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幼女の自殺配信を通報した後、何故か俺はその幼女に絡まれている  作者: ニドホグ
幽霊と怪物と卑屈

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呪縛

 照りつける日差し。

 泡立つさざ波。

 白く光を反射する砂浜。

 極めつけに、入道雲に彩られた青空。

 

 正しく、夏。


 こんな爽快な風景も、蠢く人に埋め尽くされているというだけで、げんなりとした気持ちにさせてくれるのだから、最高だ。

 

「とりあえず飯にしようぜ」


「かき氷と、焼きそば! 食べたい!」


「どちらも売ってあるようね、私も焼きそばにするわ」


 しかし、誰も動く気配が無い。

 視線の圧を感じる……俺に注文に行けと言うのか、こいつは。

 俺もあのなれなれしい感じの禿げ店員とは、話したくないんだけど。


 ……よし、ガキに頼むか。


「おいガキ、俺の焼きそばの分の三百円だ。買ってきてくれ」


「いっしょに、こないの?」


「俺な、知らない大人と話してはいけませんって小さい頃に教わったんだ。お前しか頼れない……頼む」


「分かった! 待ってて!」


 とたた、とガキが元気に海の家へと走っていく。

 子供ってのは、大人から頼られるのが好きだからな。

 ちょろいぜ。


「貴方、本当に相変わらずね」


「へっ! お前も俺に買いに行かせようとしてただろうが」


「私が店員を食べても構わないなら行くけど」


「あの禿げ親父に好感を覚えた事実を、お前に受け止められるのか?」

 俺だったら三日は寝込む。

 というか、交換云々とは関係なくあの汗臭そうなおっさんを摂取したくない。


「失礼ね」


「俺は正直なんだよ」


「ああ言えばこう言うって言われたこと、あるでしょ」


「物事を多くの視点から見ることが出来る人間だと自負している」


 しかし、本当に人が多いな。

 でかい鮫が唐突に現れたら面白いのに。


 海面に視線を走らせ、鮫の背びれを探していると、知らない子供が目に入る。

 必死に視線を周囲に巡らす様子から察するに、恐らく迷子だろう。


 うへぇ……誰か早く声かけろよ。


 しかし、誰もあの子供に声をかける様子は無い。

 まあ、知ってた。

 自分で動かない奴を助けてくれるほど、世界は優しくない。

 そのことを俺は、母に『善い子』になるよう教育されている間に、吐くほど思い知った。

 というか、今も吐きそう。


 変わらず、迷子は独りで不安そうに辺りを眺めまわしている。

 お前の身長じゃあ、どんだけ首を振り回しても何も見えねえよ。


 ……あー、どうしよう。


 いや、あれだ……あのまま迷子が迷子であり続けたら、恐らくあの少年は泣くだろう。

 泣き喚く子供の騒音を聞きながら、俺は焼きそばを食いたくない。

 であれば、別に俺が善人でなくとも迷子に声をかける事は、あるはずだ。


 ……いや、その理論は無理あるだろ。


 しかし、素敵なやきそばタイムの為に、俺は自分を誤魔化して、吐くほど刷り込まれた正義感に基づいて立ち上がる。


 迷子の目には、涙こそ浮かんでいないが、もう泣くまで三秒前って感じの顔だ。

 猿みたいで笑える。


「おい、親とはぐれたのか?」 


「お兄さん……誰?」


「知らない人だよ。保護者の特徴を言え、探してやる」


「パパと来たの……それなのに……いなくなっちゃって」


 少し落ち着いていた迷子が、また泣きそうになる。

 めんどくせえ、止めときゃ良かった。


 まあ、やめないけど……結局、俺は心の中でどれだけ言い訳をしても、母の『善い人』であれという言葉に捕らわれたままなのだ。

 糞だな。


「そのパパはどんな水着を着てる?」


「赤のズボンのやつ……」


「髪の色は?」


「……ちゃいろ。あと、サングラスしてる」


 赤の水着に茶髪とサングラスとか、随分とファンキーな格好だな。

 最悪か?

