12 最終話 さようなら、そして
同じ季節が同じ彩りに見えたのはその年が最後となった。佐倉が日本で過ごした最後の季節は秋だった。佐倉が放った光彩は失われるまでその眩さで周囲を照らしていた。しかし、自然の彩りを一層鮮やかに見せたその光彩も遠い南国からは届かなかった。その佐倉が去って間もなく私は部長に昇進した。誰かが流した噂は事実となった。佐倉を通して知り合った人々がもたらした恩恵は私に過分の地位を与えたのだ。
「昇進おめでとう」
何度となく言われたその言葉が佐倉の置き土産のように感じられた。佐倉が結んだ縁が私の実績を押し上げたのだ。佐倉がインドから戻り横浜の店に勤めなければ手にすることのできなかった幸運だった。その幸運を私にもたらした当人は店を辞めると早々に日本を去った。佐倉のパプアニューギニア渡航の波紋は彼女が帰国した時同様に社内を揺るがした。彼女は誰にも見送られずに母国を後にした。さようならを言う機会すら私たちに与えないまま彼女は南太平洋に行ってしまった。
その佐倉から便りが届いたのは春物の商品サンプルが仕上がった日のことだった。佐倉からの便りは南太平洋を描いた手製の絵葉書だった。私のために佐倉が描いてくれた最初の絵だった。そしてその絵葉書には佐倉が私に宛てたメッセージが綴られていた。
『ご結婚おめでとうございます!』
おしまい
佐倉響子は実在の人物をモデルにしました。
破天荒でありながら皆に愛されるキャラクターが作品を完成させてくれました。




