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40 再び戦闘へ

 駆け戻ったそこでは、いまだに混戦が続けられていた。


 バスーキンを挟むようにして、フリードリヒとディラックが戦っている。

 木から飛び降りて一人を倒しつつ、フリードリヒに笑いかけた。幸い大きな怪我はなさそうだ。



「ただいま」



 そしてすぐに剣を抜き、戦闘に参加する。

 二人とも傷だらけで、キリエは一人だけのんびりと会話をしていた自分が申し訳なくなった。



『ごめんディラック、これからきりきり働く』

『期待してるぞ』



 軽く息を弾ませて答え、ディラックはにやりと口の端だけで笑う。

 キリエも次々と襲いかかる攻撃に防戦しきりで、逃げ出すことすらできない。



『あいつ、シュレイドじゃなかった』



 攻防戦の合間にキリエが呟くと、ディラックが小さくそれに反応した。



『じゃあ誰なんだ? まさか、(フェイク)か?』

『違う。あたしに用があったのは──ほんとっ!』



 最後の言葉と共に、キリエがまた一人を斬り殺す。



『しっかし……ここまでしつこいとは、ガッドイールも! 大概! 暇なんだな!』



 ディラックも応戦の合間に毒を吐いた。


 ガッドイール・ロストキン。ドミニゴのトップ。

 冷徹で評判のその男が、こんな見境のない指示を出すとは。



『案外、こいつ、ら! 分裂した……一派、かも! よ!!』



 肩を斬られて胸を貫き返し、返す刀でもう一人の首をはねながら、キリエが問い返す。

 が。



「…………っつ!」



 バスーキンに向けて、数十本の飛剣が放たれた。

 大半は叩き落とすことができたが、数本がとらえきれずにまっすぐ飛んでいく。


 とっさに一番近くにいたキリエが身を翻し、自身の背中でそれを受け止めた。

 灼熱にも似た感覚が背を襲うが、そんなことには構っていられない。



「キリエさん!」



 フリードリヒが悲鳴をあげるが、キリエはしっかりと両足で立って、再び戦い始める。



「毒は」

「ないわ。まだまだいける」



 ディラックと二人で平然と会話をしつつ、キリエがフリードリヒに声をかけた。



「ごめんフレディ君、ちょっとやりにくいけど、背中の抜いてくれる?」



 確かに、激しく動く相手から刃物を抜くのは大変だろう。それでもフリードリヒは、しばらくためらった後にこくりとうなずいた。



「……はい」

「お願いね。ちょっとぐらい肉削ってもいいから」



 何のためらいもなく言い切ったキリエに近づいて、フリードリヒはタイミングを見計らいながら一本ずつ抜いていく。


 どんなに神経を使っても、やはり肉がえぐれるのは避けようがなく、その度に鮮血が飛び散った。しかし、そんなことは気にもとめず、キリエは前だけを見続けている。

 それが無性にやるせなくて、フリードリヒはそっと彼女に手を伸ばした。が、それは触れる前に力なく落ちる。



「あと二十!」



 ディラックが叫び、目の前の男に剣を突き立てた。



「数えている暇があったら、さっさと動きなさい!」



 キリエも大声で言い返しつつ、刺客の剣を弾き飛ばして顔面に掌底を叩きこむ。

 あー、打ち所悪ければ死んでるわねあいつなどどのんびり思いつつ、キリエはいい加減切れ味が悪くなってきた剣を振るって一人を斬る。



「フレディ君、剣交換。何かあたしの、もう鈍器になってきた」

「あ、はい」

「なんだお前、しょぼいの使ってんな」

「うっさいわね、金がたまんないのよ」



 軽口が叩けるほど楽になってきた。やがて間もなくディラックが最後の一人を地に転がすと、全員緊張を解いて大きく息をつく。



「……お疲れー」

「本当にな」



 気の抜けた声で声をかけあうと、キリエはすっくと立ち上がった。

 その表情は、何故か先程までと同じくぴりぴりと緊張感に満ちている。



「あたし帰る。先に行ってるね」

「おい?」



 ディラックが首を傾げるが、彼女は何も言わずに立ち去った。

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