16 ししょうのでしであることのほこり
キリエ。
懐かしい声がする。
大好きで憎たらしくて、それでも大切な存在。
師匠、師匠。師匠は嘘なんかつかないよね?
必死に問いかけても、相手は微笑んで立っているだけ。
それが肯定にも否定にもとれ、キリエはさらに必死に問いかける。
師匠! 答えて、あたしに嘘なんかついてないよね?
すがりつくキリエの頭を、大きくて温かい手のひらがなでた。
キリエ。お前は、何だ?
何だって……どういうこと?
お前は今、何のためにそこにいる?
そんなの──。
そんなの、決まっている。任務だ。
お前の誇りは、そんな程度で潰れるのか?
問いかける声音は、あくまで優しい。けれど、けして甘えを許さない響き。
この人に追いつきたくて、認めてもらいたくて。そんな気持ちで過ごした日々が、一気に溢れ出した。
……師匠。
あたしは、傭兵。エムスの傭兵。
そう。今は任務を果たすことが最優先だ。
──たとえ、弟達の命が危なくとも。大切な人への信頼が揺らごうとも。
決意の色をのせて見返すと、満面の笑みが帰ってきた。
──それでこそ、俺達の弟子だ。
──ああ。
この笑顔を見るためだったら、何だってやってみせる。
騙されてもいい、この人がこうやって笑ってくれるなら。
キリエの中に、小さな炎が灯った。