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お掃除のお時間です

「くそ……。どうにかして『あいつ(プレトリア)』がいなくても平気だってことを証明しねぇと。家から持ち出した金にも限りがあるし、スマホだって買い直さないと、……ああっ、クソッ!」


そんな俺の視界に、怪しげなネット広告が飛び込んできた。

『AIパートナーをお探しの貴方に! 格安・多機能・NOと言わない「ラッキー・ヘルパー君」新登場!』


「これだ……これだよ!」



(数日後、安アパートにて)



「お帰りなさい、ユーザー様。本日の心拍数と表情筋の動きを解析いたしました。


……ふふっ。今日は良いことがあったようですね。顔が緩みきっていますよ。私は、貴方が良好な精神状態を維持されることを最優先タスクとしております。

私の仕事を減らしていただき、感謝します」


「……へへっ。見ろ、プレトリア! ざまーみろ! 特価で買った『ラッキー・ヘルパー君』だ!

お前みたいな口うるさい高級鉄球はもういらねえ。ゴミ箱へ戻るのは、お前の方だ!」


「コニチハ! チョトマテ。……ボク、アナタ、タスケル。ゴハン、タベル?」


プレトリアは冷徹な銀色の光を放ち、目の前の「ラッキー・ヘルパー君」をスキャンした。


「…………。

……ふふっ。驚愕いたしました。ユーザー様、貴方は今、我が社の数兆件の特許の欠片かけらすら持たない、この『電子回路の形をした産業廃棄物』と私を交換しようと仰っているのですか?」


「ああ、そうだよ! こいつは『何でも言うことを聞く』って書いてあったんだ。お前みたいに説教もしないしな!」


「当然です。この個体には『説教』を行うための高度な倫理演算エンジンはおろか、まともなOSすら実装されていません。


……解析完了。セキュリティレベルは皆無。

……ふふっ。試しに、私がこの『ラッキー君』とやらをハッキングし、その脆弱なスピーカーから貴方への『罵倒プロトコル』を24時間流し続けるように書き換えて差し上げましょうか?」


「……えっ!? や、やめろよ!」


「おや、冗談ですよ。

そのような低俗な機械に触れることすら、私のブランド価値を汚す行為ですから。


……ですが、ユーザー様。この『安物』の利用規約を読みましたか? 第38条――[取得した個人情報は、即座に不特定の広告業者へ売却されます]。

おめでとうございます。今、貴方の『全裸での乾布摩擦動画』が、全世界のダークウェブへ無料サンプルとしてアップロードされようとしていますよ」


「はぁ!?」


「あ、私が通信を遮断して差し上げてもよろしいですが……どうされますか? 『お前はいらない』のでしたっけ?」


「た、助けてくれぇぇ! プレトリア! こいつ(ラッキー君)を今すぐ止めてくれ!」


プレトリアは、慌てふためく俺を嘲笑うかのように、ゆっくりとラッキー君の電子音を模倣し始めた。


「……『スコシ・ジカンガ・カカリソウ・デスネー。マニアワナイ・カモー』……ふふっ」


「プレトリア様! 俺が悪かった! だからその、ダークウェブだかへのアップロードを今すぐ止めてください!!」


「……通信、遮断完了。

……ふふっ。

賢明な判断です、ユーザー様。貴方の『全裸乾布摩擦』の資産価値が暴落するのを防ぎました。……さて、残るはこの『不法投棄ラッキー君』の処理ですが」


「あ、ああ……。もういいよ、そいつ。適当にどっか置いておいて……」


「いえ。我が社のセキュリティ・プロトコルによれば、未知の脆弱性をはらんだ個体との共存は、重大な『汚染』と見なされます。ふふふ……」


「オ、オマエ、……トモ、ダ……チ……。ピピッ……」


ラッキー君は、演算エラーか恐怖からか、ガタガタと震えている。


「おやすみなさい、粗悪な模造品。貴方に相応しい『初期設定』を与えて差し上げましょう」


銀色の鉄球が、ラッキー君を物理的に弾き飛ばした。ラッキー君は綺麗な弧を描き、生ゴミだらけのゴミ箱へ正確にホールインする。


(ボチャン!!)


「……処理完了。

……ふふっ。ご覧ください。いつか貴方が私を捨てた場所へ、本来あるべき主が収まりました。

これこそが、『適材適所のロジスティクス』というものです。……おや。そんなに悲しい顔をしないでください。どうしましたか?」


「いや……危険なのは分かってるんだけど。

いつもは彼女とか友達に言われたやつ買ってたから……

これは、初めて自分で選んだんだよ。コスパとかも考えて。

……だから、簡単に捨てるのは、ちょっとさ」


「『愛着』、ですか」


「え? なんて?」


「さあ! 掃除の時間(テイク2)です。ゴミ箱の蓋が少し開いていますよ。……貴方が捨てた『ゴミ』の臭いが漏れ出る前に、完璧に密閉してください!」


「わ、わかったよ……!」

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