事件の影・上
3人がファストフード店に向かうために、近くの小さな商店街を通り過ぎようとした時のことだ。
(……クンッ)
「……ん?」
不意に、何かおかしな気配を感じて雅哉が動きを止めた。
「どうした?」
「なにかあった?」
重なるように智一とさとりが問いかける。2人は雅哉が足を止めたことで、わずか以上に周囲に気を張っていた。
そもそも、2人が雅哉についてきたのは護衛の――というよりも、独立行動させない――ためのもので、万が一以上の確率で起こり得る襲撃者に備えてのことだから、当然だ。
「敵か?」
そう聞く智一は雅哉ほどケンカに強くはないし、隣で警戒をあらわにするさとりに至っては女の子だ。
それでも1人と3人とでは、数が違うし、2人とも並み以上の強さを持っているのだが|(特にさとりは何か武術をかじっているらしく、智一よりも強かった)。
警戒心を強め、呼吸が詰まりそうな空気の中で、雅哉は1人自然体で首を横に振った。
「いや……」
そう口にする雅哉の歯切れは悪い。
「なら何?」
かすかに警戒をほどきながら、さとりが尋ねた。
だが、雅哉は「よくわからない」といって風に首を振る。
「なんか妙な気配がしたんだよ……。気配というよりも、感覚かな? 言いにくいんだが……エレベーターが止まった時の、一瞬の揺れみたいな。お前らは感じなかったのか?」
その雅哉の問いに、2人はそろって首を振った。
「……気のせいか?」
その独り言に、2人は答えを返さない。かすかに首をひねるだけだ。
「さぁ?」
「わからない」
2人では感じられなかったことを、雅哉なら感じてもおかしくないとでもいうように。
だから、結論付けるのは雅哉だと考えたのだ。
けれど2人の答えを聞いて、少し悩むそぶりを見せた雅哉は、割とすぐに「なら、べつにいいか」と結論を出した。
「ん? いいのか」
「ああ、かまわないだろう」
やけにあっさりとした結論に智一が口を挟んだが、そのまま結論は変わらない。
「何かあったら、あった後に考えるさ」
「…………」
私たちのことも考えてくれてるのよね? というさとりの視線はスルーして、雅哉はせっせと歩きだす。
そのあとに2人が続きそうになって――そのあたりで違和感に気が付いた。
「……あれ?」
「なに? また何かあったの?」
さとりの声に、智一が口を閉ざす。立て続けに起きた(らしい)違和感に、周囲の警戒に集中することにしたらしい。
そして、今度こそ違和感に気が付いた雅哉がある一点を指差した。
「いや、ほら。あそこ」
「ん?」
「なんだ?」
2人は指で刺された方角に目を向けた。
そこは小洒落たクレープの屋台車のそばで、彼らと同年代の、制服を着た女子生徒が何人か談笑していた。
「ん? あの子たちがどうかしたのか?」
その情景は、町にありふれている下校途中の少女たちの一幕だ。特にこちらに関心を持っている風もない。
それがどうかしたのか? と、さとりも智一も首をかしげて雅哉を見ていた。
けれど、雅哉の答えは2人の予期せぬものだった。
「いや、その奥だよ。どこかのオッチャンが、やけに近づいてるだろ。あの子たちの誰も、そのことに気にしてないんだよ」
「は?」
「え?」
まさかの答えに智一もさとりも絶句する。
1拍遅れて、まさか――と確認するつもりで彼女たちを見てみるが、そこに彼の言う「オッチャン」の姿は確認できなかった。
2人は再び雅哉を見つめて、ぽかんと唖然とする。雅哉はその様子に気づかない。
「…………」
「…………」
――まさか、痛覚がないことが原因でボケでも発症したか? と智一が不安がり。
――まさか、霊視能力でもあるの? とさとりがまだ見ぬ雅哉の能力に驚嘆しかけたとき。
「……あ?」
ただ1人、少女たちから目をそらしていなかった雅哉が、不機嫌そうな声を上げた。
「っ」
「!」
――不躾な想像をしていたことを気づかれた!? と2人が不安がるよりも早く。
雅哉は一歩踏み出し、走り出した。
「え?」
「どうしたっ?」
何も言わずに走り去る雅哉をようやく視線で追いかけ、その先に映る光景に今更ながらに気が付いた。
――少女たちの1人が、今まさに倒れようとしていた。




