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17 襲撃

 それから五日、キリエは麻酔効果のある睡眠薬を投与されながら、いまだベッドの上の人となっていた。絶えず強い睡眠薬で強制的に眠らせているため、もうじきの全快を迎えたら、きっと盛大に怒るだろう。

一方ディラックは元々体力があることもあり、ドミニゴの襲撃が途絶えているのも手伝って、ほぼ回復といえる程度までにはなっている。

 キリエの様子を覗こうとフリードリヒに話を持ちかけたその時、いきなり外が騒がしくなった。



「何が──」

「ドミニゴ、みたいだな」



 ちらりと窓の外を一瞥したディラックが冷静に言い、手元に剣を引き寄せる。



「ドミニゴ!? こんな時に……! あと少しで、キリエさんが目を覚ますのに──!」

「……そのうちまた来るだろうなーとは思ってたけどよ、こんなに早いとは予想外だな」



 キリエが昏睡状態の今、ディラック一人でドミニゴに対峙するのは非常に分が悪い。申し訳ないが、またあの傭兵達の力を借りることになりそうだ。

 忌々しげに舌打ちをしたディラックは、扉を開きながらフリードリヒを見た。



「フレディ、お前はエリシア様を守れ。キリエの部屋が一番安全だろう、あっちに隠れてろ」



 キリエの部屋は、館の一番端にある。傭兵がいるということで多少マークはされるだろうが、まさか本命が傭兵ごときの部屋で過ごしているとは思いにくいだろう。



「父上は?」

「侯爵の所に、バスーキン伯も一緒にいるはずだ。侯爵付きの傭兵達がいるだろうから、俺はそっちに加勢する」

「ディラックさん一人で──!?」

「あの襲撃の時の強さ、只者じゃねえ。あいつらがいれば、俺一人でもなんとかなる。だからお前は、キリエのところで隠れてろ」



 奥歯を噛みしめてうなるように言うと、ディラックはまっすぐにフリードリヒを見る。



「──行け、フレディ」



反論を許さない口調で命令され、フリードリヒはエリシアの部屋へと駆けだした。それを見届けたディラックは、脇目もふらず雇用主の下へと向かう。無事でいろと、相棒へ祈りだけ飛ばして。





            ****





 ディラックの指示を忠実に守り、フリードリヒは単身エリシアをキリエの部屋へと導いていた。



「こっちも駄目か……っ! エリシア、他に隠し通路は!?」

「こっち……!」



 壁にはめこまれた鏡を回転させて、薄暗い通路を駆け抜ける。館の間取りと勘を頼りに複雑な道をたどっていくと、運良く目指す部屋の居間に到着した。



「エリシア、こちらへ!」



 キリエが横たわっている寝室に逃げこんでしっかりと扉を閉じると、二人はようやく緊張を少し解く。



「まだ……ここまでは来ていないようですわね」



 エリシアの言う通り、あれほど間近で聞こえていた喧騒が今は遠い。



「この人を起こさなくても大丈夫──」

「静かに! 誰か来ます」



 言いかけたエリシアの口をふさいで、フリードリヒが小さくささやく。確かに荒々しい足音が五つ六つ、確実に彼らがいる場所に近づいてきていた。

 青ざめて震えるエリシアの肩を抱き、フリードリヒはもう片方の手で剣をつかむ。


 キリエが動けない今、自分が彼女を守らなければならない。



「キリエさんは明日の朝まで起きないはずです。先程さらに睡眠剤を投与したと、ディラックさんから聞きました」



 そんな状態では、キリエが目を覚ますことはまずないと言っていいだろう。

 足音が近づいてくる。震える手を叱咤しつつ、フリードリヒが鞘に手をかけたその時、殺気に反応してか、キリエがぼんやりと目を開けた。



「──キリエさんっ!?」



 まさか、そんなはずは。大量に追加投与したと、そう聞いていたのに。

 押し殺した声で叫ぶフリードリヒを一瞥し、外に目を向けて彼女は短く断定する。



「また、来たのね」



 そして、多少ふらつく身体でベッドから降りると、止めようとするフリードリヒには構わずに自分の剣を手に取った。



「ベッドの下に隠れてなさい。ここはあたしが何とかするから」

「キリエさん、休んでいてください」

「君じゃ無理。向こうは五人よ、君の腕じゃ五秒で息の根止められてオワリ」



 びしりとフリードリヒの鼻先に指を突きつけ、キリエはふと柔らかい笑みを浮かべる。





「……大丈夫。君達は絶対、あたしが守るから」





 だってあたしは、傭兵だから。



 そう呟くキリエは、まっすぐに前を向いていた。

 その瞳は、もう厳しい光を宿している。


 それを聞いて泣き出しそうな表情になったエリシアに、キリエが気づくことはなかった。

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