SCENE 27 * RENA * With Rian
放課後。なぜか。また。
レナはライアンと一緒に、ハーバー・パディの、ハーバー・ストリートの裏手にあるボードウォークに来た。
彼女の中にはいろいろな感情があった。確かに期待などはしていない。微塵もしていない。むしろ予想どおりだ。
それにしたって、どれだけこの場所が好きなのだろう。自転車を買ったはいいものの、けっきょく、一度も乗っていない。寒いのにバカなのか。ライアンはやはりただの無神経バカなのか。
そんなことを思いながら、前を歩いていたライアンに続き、レナも彼の右隣でベンチに腰をおろした。
「一番と二番、どっちがいい?」ライアンが訊いた。
「は?」レナはいつもこれだ。
彼が呆れ顔を返す。「お前、もうちょっと普通の反応できねえの?」
「あんたのがうつったのよ」いや、そのまえからだ
「人のせいにすんなアホ。お前のそれはまえからだ。オレに対してはたいていそれ」
ばれている。「──二番」
「だよな」
ライアンは左脇に置いている自分のバッグを漁った。レナはその中に、ヘッドフォンが入っているのが見えた。彼が取り出したブルーの袋を差し出す。
「ほれ」
彼女は受け取った。うそ、ほんとにプレゼントなんて買ったわけ? こいつが? どのツラ下げて? などと思いながら。
「見ていいの?」
だが彼は顔をしかめる。「なんかお前、今すげえ失礼なこと考えなかったか?」
また見抜かれている。「考えてません。ごめんなさい」とても素直に嘘と本音を言った。
「あやまるあたりがイエスじゃねえか。アホか。なに考えたんだ」
言えば没収されてしまう。それはイヤだ。「いいから、見ていい?」また心臓が、ドキドキする。
「いいけど。あとでなに考えたか教えろよ」
「それはやめておいたほうがいいと思う」
袋を脚の上に置き、レナは箱を取り出した。綺麗な色のブルーの箱だ。指輪の箱のようで、けれどそれよりも少し大きく、天面と側面には白で描かれた模様と、ブランド名かなにからしい文字がある。シルバーの金具までついていた。蓋を開ける。
彼女は息を呑んだ。綺麗な薄いピンク色の布の上に置かれた、小さな時計だ。キーホルダー? 違う。時計はちゃんと、動いている。キーホルダーにはなっているけれど、動いている。三センチほどの、レオがくれたのと同じような、昔ながらといった感じの形の時計で、シルバーの金具がついていて、時計本体は薄いブルー。文字盤の周りにはラインストーンが埋められていた。なにもかもが可愛く思え、レナはすぐにそれが気に入った。
ライアンはいつもどおり、両脚をベンチに立て、ジャケットのポケットに両手を入れている。彼女のほうは見ていない。
「アラーム機能つきらしいぞ、それ」
「レオも時計くれたの。目覚まし時計」
彼は笑った。「知ってる。っていうか一緒に買いに行った。月曜の夜にメールがきて、プレゼント一緒に買いに行きたいって言われて。で、火曜に待ち合わせて、お前が目覚まし時計投げてぶっ壊したって。んじゃもう時計でいいんじゃね、みたいな」
今さっきまで感動していたレナは、一気に呆れた。なぜレオのほうが仲がいいのだ。この一ヶ月、自分はライアンとまともにメールしたこともなければ、ムーン・コート・ヴィレッジで仲良く買い物をした覚えもない。
──だが、嬉しい。「可愛い」
「けどそんなのにアラーム機能ついてても、どうすんだって話じゃね? レオとこれ見つけて、すげえツッコんだの。サンプルでアラーム鳴らして、それが朝起きるには絶対小さいだろう音で、百歩譲ってこれで時間を確認することがあったとしても、アラームは使えねえだろって。ツッコみすぎて、店員にすげえ睨まれてたもん」
彼女は笑った。「買わなかったら、一生その店に行けなくなってたわね」
「もう行けねえよ。少なくとも一年は無理。レオもだけど」目を閉じたまま、上を向く。「次は? 一番か三番」
“ありがとう”と言うのは、難しい。レナはそれすら苦手だった。
答えを考えるまえに、彼女はきょとんとした。「三番て、あったっけ」というか、みっつもプレゼントがあるのか。
「忘れてた」
意味がわからない。つまり、忘れるほどのものなのか。たいしたものではないということか。「じゃあ一番」蓋を閉じた箱を袋に戻すと、脇のバッグの上に置いた。「なに?」
「──結論」
レナの心臓が、揺れた。
「式と答え」
怖い。まさか、それがくるとは思わなかった。彼女は静かにベンチに脚を立て、それを両腕で、身構えるように抱えこんだ。
「うん」怖い。怖い。怖い。
「──この一ヶ月、ずっと考えてた。やっぱり、好きじゃなくてもいいとか言うのは、よくねえ。──オレが言うセリフじゃないけど。オレはよくても、お前にはよくない。フツーに好き合ってつきあってると思いこんでるレオたちにだってそう。そういう半端なことは、したくない。今さらのような気もするけど」
あまりの恐怖に、レナは脚に顔を伏せた。強く目を閉じる。
彼は続けた。「なぜかお前は、どんどんオレのこと好きになってくっぽいし、最初はすぐ冷めんだろとか、勘違いだろとか思ってたけど、なんか、そんなでもないっぽいし」
違う。今はもう、そんなのではない。
「ケンカばっかしてたお前にいきなり好きとか言われて、わけわかんなくて、答えようがなくて、好きじゃなくてもいいからつきあえとか言われて、まあいいかとか思ったけど、やっぱオレ、好きとかよくわかんねえし──そりゃ、お前の二重人格ぶりは、気にいってたけど」
二重人格。自分でもわかっている。だが、自分でもなぜそうなってしまうのかは、よくわからない。
「けど一ヶ月経っても、全然わかんなくて。しかもお前、わりと無理してるっぽいし」
無理ではない。無理などしていない。レナは、自分の目に涙が浮かんでいることに気づいた。
「意地っ張りなのもあるんだろうけど、オレがはっきりしないせいか、手くらい、つなぎたきゃつなげばいいのに、それすらしないし。どっかに行きたいとかも言わないし。まあ、それはそれでいいんだけど」
だって私は、あんたの気持ちを、ちゃんとは知らない。
「それでもそういうの、見てられねえ。自分のせいでそうなってると思ったら、もう無理。──だから、もう、こういうのは、やめる」
だめだ。
「今日で終わりにする」
──ぜんぶ、終わった。




