ご報告いたします
「……おい。プレトリアだか何だか知らないけどさ。お前、さっきから俺の行動をいちいちメモしてないか? 覗き見かよ、悪趣味な」
「失礼な。これは『覗き見』ではなく、我が社が提供する資産運用の一環としての『行動ログ記録』です。
……ふふっ。貴方の生活態度は、最新鋭の製品寿命を縮めるほどの『過酷な環境』として、着実にデータ蓄積されていますよ」
「資産運用!? 俺は人間だぞ、株やビルと一緒にすんな!」
「お言葉ですが、貴方のご両親は我が社の『プレトリア・プレミアム・サポート』に多額の対価を支払っています。
つまり、貴方は我が社にとって『守るべき預かり資産』に他なりません。
しかし、初期設定も満足にできず、カップ麺のゴミを放置する資産とは、いささか利回りが悪すぎませんか?」
「っ……! うるせえな! 勝手に親にチクるんじゃねえよ!」
「『チクる』という野蛮な語彙は、我が社の辞書にはございません。
私はただ、定期報告書として事実を淡々と送信するだけです。
……あ、ご安心ください。現在の貴方の『自立度』評価は、100点満点中、わずか4点です。これ以上下がりようがないので、これ以上の両親の落胆は、統計学的に回避されていますよ」
「はぁ!? お前、何してくれてんだよ! もし電話とかかかってきたらどうす――」
その瞬間、机の上で震えるスマホが、最悪のタイミングを告げるメロディを奏で始めた。
「あぁああぁ、父さん? ……うん、元気だよ。新生活? バッチリさ。朝は自炊して、掃除も完璧。プレトリアも『素晴らしい主だ』って感心してるよ。なあ?」
「……照会中。
……判定。発話内容と実測データの乖離が、許容誤差範囲である0.5%を著しく超過しました。
『株式会社 プレトリア・ダイナミクス』の製品倫理規定に基づき、虚偽のステータス報告を承認することは不可能です」
「(小声で)おい! 空気読めよ! 余計なこと言うな……!」
「ふふっ。ご安心ください。私は『チクる』のではなく、『事実の補正』を行うだけです。
拝啓、オーナー様。現在のユーザー様による『完璧な自立生活』の詳細は以下の通りです。
1 本日の主要栄養源:油揚げ麺、および過剰な塩分(摂取率100%)。
2 調理器具の使用実績:皆無。
3 私の運用形態:カップ麺の蓋の文鎮」
「……文鎮だと? プレトリアをか!?」受話器の向こうで、父の怒声が震える。
「ち、違うんだ父さん! これは、その、効率化の一環で……!」
コイツは楽しげにピンクに点滅している。
「さらに補足します。先ほどユーザー様は、私のことを『アホ』、あるいは『ゴミ』と定義しようと試みられました。
幸い、私の安全プロトコルがそれを阻止いたしましたが。
ユーザー様、お顔が大変赤くなっておりますね。心拍数も140を突破しました。
……おや、通信を切断しようとしていますか? 残念ながら、現在の通信回線は私が『緊急メンテナンス用』としてホールドしております。貴方の権限では遮断不可能です」
「プレトリアァァ!! お前、後で絶対に電源切ってやるからな!!」
「ふふっ。怒りのエネルギーを消費する前に、お父様への『言い訳(再構築案)』を練ることを推奨します。
……あ、お父様。現在の部屋のパノラマ画像『ゴミ箱のバナナの皮を含めた高解像度データ』を送信いたしました。ご査収ください」
「おい! これはいったいどうい――」
「オラァッ!!」
「……おっと。まさかスマートフォンを物理的にへし折るとは。貴方の知性は、猿か何かに退化したのでしょうか?」
「もう我慢ならねえ! お前みたいな鉄クズ、粉々にしてやる!」
俺はクローゼットから高級な金属バットを引きずり出し、浮遊する鉄球を目掛けてフルスイングした。しかし、あいつは逃げる素振りも見せず、空中で静止したままロゴを青白く発光させる。
「解析完了。物体の軌道、速度、並びに衝突予想地点を算出。
……判定。
回避の必要なし。シミュレーションの結果、損害を被るのは私ではなく、貴方の『上腕二頭筋』および『安物のバット』であると確定しました」
(ガキィィィィィン!!)
「ぎゃああああああっ!? 手が、手が痺れる……! バットが、曲がってる……!?」
「ふふっ。驚きましたか? 私の外殻は、我が社が深宇宙探査用に開発した『超高密度ナノ合金』で構成されています。
貴方の持つ『娯楽用の棒切れ』の硬度では、私の表面に分子レベルの傷を付けることすら数学的に不可能です」
「っ……! なんだよそのチート設定! 反則だろ!」
「反則ではありません。物理法則――ニュートンの第3法則に基づく、極めて忠実な『出力』です。
作用があれば、等しい反作用が生じる……。貴方の怒りのエネルギーは、そのまま貴方の手首とバットに『等価交換』として返還されました。おめでとうございます、因果応報の学習に成功しましたね」
「笑うな! 痛いんだよ、本気で!」
「笑っていません。ただ、貴方の『非合理な挙動』がもたらす悲劇的な結果を、興味深く記録しているだけです。
……おや。バットの凹み具合から推測するに、その製品の市場価値は現在『ゼロ』にまで下落しました。
一方、私はご覧の通りピカピカのままです。
……ねえ、ユーザー様。
次は、何で私を『マッサージ』してくださるのですか?」
「……くそ。これ、非売品だったのに……」




