が出来たんだ。
ライラは間違いなく本来あるはずのない生を歩んでいる。手に入れた雫によって両親が助かれば両親も本来あるはずのなかった生を歩む。
これからの僕達の行動で、多くの人々の運命が変わっていくだろう。新しい生を掴んだ者達が、これからどう関わり、そして未来がどういう風に変わっていくのか、大精霊である僕にも予測できな・・・・・・
「?? おーいなのです、ジーク??」
難し・・・・・・もんだ・・・・・・
「ふふっ、寝ちゃったのです。可愛いのです」
翌朝睡魔に負けた事に気付いた僕は自分の未熟さを嘆いた。
ダイスケに聖なるお菓子を求めると
「ん? そんな事言ったか?」
やっぱり忘れてたと、落ち込む僕に
「はは、冗談だよ! 昨日は貴重な意見ありがとうな! 相棒」
ダイスケ! 見直したぞ! 僕は今猛烈に感動している。
朝から聖なるお菓子を食べたご機嫌な僕の一日が始まる。




