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夜のアリカと銀の星  作者: k...
第二章 星降る夜の再会 前編
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40.変貌

「…シャラ…お前一体どうした。何か変な物でも食べたのか?」


「別に…あんたには関係ないでしょ。…あ、柊様、あたしが取ります」


「…おい夜神、これはどういう事だ。お前シャラに何かしたのか?」


「…前と同じだ。俺が口にする事じゃない。知りたきゃこいつを口説け」


「私もシャラの変化は気になりますが…それよりも、先ずは乾杯しましょう」


この状況に於ける定型文。まさに期待通りの第一声に素気無い言葉を返し、運ばれた料理に手を伸ばす。

シャラの素早い返しに為す術もなく。次いで視線を向ける男は数日前と同じ台詞を返すのみ。そして。夜が更ければ今でなくとも時間はあると。火照った身体にエールを流し、消える料理を眺めつつ。女は咳を払い、こう切り出した。


「こほんっ…それではこれより、本日の戦果を回収させて頂きたいと思います。これは夜神様に言われた通り。今後の路銀、或いは目的、用途に応じ、パーティの維持費として使用するものです。別途、個人で利用目的のある金銭は省いて下さい」


「…いつも以上に堅い……もう少し砕いてもいいだろうに…何処の会社だよ…」


「そう言う訳にはいきません!夜神様の期待に応える…!これは私の最優先事項です!」


「はいはい、分かったから…けど、余り気負う必要はない。損な役回りだ。こんなのは適当なくらいで丁度良い」


ちゃり…


「…そうは言っても金は必要だろ。夜神は今日、どれくらい稼いだんだ?…因みに俺達は合わせて10万。シーアが実戦は久し振りと言うから肩慣らし程度だが…運良くアトラネアと遭遇できた。こいつの糸は高価な衣服の材料にもなる。悪くない獲物だ」


皆が杯を手に。酒を呷る一瞬の間隙に声を上げ。興味なさ気、やる気もなさ気の男を見て、どこからともなく取り出した巾着袋。その口から覗く、然程多くもない硬貨は全てが眩い輝きを放ち。金貨十枚。そして一目で学ぶ価値換算。他、夜神の知らない硬貨の種類は下に銀貨、銅貨、銭貨。上に白金貨、聖金貨と続き。

未だそれが偉業であるか、そうでないかを知らない男に対し胸を張って披露する。聞くに堪えない武勇伝。それを、右から左へ聞き流す。


「へぇ、凄いじゃないか。この調子で明日も頑張れよ」


「あぁ、任せてくれ…じゃなくて!お前達はどれくらい稼いできたんだ!迷宮じゃ鉢合わせなかったが…依頼でも受けたのか?」


或いは、嫌味の一つでも言うつもりだったのか。まるで相手にもされず毒気を抜かれ、再び平坦な声で投げ掛ける。レインの声に答えたのは、今日と言う日を共にした薄紅髪の同行者だった。


「…あたし達は今日、迷宮には行ってない。そもそも、あんな広い迷宮の中で鉢合うとか、そうそうある訳ないでしょ。依頼も受けてないから戦果は無しよ」


「夜神様、それは本当ですか?」


「あぁ、昼に起きて飯を食った後はこの街の観光だ。とは言え、広くて全部は見て回れなかったが…色々と悪くない一日だった」


「お前…働いてないのに何でそんな満足気なんだよ」


「あんたはいちいち煩いのよ…今日の分も明日に纏めて稼いでくれば問題ないでしょ?」


「ふふっ…夜神様らしいですね。勿論構いません。ですが…私を置いて、と言うのは少し寂しいです。…私も、夜神様と一緒に街を巡るのを楽しみにしていたのですが…」


最早取り繕う必要もなく。何が悪いと食って掛かる。シャラは鋭く切り返し、夜神が事の次第を掻い摘むと、女はその言葉を聞き逃さずに。

あくせく魔物を狩る一方で、街の散策とは思いもよらず。此度先んじられた羨望を滲ませ、レイシアはあざとく視線を落とした。


「…はぁ…すぐにここを発つ訳じゃない。それに、まだ行ってみたい所も残っている。…次の機会でいいなら勝手に付いてくればいい」


「それは約束、ですか?」


「……………あぁ、約束だ。この街を発つ前日くらいでいいだろ。…ほんと抜け目のない女だ」


しかしていつ何処で。あしらい言葉に食らい付き、言質を取って合意を交わす。

これが男にとって、意味あるものだと知ったのは旅立ちの日の事。悪夢に魘され駆ける女を受け止めこう言った。


『捨て置くつもりなら…そう決め打つ憂いが何に起因するものか…お前は俺に知らなくていいと言ったが…俺は何があっても自ら交わした約束は違えない。改めて…束の間、異世界の案内役をお願いしよう』


その理由は皆目見当も付かず。しかし一言一句を覚えている。であれば。これを逆手に取った計略も、彼女にとっては造作なく。その余りに露骨な誘い文句と男の反応に、二人は暫し顔を見合わせる。

そして約束の意味も知らぬまま。今日も明日も明後日も。陽の当たる街を歩きたい。

レイシアに倣って声を上げ、レインを制し先んじたのは、躊躇いも、遠慮も捨てたこの女。


「柊様…!あたしも…!」


「お前はさっきまで俺と街を巡ってただろ。…それに、暫くは一緒に行動するんだ。機会があればで我慢しろ。ったく…ほんと何やってんだか…」


「………はい…」


「それなら…シーア!良ければ俺とも一緒に街を見て回らないか。来た時は余り見ている時間も無くて…出来たら案内を頼みたい」


「ふふっ…はい。でしたら後日、私達も暇を取って街を巡りましょう」


「本当かっ!?よし…!そうと決まれば稼いでおかないとな。欲しい物があったら何でも言ってくれ!」


続く言葉と了承に、まだ胸に刺さる棘はなく。転じる立場と玉砕に、嫉み妬んで眉を下げ。

しかし女にはもう、取り繕う気などありはせず。

これがシャラであると見せつけるように。いじけて見せ、そして不機嫌さを隠しもせずに声を上げて魅せる。


「あんた…露骨過ぎ。少しは柊様を見習ったら?」


「それはどういう意味だ。…俺はシーアの喜ぶ顔がみたいだけだ」


「結果じゃなくて過程の話よ。女はさり気ない優しさに惹かれるの」


「…シャラ、饒舌なのは結構ですが、まるで夜神様みたいな言い方ですね。この数時間に一体何があったのか…興味が尽きません」


「…お前まで混ざってどうすんだ…。はぁ…飯も食ったし俺はもう宿に戻る。明日はちゃんと稼いでくるから安心しろ。…シャラ、日の出と同時に街を出る。遅れるなよ。お前がいなきゃ俺は迷宮が何処にあるかも知らないんだ」


そうして、繰り広げられる戦いの舞台に降臨せしは銀髪の悪女。

こちらは打って変わって智謀を巡らせ、手段を選ばず取り繕い、逸る気持ちを押さえつけ。愛する男の模倣を見せつけられては黙ってられずに口を出す。その茶番、見るに堪えずと立ち上がる。

三人を置き去りに、一人席を立つ男を見ては何をやっているのかと。女二人、顔を見合わせそそくさと。一行は男を追いかけるように冒険者ギルドを後にしたのだった。


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