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幼女の自殺配信を通報した後、何故か俺はその幼女に絡まれている  作者: ニドホグ
幽霊と怪物と卑屈

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休日

 休日をどのように過ごすのが正解か? 

 この問の解は、人類の永遠の至上命題であると共に、永遠の謎でもあると言えるだろう。

 その上で、あえて無数にある正解の内の一つを選ぶとするのなら『女の子と海をエンジョイ』という項目が確実に選択候補に含まれることは、俺も承知している。


 だが、女の子の片方が、確実に俺の命を危険に晒す可能性がある怪物だった場合で考えてみたらどうだ? きっと、そんな特殊な状況下の『女の子と海をエンジョイ』を、休日での正解の過ごし方に置く奴は、ほとんどいないだろう。


 長い前置きだったが、要するに俺は、上梨の『殺さない程度に好きでいる』という言葉を信用していないという事だ。



 上梨は、恐らく相当の寂しがりやだ。

 そんな上梨が『殺さない程度に好きでいる』などという器用な事ができるのなら、きっとクラスの誰かしらと『殺さない程度に仲良く』して寂しさを埋めたはずだ。



 恐らく上梨は、自分が人を喰う『好き』のラインを把握していない。

 そもそも、好ましさの度合いの制御をする方法なんて『嫌い』という『好き』とは別の感情を相手に抱き続けるくらいしかないだろう。


 そんな訳で、ガキと仲良くなる事で、徹底した感情制御を止めた上梨を、俺は相当危険視している。

 だというのに、何故俺は上梨とガキの隣を歩いて海を目指して歩いている? 

 答えは単純で、海で焼きそばが食いたくなったからだ。


 命の危険? 頭では分かっているが、実感のない危険に戦々恐々とできるほど、俺は理詰めで生きていなかった。


 我ながら、馬鹿だとは思う。

 まあ、性格の悪い事を言っておけば好かれる事は無いだろ……。



+++++



 こんなに日が照っているというのに、相も変わらずガキは元気だ。テンション下がるぜ。


「たかし! 海についたら、泳いで競争しよ!」


「前みたいに倒れるなよ? というか、泳げるのか?」


「うきわ使う!」

 ガキが、えっへんと胸を張る。


「ずるくね?」


「たかしも使っていいよ!」


 ずるく無かった。


「いや、俺は代理人として上梨を使う」


「じゃあ、かみなしさん! うきわ使っていいよ!」


「ごめんなさい。私、今日水着を持ってきていないの」


 こいつ、何しに来たんだ?


「でも、砂遊びの道具は沢山持ってきたわ」


 ちっちゃい熊手を構えてキリっとした表情を作るな。

 砂遊びをする為に、わざわざ海に行くのか……まあ、俺も焼きそば食いに行くんだから、似たようなもんか。


 しかし、砂遊びの道具では、ガキの意識を水着から逸らすには力不足だったようだ。


「あっちに! お店あるから! 水着買お!」


 そういうことになった。昨日からの、テンションの落差が激しすぎる……。






 女子の水着売り場が発する、女性用の空気が……俺を激しいアウェー感に苛む。

 だが、この空気に負けてしまっては三流だ。


 そもそも、このアウェー感が何故発生するのか? 

 『場違い感』それに尽きる。

 俺がここにいる理由が無いからいけないのだ。

 無いなら、作ればいい!


「へへへっファントムちゃん! バナナボート買ってやるよ」


 この一言、それだけで俺は子供の保護者に早変わりだ。

 結局、気にし過ぎなんだよ。

 言うほど人間は他人に興味が無いし、アウェー感なんてものは己の生み出す妄想なのだ。

 あとは自分をごまかす言い訳さえ作ってしまえば、俺の勝ちだ!


「たかし、はんざいしゃっぽい」


 俺の言い訳はぶっ壊れ、アウェー感は帰還した。遺憾だ。クソガキめ。


「お前、そんなこと言ってたらバナナボート買ってやらんぞ」


「たかし、子どもっぽい」


「俺は大人だから良いんだよ。子供が子供っぽくても只の子供だろ? だが大人の俺が子供っぽかった場合は、個性になるんだよ。社会は優しさで構成されてんだよ」


「なるほど!」


 馬鹿め! 大人の論理を思い知ったか。


「なるほど、じゃないわ。ファントムちゃん、その男に騙されてるの、気づいて」


 上梨め、余計な入れ知恵を! 


