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幼女の自殺配信を通報した後、何故か俺はその幼女に絡まれている  作者: ニドホグ
幽霊と怪物と卑屈

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友達

 ガキが、ちんたらと重そうなバッグを運ぶ姿を、先ほどから五分ほど眺めている。

 3歩ごとに休憩するから、一向に進まない。


 その後もジャングルジムの上に座し、ガキウォッチングに勤しんでいたが、10分ほどで、流石の俺もしびれを切らした。


「おーい、半分持ってやるよ」


 ガキの元へ颯爽と近寄り、バッグの持ち手の片方を持つ。

 重っ。


「おい、これ何が入っているんだ?」


「本!」


「他には?」


「本だけ!」


 マジかよ、何冊あるんだ……。


「お前は、俺にいくつ魔法を見せるつもりなんだよ……」


「いっこ!」


 元気よく、しょうもない数を提示するな。


「何で、そんなに沢山本を持ってきたんだ?」


「たかしと、いっしょに本見たかった……ダメだった?」


 駄目では無いが、つまらなそう。


 二人で3歩ごとに休憩を挟みながら進むこと5分。

 俺たちはようやく公園にたどりついた。

 公園には、俺達以外誰もいないし、遊具も無く広々としている。

 魔法を使うには、うってつけの場所と言って良いだろう。


「よし、何の魔法を見せてくれるんだ?」


「ゆうれいを、出すやつ!」


 魔法とか、怪物とかだけじゃなくて、幽霊までいるのか。


「誰の幽霊を出すんだ?」


「え?」


 ガキは、呆けた顔で小首を傾げている。


「え?」

 俺も負けずに、あざとく首を傾げ返す。

 おら! かわいいだろ!


 ガキと俺は、あほ面を数秒間晒しあった。

 ……何をやっているのだろう?


「おいガキ、まさか自分が何を召喚するのか考えていなかったのか?」


「まって! えっとね、えっと! たしか、近くのゆうれい、出すんだと思う……たぶん」


 そんなフワッとした感覚で、幽霊を呼んで良いのだろうか?

 まあ、人生において何をするにも、最初は皆初心者だ。

 であれば、老人がパソコンを扱う時の様な、曖昧な理解で幽霊を召喚しても良いはずだ。


「じゃあ、はじめる!」


 ガキは、意気揚々と公園の地面に石で線を引き始めた。


「本とか、見なくて良いのか?」


「がんばっておぼえた! から! だいじょうぶ!」


 凄い! 自信満々なのに、酷く不安を掻き立てられる返事だ!


 ガキは、迷いなく歪な丸を書き終えた。


「よし!」


 頷き、ガキは更に描き進める。


 いや、よし! じゃねえよ。


 めちゃくちゃ歪んでるじゃん。

 囲いの円って魔法陣の基礎だろ、フリーハンドで描くなよ。

 お前の何が、その自信を掻き立てるんだ?


 困惑しかない。


 なおもガキは、ぐちゃぐちゃで、ぐにゃぐにゃな魔法陣を書き続けた……自信満々で。


 とんでもない奴だ。


 親が否定も肯定もせずに育てたから、生来の自己肯定感の強さによって自信が無限に肥大化し続けたのか?

 失敗されたら、俺の今の待ち時間が無駄ぞ。


「おい、魔法陣の形それであってるのか?」


「うん!」


 絶対間違ってるだろ。


 うん! じゃねえよ。

 せめて一考しろよ。

 ノータイムで確信を持った返事をするな。


 俺の不安をよそに、遂にガキはぐにゃぐにゃ魔法陣を描き上げてしまった。


「できた! 見て! すごいでしょ!」


「そうだな、頑張ったな」


 小さい体で、これだけ大きな魔法陣を完成まで描き上げた事は、事実だ。

 そこは認めねばなるまい。

 人間は皆、最初は初心者なんだ。


 ほら、ガキもニコニコと嬉しそうに笑っている。

 これで良いのだ。


 ……ほんと糞。


「じゃあ、今からゆうれい出す! 見てて!」


 逆上がりみたいなノリで、幽霊召喚を披露しようとするな。


 ガキが、魔法陣の中央に立つ。

 難しい顔で、印を結び始めた。

 小さい手が忙しなく動き、様々な形を作る。


 凄いな、手話のニュースを二倍速で見てるみたいだ。


 更に手の動きが早まる。

 ざわざわと空気が揺れ始める。


 おお、来るのか?


