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夜のアリカと銀の星  作者: k...
第二章 星降る夜の再会 前編
48/50

46.分水嶺

ばんっ!


『大変だ!』


バッシェルド帝国、帝都バルディッシュにて。これはレインがレイシアと出会う以前の話。


今とは違う仲間と共に依頼を受けては獲物を狩り。いつものように宿へ戻った男の元に仲間の一人が慌てた様子で飛び込んでくると、これを機に運命の歯車が回りだす。


『…っ!そんなに慌ててどうしたんだ』


『…西にあるロッケルティアの街が…魔族に襲撃されたらしい』


ありふれた日常に舞い込む魔族急襲の報を受け。話に聞く噂を語るのは、レイン率いるパーティの頼れる戦士ガルード。

実質的なリーダーとしての役割をこなし、レインにとっては兄貴分とも呼ぶべき男は一人依頼の精算を行い、ギルドへ駆け込んできた男の話を耳にすると急いで宿へ戻ってきた。


『…ここからそう離れていないわね』


『被害は?…生存者はいるのか』


『壊滅…とまではいかなかったようだが、酷い有様だとか…』


これに対し、神妙な面持ちで不安を口にするのは回復支援を担当するパーティの紅一点アールテと、事の詳細を求め問い返す守りの要バズラン。

レインを始め、パーティの全員がAランク冒険者という一級戦力でありながら。その名を聞けば慌てふためき不安を募らせる。魔族とは一体、如何なる存在なのか。

その大まかなところは夜神とシャラの会話にもあった通り。けれど彼等の行動には不可解な点が余りにも多かった。


『活気はあるが…これと言って目立った物もない街だ。奴らは何故そんな場所を…』


『皆目見当も付かないわね…敢えて理由を付けるなら殺しを楽しんでいるだけ…とか』


『アールテのそれが一番しっくりくるな。神出鬼没。世界各地に現れては街を破壊し、けれど主要な都市や国への直接的な攻撃は滅多にないと言う。…まぁこれに関しては返り討ちに遭う可能性が高いと踏んでの事だろうが…北の大陸から魔族が進軍に出たと言う話も御伽噺に聞く程昔の事だしな』


『…とは言え聞きしに勝る。不意に現れて街一つを壊滅寸前に追い込む程の強さだ。帝都から近くはないが、そう遠い場所でもない。依頼で付近に赴く際は十分に注意しよう』


『『ああ!』』


『ええ!』


明確な理由の模索に難航する結論も、冗談にしては遠からず。敵対する立場にありながら益の無い殺戮を繰り返す。誰もが抱くバズランの疑問に答えられる者がいるとすれば、これを行う者達をおいていないだろう。

やがて遠ざかっていく現実は雲を掴むような話へと広がり。どこか他人事のように語るガルードの言葉に霧散していく戦慄は当事者でないが故。

悲劇を悼む事も。恐怖に慄く事も。そして、根拠無き自信を叫ぶ声に力強い応えを返す。しかし、本当の意味で危機感を持つ者はまだこの場に誰一人としていなかった。


それから数日後。


『…ねぇちょっとレイン、これ見てよ』


日常に埋もれ、たった数日の間に思い返す事など一度や二度、あったかどうか。

冒険者ギルドを訪れ、いつものように依頼を眺めるレインの近く。同じように、今日の仕事を吟味するアールテは一枚の依頼票に目を留めると、そう言って男に声を掛けた。


『魔族の討伐?…まだこの辺りにいるのか』


『いいんじゃないか?報酬は破格だし、この条件なら俺達も参加できる』


『そう都合良く見つけられるとは思えないが…ギルド発行の依頼なら受けるだけでも損はないだろう』


『ガルード、バズラン。お前達いつの間に。…なら、近くを通る行商人の護衛依頼を受けるのが一番か…魔族討伐の勲をSランクへの足掛かりにするのもいいかもしれないな』


難敵と聞き、脅威と聞き。記憶にも新しい殲滅を聞き。されど理解出来ず。

火は熱いと聞きながら、何故触れようとするのか。それが小さな炎であれば火傷で済むだろう。燃え盛る業火に入ってはその身を焼き尽くす。

敗北を知らず、挫折を知らず。この時はまだ、火が熱いものだと解らなかった。


透き通る蒼に魅せられ。全ては運命だったと…そう思う事にした。

愚かさを顧みる事も、決断を悔いる事もなく心の奥深くに捨て置いてきた昏い過去。

大き過ぎる代償と共に火の熱さを理解する今の彼は、業火をも焼き尽くす男の言葉に何を返すのか。或いはここが、結末を分ける分水嶺。


「…俺のせいじゃない…元はと言えば、お前らが言い出した事じゃないか…!」


がちゃ…ぎいぃ…


「っ…!」


「………………」


「……戻ったのか…」


「あぁ、だが今から少し出る」


「…こんな時間に?」


「俺は気になった事を放置出来る程、恵まれた環境で生きてきた訳じゃないからな」


「そうか…」


「…ところで一つ、聞いておきたい。お前にあの女を任せて大丈夫か」


過去に苛むレインの前を通り過ぎ。かと思えば何をするでもなく。徐に振り返っては口を開き。外出を告げる男がここへ戻ってきた理由とは何か。

一見して侮りとも聞ける物言いは、その本質を汲み取る余裕さえ無くしたレインの神経を知らず逆撫でた。


「それはどういう意味だ」


「言葉の通り。それ以上でもそれ以下でもない。…鏡を見てみろ。お前の面は酔っていると言い張るには無理がある程酷い。…今の俺は…ふっ…同行者の話しを聞いてやる耳くらい持っている。魔族…これについて思うところがあるなら話してみろ」


「……………お前には関係ない。心配しなくてもシーアは俺が守ってみせる!」


「…そうか。…全く期待していないと言う事もない。精々お前も俺に魅せてくれ」


「……………」


やり場のない苛立ちと共に問い返し。続く言葉に、レインは差し伸べられた手を振り払うように吐き捨てた。

力強く答える男を見ては言葉の通り。それでも、居心地の良さに今を続けたいと思う気持ちは偽りようもなく。信頼にはまだ、些か遠い二人の距離。

夜神は言葉少なに期待を示すと、背を向け、一人夜の街へと繰り出していった。


「さて…二十四時間、とはいかなくともまだやっている店はあるだろう。…事が起きてからでは遅い。…誰かを頼るなんてのは…とうに忘れた。…関わりとは本当に面倒なものだ。一人で居れば気を揉む事もなかっただろうが、あいつらとなら…これはその代償と割り切るべきか…」


面倒臭さを隠しもせずに通りを歩きひとりごつ。

目的の決まった道行は久しく訪れる孤独を呼び覚まし。同時に、騒がしい日々を思い返させ悪くない。

僅か一刻に満たない筈の一人歩きはしかし、思わぬ展開を見せる事となる。

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