15 過去を振り切って
決意を秘めた呟きだけを残して、ディラックは脇目もふらずに中庭に飛び出した。
すでに侵入を始めていた刺客達に飛剣を放ち、それぞれ急所へと沈める。数本はかわされ、木の幹に突き刺さった。
その身のこなしから一軍だと悟り、ディラックの背中に嫌な汗が浮かぶ。
それでも、引くわけにはいかなかった。
任務のため、プライドのため、そして何より戦闘不能の相棒のため。
バスターソードを抜き放ち、その勢いを利用して襲いかかってきた刺客の胴を両断する。遠心力で剣が持っていかれそうになるが、それを無視して下から薙ぐようにもう一人を斬り捨てた。
正面から返り血を浴び、小さく舌打ちをして乱暴に拭う。邸内に侵入しようとする者には飛剣で対応しつつ、身体に不釣り合いなバスターソードを巧みに操って、次々と刺客を地に沈めた。
──血にまみれると、いつもあの時の光景が目に浮かぶ。
血の海になった家。
物言わぬ骸になった家族。
そして、復讐を誓ったあの日。
キリエを喪うことを恐れるのは、彼女が妹のように思えるからだ。そんな弱い自分を、時々嗤いたくなる。
四方から襲い来るドミニゴに、ディラックの目が焦りに歪む。本当に一人で持ちこたえられるのか、こうしている間にも別ルートから邸内に侵入されているのではないか。不安材料はいくらでもあった。
一人だと、こういう時につらい。
「うらぁっ!」
気合いと共に心臓を貫き、引き抜いた反動を利用して生首を転がす。かなりの速度であるはずのスピードを落とさずに、ディラックは次々と敵を屠っていく。
加速力と重さを利用した彼の攻撃の後には、切り口からひしゃげた屍体が転がっていった。
「相手は俺だ! バスーキンを殺したいなら、まず俺を倒すんだな!」
少しでもドミニゴの注意を引きつけるために大声を出し、さらに多くの敵を仕留めていく。
斬って、刺して、貫いて。
どのくらい戦い続けただろうか、さすがのディラックも疲れの色が濃くなってきた。このままでは数に押され、こちらが負けてしまう。
どうすれば、とディラックが脳裏で計算をしていると、風のように黒い影が飛び出してきた。
すわ新手かと、反射的に剣を振るう。だが、それはいとも簡単に受け止められた。
「俺だよ、俺。なんか大変そうだから、手伝いに来た」
「──コリンさん!?」
「別の方向には、俺の仲間が行ってる。安心しろ、俺と同じ程度には強い」
コリンの強さはよく知っていたので、その一言でディラックの肩から力が抜ける。あの二人が守りを固めてくれるなら、そしてその強さをコリンが保証するなら、きっと大丈夫だ。
「ありがとうございます」
「なぁに、困った時にはお互い様だろう?」
鷹揚に笑ったコリンは、すぐに表情を引き締めて刺客の相手を始める。ディラックも気合いを入れ直して剣を振るい、数刻後には無事に撃退することができた。
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ほぼ無傷で立っている三人の傭兵に、ディラックは心の底から頭を下げる。
「本当に、ありがとうございました。俺一人では、とても対応しきれませんでした」
「お気になさらず。この屋敷を守るのも、私達の勤めですからね」
女と見紛うばかりの容姿を持った男が、ゆるりとかぶりを振って笑った。
「改めまして。私はクリュート、そしてこちらはハージェス。彼──コリンと共に行動しています」
彼らの手首はきっちりと服で覆われ、エムスの傭兵かどうかはわからない。だが、その強さは金に匹敵するだろうことは確かだった。
穏やかに微笑むクリュートに、ディラックは再び頭を下げる。
「あの薬も、本当にお世話になりました。おかげでキリエの回復も早くなっています」
「足りなくなったらまた取りに来てくださいね。傭兵たるもの、体調を万全にする事は最優先課題ですから」
「早く治してやれよ! あいつ絶対、猪突猛進タイプだからな」
優しい声音で言うクリュートに、豪快に笑うハージェス。本当に、何から何まで世話になりっぱなしだ。
ディラックの頭が、感謝の念で自然に下がった。




