捨てる神あれば……
放課後になって雅哉は約束通りに2人を待っていた。
待っていた、といっても同じ教室内でのことだから、鞄を机の上において2人が寄ってくるのを仕掛けた罠のようにじっとしていただけで、1分もしないうちに2人は寄ってきたのだけれど。
なんとかホイホ――いや、なんでもない。
「おう、ちゃんと待ってんなー」
「ちぇっ……逃げたらパフェおごってもらえたのになぁ」
「……だから逃げなかったんだよ」
雅哉はため息をついて、小さくさとりを眺めた。
口にしたことは本当に履行しようとするから、油断ならない。言質は――一方的にだが――とられているし、それを拒否してもいないので、正義はあちらにある。
逃げたら食われる――財布の中身を犠牲にした高カロリースウィーツを――ので、おとなしくしている。
「……あまり食ってたら太るぞ」
「んん? なんだってぇ?」
「いえ、なんでもないデス」
「形無しだなぁ」
おとなしくしていたのは一瞬で、些細な抵抗を口にした雅哉はその後瞬殺された。
その光景を目の当たりにしていた智一は、みんなに恐れられる不良学生が一般女学生の尻に敷かれるという構図にある種の感嘆をこぼしている。
「……はぁ」
人気のまだ収まりきらない廊下に目を向けた雅哉は、ふたたび小さくため息を吐いた。
今出て行ったら、ちょっとした騒動になるかもしれないが、そのことを気にするのも馬鹿らしい。とはいえ、面倒事は避けたいというのがどちらかといえば本音だろう。
3人はおとなしく待って、人気が少なくなるまで雑談しながら時間をつぶした。話題は昼休みにのぼった『原因不明の事件について』で、話の種には困らなかった。3人の間で、あーだこーだと夢物語のような憶測が飛び交う。
「――そろそろいくか」
10分もすると廊下はある程度の静まりを見せ、教室内にいたってはがらんどうだ。
これは、雅哉と同じ空間に長居したくなかったという精神が働いた結果だろう。いつもなら、同じようなグループがあと2,3は残っているはずだ。
「そだな」
「そうね」
2人もすぐに同調を見せ、生徒玄関へ向かい、校門を出る。
そこに至るまでに生徒が多数残っていたのだが、彼ら――特に雅哉――を見ると、ある程度は道が割れ、割と窮屈な思いをせずに敷地外へと出ることができた。
「ほんと便利だよなー」
「うっせえ」
智一のおどけたような言葉に、すねたような雅哉の声が重なる。その様子を見てさとりはくすくすと笑っていた。
適当な会話をしながら通学路を歩く。カラカラという音が、歩くたびに鳴り響く。
さとりを除いた2人は徒歩で、さとりだけが自転車だった。方向では同じなので、途中まで歩いて途中から自転車という具合だ。
「ねぇ、どうせだからどこかに食べに行かない?」
1人だけ自転車で仲間外れの意識があったから……というわけでもないのだろうが、さとりがそんな風に提案した。
「いいぜ」
智一があっさりと賛同する。彼の頭の中には、近くのファストフード店の名前がいくつも浮かび上がっていた。
「俺のおごりか?」
一方、雅哉は少し不安そうな声を上げる。
少しくらいおごっても構わないのだが、いわゆるこれはポーズだった。
こうしておかないと、少し高めの店をおごらされかねない――そのくらいはわかるようになっていた。
「ううん、トモだよ」
「俺かよっ?」
「わかった」
「変わり身はぇえな!」
なぜか急に矛先を向けられた智一が大げさに狼狽の声を上げた。
その様子を見たさとりはまたくすくすと笑い、雅哉ものどを鳴らして笑った。
ひとしきり笑うと満足したのか、さっさと助け舟を出し、気安く肩をたたく雅哉。
「しょーがねえな……自分の分くらいは自分で持つよ」
「しょーがないわね……私も自分の分くらいは払うわ、トモ」
すぐにさとりも同調し、「感謝しなさいよね?」と背中をたたいた。
「おまえら……!」
智一は二人の優しさに感動し、バッと顔を上げて2人の顔を凝視した。そして一言。
「何いい感じにまとめてんだっ!」
その叫びに2人は闊達に笑う。まるで自分を捨てた神に拾われたような状況だった。
すなわち一種のコントである。