 こういう時は話を逸らすに限る。

 空気を読む事の無意味さについて語る事で、話題転換を図ろうと、上梨の方に向き直る。


 あ、水着、選び終わったんだ。


「どう…かしら?」

 上梨はそう言って頬を赤らめつつ、水着姿を見せてくる。


「かみなしさん! かわいい!」

 ガキの言う通り、かわいい。

 清楚なワンピースタイプの白い水着は、クールな雰囲気の上梨によく似合っていた。


「よく似合ってんじゃん」


「ありがとう」


 上梨は褒められ慣れていないのか、恥ずかしそうに腕を前で交差させて俯いている。

 ……あ、上梨の好感度上げたら、喰われるかもしれないの忘れてた。

 つまんねーギャグを言って好感度下げとこ。


 つまんねーギャグ、王道を攻めるならば親父ギャグだろう。

 しかし、どういったチョイスをするか、それが問題だ。


 ここで『ふとんがふっとんだ』なんて言う奴は三流以下だ。

 子宮から別の遺伝子で育ち直した方が良い。

 では、どうする? 

 前提として、オリジナルのギャグを作ること、状況に合うギャグを言うこと、の二つは抑えるべきだ。


 ここから上梨との会話がどう派生するのかを予想しよう。

 状況に合ったギャグを言うために、状況を先読みするのだ。


 十中八九、海の話題にはなるだろう。


 更に予測の精度を上げる。


 では、海で俺達は何をするか? 

 やきそばを食べる、砂遊び、泳ぐ……めちゃくちゃ夏満喫してるな、俺。

 なんか親父ギャグとかどうでも良くなってきた。


 上梨の水着を選ぶ間もなく、水着が決定してしまった事で、ガキは暇になったのか、シャチのボートをツンツンしている。


 その隣で上梨は、浮輪を真剣な表情で吟味していた。


「おい、浮輪なんて全部同じだろ? 何を吟味しているんだ」


「命を預ける物を、そんなに適当に選べる訳ないでしょ」


 ……確かに。

 俺も上梨の隣に座り込み、浮輪の吟味を開始した。


 女児向けアニメの浮輪に決めた。

「これにするか」


「貴方、それに即決するって……子供向けアニメが好きな自分が、面白いとでも思っているの?」


 ……思ってたよ。


「上梨! お前、俺が命を預ける道具でウケを狙うと思ってんのか?」


「違うの?」


「無論、違う。そもそも浮輪を吟味する為には、浮輪ごとの違いを知る必要がある。さあ、この違いって何だと思う?」


「大きさ?」


 あ! 何の脈絡も無く唐突につまんねーギャグ思いついた。


「上梨、不正解だ。まあ、所詮はオカルトオタク女! 略して『おおお』という事かあ!」


「ちょっと、少し捻った適当なRPGの主人公の名前みたいに人の事を表さないでよ」


 上梨に長めの欲しかったツッコミをさせてしまった……なんか申し訳ない。


「……で、正解は何なの?」


 一回間違えたくらいで、すぐに答えを知りたがるとは……だからお前は浅はかなのだ。


「デザインだよ。人間という生き物は、情報のほとんどを視覚から得ている。結局、でかい浮輪で少々長い時間浮いていたところで、上昇する生存率は微々たるものだ。しかし、蛍光ピンクの魔法少女ならどうだ? 監視員も救助ヘリもみんな来る! 人間の脳は人の顔を認識しやすいって何かで読んだし、カラーと柄の合わせ技で、発見確率は鰻登りだ!」

 ……我ながら雑だな。


「雑過ぎない?」


「まあ……うん」

 なんとも言えない沈黙が流れる。

 俺が悪いのか?


「はやく、海行こ?」

 ガキがげんなりとした表情で急かしてくる。

 まあ、冷静に考えると浮輪選びで時間使うって意味不明過ぎるしな。



 上梨は、アイドル系の女児向けアニメの浮輪を買っていた。


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