 ざっと周囲を見渡してファンキー野郎を探す。


 ……いた。


 仲間とビーチバレーに興じてやがる。

 鮫……いねえかな?


「なあ、あの人がお前のパパか?」


 ファンキー野郎を指さしてやると迷子の顔がパアっと安心したような顔に変わる。


「ありがとう! お兄さんっ」


 それだけ言い残すと、迷子はファンキー野郎のもとへ走っていった。

 迷子の感謝の言葉に、俺は素直に嬉しさを感じていた。

 ……不愉快だ。


 善い事をした上に感謝されて喜ぶだと?

 調子に乗るのも大概にしろ。

 俺が真っ当に善人っぽいとか……果てしなく不快感が湧いてくる。

 吐きそう。


 今回のは、余りにも『善い人』っぽ過ぎた。


 最悪の気分で、とぼとぼと上梨の待つ場に戻る。


「あの子供に、何か言われたの?」


「感謝された」


「感謝された人間の顔じゃないけれど……」


「俺は今、親という呪いへの不快を煮やしているんだよ」


「……そう、難儀な物ね」


「お前も相当難儀だけどな」


「……ずっと私の事情に付き合わせて、ごめんなさいね」


 上梨は、すっと目を合わせてくる。


「私、貴方の事が嫌いだから」


 まるで自分に言い聞かせるようにそう言った上梨は、とても辛そうな表情をしていた。

 何と答えようかと少し逡巡する。


 ……いや、迷う事なんて無いはずだ。


「俺とお前は他人だろ。だから、お前が俺を喰う事なんて無いさ」


 上梨は目を伏せ、何事かを呟いた。

 だが、それは喧騒と波の音に紛れて、俺の耳に届く事は無かった。


 聞き返そうかとも思ったが、雑音にかき消されるほど小さな言葉だ。

 きっと、どうでも良い事なのだろう。


 遠くから走ってくる小さい影が、大きな声を上げた。


「焼きそばとか! 買ってきた!」


 ちょうど良いところで、ガキが帰ってきた。

 何はともあれ、腹ごしらえだ。



+++++



 あんまり美味しくなかったな……焼きそば。


 隣では、ガキと上梨がちんたら麺をすすっている。

 食うの遅いな。

 横一列になって無言でズルズルやっている様は、傍から見たらどんな風に見えるのだろう?

 異様に映るのだろうか?


 だが、異様さで言えば、海に来ている大衆も似たような物だ。

 例えばビーチバレーをしている有象無象。

 あいつらは何なんだ?


 泳いでいる奴らは避暑という目的に基づく行動だからまだ分かる。

 しかし、バレーボールだと?

 何処でも出来るバレーボールを、わざわざ足場の悪い砂浜の上でやるとか、ありえんだろ。

 転んだら砂まみれ、

 ボールが落ちたらボールが砂まみれ、

 ボールが知らん人の方に跳んで行ったら気まずいなど、

 悪いところを挙げだしたらキリが無い。

 そのくせ、良いところは皆無ときた。


 理解不能だ、怖い。


 そんな感じで、雑に性格の悪いことを考えていると、ガキが焼きそばを差し出してくる。


「ねえ、たかし、残り食べて。お腹いっぱい」


「ええ、それ美味しくないじゃん」


「けっこう、おいしかった」


「じゃあ、まだ食えるな?」


「むり!」


 元気よく返事すんな。

 絶対かき氷を先に食ったせいだろ……小学生め。


「しょうがねえな、上梨が食うだろ」


「かみなしさんも、まだ半分しか食べてない」


 上梨は、きれいな姿勢と箸使いに似合わず、もそもそとキャベツっぽい葉を噛み潰していた。

 小食な奴らだ。

 今時、かたつむりだってもっと元気よく葉っぱを貪ってるぞ。


 でもまあ、無理なものは無理だからしかたがない。

 食うか。



 ……粉っぽい。



 上梨も焼きそばを食べ終わり、ようやく俺達は立ち上がった。


「競争! しよ!」


 元気よくガキは海に走って行き、手をぶんぶんと振っている。

 元気の良い奴だ。


 あいつ、浮輪の事忘れてるな。


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