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夜のアリカと銀の星  作者: k...
第二章 星降る夜の再会 前編
35/50

33.一瞬の別離

がたがらがたがら…


「夜神様、取り敢えずは宿を探すという事で宜しいですか?」


「あぁ。存外に時間を無駄にしたからな。街を見る暇もない…観光はまた明日か。…取り敢えず宿を取ったら飯を食いに出るとしよう」


「宿なら俺が泊まった所はなかなか良かったぞ。値段の割に部屋はそう悪くなかったし、直ぐ近くには露店が軒を連ねる通りもある。飲食が出来る店となると少し歩くが…夜だからと言って見るものが全く無いわけじゃない。散歩には丁度良いだろう」


「…他に意見が無いなら俺はそこで構わない」


「あたしは柊様がいいなら」


「ではレイン、横に来て案内をお願いします」


目的を問うレイシアの言葉に挙がる意見を静かに待ち。これ以上は無いと頷く。

呼ばれ、隣へ移る男に視線を流し、二度目の対面に何を話すべきか。

愛されたい訳じゃない。使い潰されても構わない。ただ気に入られたいと。たった一度、その力を振るい叶えてほしい復讐の為。


「柊様…」


「…ん?」


「宿の部屋はどうするんですか?」


「……それについてはお前から言ってくれ。男女別、俺はレインとで構わない。あの女はきっと俺と同じ部屋にと言い出すだろうが…聞かなくていい」


(…それって…柊様はレイシア王女をまだ抱いてないってこと…?介添え人として、城では同室だったと聞いたけど…彼女の性格を考えれば寧ろ自分から迫ってもおかしくはない。あれ程の美貌に迫られて拒む事なんて…)


「分かりました。それで…あの…」


「他にも何かあるのか?」


沈黙を避けるように言葉を紡ぎ、予期せぬ手応えに眉を動かし胸裏に巡る。

女の想いを知り、男の気遣いを知り、そして今を計るべく。情愛故にその身を重ねているのだろうかと。もしそうであるなら取り入る相手が増えると同義。しかしそうでないのなら、より深く、懐へと至れるのではないか。

出会いから僅かに数日。それも、圧倒的な力に魅せられては些末な事。ただ淡々と。それでいい。女は意を決し問いかけた。


「いえ…夕食の後、何か予定はありますか?」


「部屋に戻ってこれの続きを読んだらさっさと寝るさ。明日からは暫く自由行動だ。お前も好きにするといい」


「ではっ!後ほどお部屋に伺ってもいいですか?」


「…っ!おいおい…近い」


「す…すいません…」


「…まぁ、殺伐とした面してるよりかは幾分ましだな。それで…あいつに関して何か話があるなら外に出ても構わないが」


「あ、いえ…柊様を煩わせる訳には…部屋の方で大丈夫です」


前のめり。そして恥ずかしさに頬を染め。意外な行動に驚きを見せる男は突如視界を占領する女の顔にふと思う。…悪くない。しかし、その感覚もすぐに消え。過ぎるのは、憎たらしい狐の精霊と、愛らしい青髪の女だった。


「夜神様、着きました」


「あぁ…それじゃ俺は馬車を預けてくるから後は頼む」


「はい。………レイン、あんたも柊様に付いていって」


「いや、付いて行けって…馬車を預けに行くくらいあいつ一人でも出来るだろ」


「…あんた、空気くらい読んだら?」


「…ちっ…分かったよ」


そうこうしている内に目的地へと辿り着き、足早に屋内へ向かうレイシアの背を見送る。

残った男を睨め付け、追いやり。それは誰にとっても都合の良い、一瞬の別離だった。


「シーア」


「丁度良いところに…部屋割りですが、シャラもレインと同室は嫌ですよね?三部屋借りて私が夜神様と。後は二人で一部屋ずつ…」


「…悪いけど、これに関しては柊様から念を押されてるから勝手をされるのは困るわ」


「それってもしかして…」


「えぇ、あんたはあたしと。柊様は別室よ。それと…少し頼みたい事があるんだけど…」


さも当たり前のように、睦み合う夜に想いを馳せ。一人浮かれるレイシアに痛撃を与える。そも、夜神は何故これを彼女に託したのか…。

語られぬ真意を残し、間も無く一行が足を踏み入れたのは、縁日さながらの賑わいを見せる露店通りの一角だった。


「いらっしゃい!見てくだけでもどうだい!」


「そっちの串焼き二本追加ー!」


「あいよっ!」


「兄ちゃん姉ちゃん!今日は安くしとくよ!」



「凄いな…王都とはまた違った雰囲気だが…悪くない…」


「賑やかだろ。…まぁこの辺りの食い物は…良くも悪くもと言った感じだったけどな」


喧騒の中に在っては夢見心地に現とつかず。目に映る全てが色濃く滲む。

夕闇を裂く魔光の灯りが人影と混じり合い。食欲を唆る香ばしい匂いが鼻を刺激すると、最早レインの言葉など右から左もいいところ。


「…夜神様、ここフェルメースは中央広場を基点に区分けされ、方々様々な店が軒を連ねています。武器や防具は勿論、道具や魔道具、果ては希少な素材まで。集まる物の質や量で言えば王都を上回ります」


「そして、これを支えているのが地下迷宮の存在。冒険者達の狩る素材は商会連合が運営するオークションに掛けられ、様々な物が国境を超えて行き来します」


教訓に頃合いを見計らい。街の特質を説明する二人の言葉に耳を傾け、繁栄の裏に積み重なる犠牲を思う。

命を賭ける者がいる一方で、粛々と金を増やす者がいる。理不尽極まる世界の中で、夢を掴むは一握り。夜神はそれを、静かに呟いた。


「なる程…命が安くなりそうな街だな」


「それはどういう意味だ?」


「…お前…見掛けによらず結構頭悪いよな。そんな真剣な顔で分かりきった事聞くなよ」


「おまっ…!」


「ふっ…」


「ふふっ…今のはレインが悪いです。それにしても…」


「お前もそんな顔で笑うんだな」


「これはその!…レイン!あんたのせいで柊様に笑われたでしょ!」


「なっ!?俺は関係ないだろっ!寧ろ被害者だ!」


「………仲間…か…」


呟きを拾い、返す言葉と澄んだ瞳に向かい合い。口を衝く少女の笑みに視線を移す。

揶揄する女の姿と、狼狽える青年の叫び。ぴくりと揺れた手を見つめると、過去の残滓が脳裏を過ぎる。

いつしか喧騒は背に沈み、通りの色合いさえ落ち着きを取り戻した頃。風雅な建物の並ぶ先に見えたのは、極々ありふれた一軒の店だった。

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