お昼休み・前
お昼休み3部作です
最後の授業中には、後ろの席から頻繁にルーズリーフの切れ端に書かれた手紙を何度も突きつけられた。
その内容は、初めに「痛みがないからって体に問題が出ないわけではない」ことを書かれた内容で、次に体の不調を確かめる内容、その次は昼休みにじっくり話し合おうという内容で、最後に逃げるなという内容が送られた。
その後は、身のない内容の手紙が何度か渡されたのだが、それは一貫して雅哉が手紙を返さなかったから、むくれたさとりがごねた結果である。
(キーン、コーン……)
そしてチャイムが鳴り響く。
2人は待っていましたとばかりに迅速に弁当箱をもって席を立った。
「ちっ……素早い!」
半ば冗談で逃げようとして、あっさりと阻止された。
その冗談を察しつつ、智一とさとりは『にやぁ』という表現が似合いそうな笑みを浮かべて勝ち誇る。
「おとなしくしようなぁ?」
「逃げるなって言ったでしょーが」
雅哉が学食なので、今日は珍しく3人で昼食。
いつもは雅哉は一人で学食、後の2人はそれぞれ別の、男友達と女友達とで食事するのが通例だ。
その別々の席は雅哉の印象を払しょくしようという些細な努力の形だと、雅哉はわかっていない。
「おーなんか便利だなぁ」
「嫌われ者も善し悪しね」
「てめぇら……」
雅哉が今日の定食を買って、2人がとってくれた席へ向かう。その席でまずかけられた声がそれだった。
学食にて3人で食べる機会は、あまり多くないが何度もある。1年6組の面々ならば当然のように知っていることでも、少ししか彼らを知らない生徒はそうではない。
……何が言いたいのかというと、雅哉とともに学食へと入ってきた智一とさとりは、雅哉の取り巻きとして一般の学食利用生徒からは思われているということだ。
「俺たちが席を探していたら、勝手に席が空いたぞ?」
「まさやも、大体半分くらい進んでいたよね……譲られて」
「クッ……」
確かにその通りなのだ。
噂に踊らされた?1年生の何人かが初め雅哉の機嫌を損ねまいと自分の前を譲り、それを何度かするうちに後ろに並んでいた先輩が怒り、謝ることなくしれっと流して並びなおそうとしたのだが、先輩の怒りは収まらずについには――というほど耐えたわけではないが――雅哉も切れて口喧嘩、そして手が出て、圧勝。
以降、雅哉に席を譲る生徒の数は急増し、先輩の中にもいるほどだ。
並ぶことなく列を見回せば、途中のだれかが前を譲る。その後も何度か、前を譲られる時もある。
見回すことなく並んだとして、前へどうぞ――が何度も聞かされ、結局ずいぶんと前へと進む。
座席にしたって同じようなものだ。座る場所がなければ、誰かが席を譲ってくる。その恩恵が、今日は2人に貸し出されていたのだろう。
「…………」
貸し出されていたということは、すでに他者への貸し出しができるほど潤沢な畏怖が集まっているということで……。
もうすでに辟易し始めているころだ。まだ高校生活を始めて1月2月しか経っていないのに。
「……気が重い、か?」
「特別扱い好まないものね、まさやは」
雅哉の内心を読み取った2人に気を使われた。ともあれ、今日の本題はそこではない。
2人はそれぞれ、智一がパン、さとりが鮮やかなお弁当――という昼食を前に、雅哉にならって軽く手を合わせてから口をつけた。