 ガキが、バッと格好いいポーズをとった瞬間、風が大きくうねる。

 そしてそこには、ぐにゃぐにゃな魔法陣の中央で、格好いいポーズを決めるガキが立っていた。


 まあ、要するに何も起こらなかった。


 なんとも言えない沈黙が流れる。

 何と、声をかければ良いんだ?

 初めてだし、次頑張れば良いよ! とか?


 いや、違うかな。

 そもそも、他人からの慰めの言葉で、心が慰められた記憶が俺には無い。

 慰めの言葉に、本当に意味はあるのか? 


 慰めとは、慰める側の人間が、自分は非情な人間では無いとアピールする為の言葉なのではないか?

 結局、俺は何を言うでもなく、ガキの格好いいポーズを見つめ続けた。


 ガキがポーズを崩し、首を傾げ、顎に手を添えて、一言。


「魔力が、足りなかった?」


 ……画力が足りなかったんじゃないかな。

 




 魔法が失敗したあとも、ガキは何度か挑戦したが、幽霊が現れる事は最後まで無かった。


「魔力があったら、できたのに……」


「まだ言ってんのかよ。ほら、一緒に魔導書見ようぜ」


「……うん」


 ガキは、しょぼくれた表情で重たそうな魔導書を開く。


 びっしりと、並ぶ文字の羅列と、隅々まで丁寧に描き込まれた魔法陣でいっぱいのそれは、なかなかの迫力を有していた。


 公園のベンチで読むもんじゃねえな。


「てか、これ英語で書かれてるのかよ。お前、英語読めたのか?」


「英語じゃない、ラテン語」


 マジかよ。


「読めるのか?」


「読めない!」


「……じゃあ、どうすんだよ」


「かみなしさんに、使いたい魔法だけ、ほんやくしてもらった!」


 上梨、ラテン語読めるのか……。

 ラテン語を翻訳できるくらいまで頑張って魔法を調べても、せんゆう様の落とし子の性質は抑えられないのか。


 嫌な現実だ。


「おい、俺もお前もラテン語読めないなら、一緒に魔導書の何を見るんだよ」


「絵!」


 絵か、絵ね、うん。

 俺も小学生の頃、図鑑の写真しか見てなかったし、そんなもんだよな。

 一緒に絵を見る。


 変なイラストとか、キモいイラストばかり描かれている。


 どういう感情で見るのが正解なんだ?


「なあ、こんなキモい人面草とか、謎の壺とかじゃなくて、ドラゴンとか、武器とかの絵は無いのか?」


「ある!」


 そう言ってガキは、バッとページを開いて見せてくる。


「……ええ、これ? ドラゴン? ええ」


 そこに描かれていたのは、何とも言えない豚の様な顔をした、体が無駄にぐるぐるしている蛇だった。

 キモい。

 申し訳程度に翼を生やして、ドラゴン感を演出するなよ。


 ……やっぱ、キモい。


「私も、かみなしさんに見せてもらったとき、同じ顔した」


「いや、こんなのがドラゴン名乗ってたら、十人中十人この顔になるだろ」


「でも、かみなしさん、かわいいって言ってたよ」


 最近の女子高生かよ。

 その内マンホールも可愛いって言いだすぞ。

 その後も色々な絵をみたが、全てキモくて珍妙だった。


 この本が書かれた時代に、写実的という概念は無かったのだろうか?


「お前ってさ、上梨の家に言ったんだろ? どうだった?」

 俺の上梨へのアドバイスは、役に立ったのだろうか?


「えーと、かみなしさんが、がんばってた!」


「人の家に遊びに行った奴の感想じゃねえだろ……」


「なんかね、いっぱい好きなもの聞かれた。うれしかったけど、そうした方が良いって、かみなしさんに言ったの、たかしでしょ?」


 バレてんじゃん。


「何で、そう思った」


「かみなしさん、ずっとわたわたしてたから」


 気遣いができるのは、おかしいと?

 誰かの入れ知恵だと?

 そう言いたいのか?

 なかなかに失礼だな、まあ正解だけど。


「嬉しかったなら、別に良いじゃねえか」


「つぎは、かみなしさんが聞きたいなって思ったときに、聞いてくれたら、うれしい」


「あんまり、求め過ぎるなよ」


 俺の言葉に、ガキはもどかしそうに顔を顰めたが、最後は妥協したように笑みを浮かべた。


「かみなしさんも、大変だからね」


「まあ、そうだな。お前も上梨も、ゆっくり頑張れば良いんだ」


「うん! あと、たかしも海いっしょに行こ!」


「行かないが」


「えー! 行こうよ! 三人で、やきそば食べたい!」


 焼きそば、か……本当は、親と一緒にやりたかった事なんじゃないのか?

 ふと、そう思った。


「おい、俺を親の代わりみたいに考えるなよ」


「あ……うん」


 ガキが、シュンとする。


 しかし、ここは俺にとって大事なラインだ。

 いまだに俺は、親の呪縛から脱せていない。


 子供に手本を示すには、俺は余りに人間として稚拙だ。

 だから、親の代わりには、なれない。


 そこを妥協したら、俺は俺の親と同じレベルに成り下がってしまう。

 それだけは、絶対に嫌だ。


 俺という人格の、意味が死ぬ。


「おい、そんなに落ち込むなよ。俺たちは所詮、他人同士だろうが」


 俺のその言葉に、ガキはキッと睨みつけてくる。


「他人じゃない! 最初に見つけてくれたの! たかしだった!」


 他人だろ……。


「最初に俺がお前の自殺配信を見た事なら、ただの偶然だ」


「でも! たかし! その後、怪物さがし手伝ってくれた!」


「いや、あれはお前が魔法使えるって言った事を、疑った贖罪の為だし……」


 その言葉に、ガキは俯く。


「俺は、お前が思っているほど優しい人間じゃない。上梨ほどの覚悟も無ければ、お前みたいに前にも進めない。親代わりなんてもっての外で、他人より深い関係になるほど、人の為に動けない……すまんな」


 口から止め処なく出てきた言葉は、紛れもなく俺の本心で、同時に俺のどうしようも無さでもあった。


「……でも、たかし、殺せるほど、お前を愛せないって、言った」


 ガキは消え入るように、ポツリと、そう呟いた。


 確かに、俺はその言葉を吐いた。


「その言葉のどこが、他人じゃない証明になる? 俺の覚悟の無さの証明にしか、ならないだろ……」


 ガキが、再び俺を睨みつける。


「ちがうもん! どうでも良い人に! こんなこと! 言わない! 私のこと、考えた人しか! こんなこと、言えない!」


 …………なるほど。

 確かに俺は答えに悩んで、最終的に『愛せない』と結論付けた。

 そして、言われてみればその返答は、確かに他人に送るには重すぎる。



 俺も、こいつとこれ以上仲良くなって良いのか?


 他人じゃなくて、良いのか?


 他人じゃないなら、何だ?



「……俺達ってもしかして、友達なのか?」


「……分かんない」


 ガキは答えを求めるように、俺を見つめてくる。


 どうなんだ?

 友達なのか?

 俺が答えを出せ。


「…………たぶん、友達な気がする」

 友達な気がした。


 ガキは、ちょっと嬉しそうだった。


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