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夜のアリカと銀の星  作者: k...
第二章 星降る夜の再会 前編
34/49

32.同道の終わり

そして。

これは、先日の夜警における一幕にて。


『…それで一体…話とは何ですか?』


期せずして訪れた二人だけの時間。叶わぬなら都合が良いと。男達の寝息を聞き、早々に本題を切り出すレイシアの問いに、シャラは短くこう答えた。


『…単刀直入に言うわ。レイシア第一王女、あたしは柊様の全てを知っている』


『…………』


『…記憶を失っている事。やり直し。覇天核…そして、あんたが柊様を慕っている事も』


その言葉に凍りつき。浮かぶ疑問符より先に、思慮を巡らせ思案する。穏やかではない選択肢。

何の事だと言ってやり過ごす。或いは力によって制するか。最早言い逃れも出来ない程に核心を突く、シャラの言葉は脅しと捉えて然るべき。なら、後者を取って然るべき。


ちゃき…


『何故…貴方がそれを…』


(…まさか…シャーリーが…)


『…落ち着いて。この前も言ったけど、あたしはどちらかと言えばあんたの味方。これをあの人に告げるような事はしないし、あんたの邪魔をするつもりもない』


『……………』


武器に手を掛け、ここでようやく口を開いて意図を問う。それら全てを知っているのは極一部。そして、国の命運を握ると知って他言する者に、心当たりは一人だけ。

今はもう、何を求めているのかも。何を想っているのかさえも分かりはしない。けれど、人の願いを踏み躙るような、悪辣な真似をするとも思えない。

レイシアは続くシャラの言葉に沈黙を返し、先を促した。


『あたしにも成し遂げたい事がある…その為に柊様に近付いたことは認めるけど、あたしの目的は寵愛ではなく恩寵。ただの一度…力を貸してくれたらそれで十分…』


『…それを、夜神様には話したのですか?』


『この旅に同行する大義名分は。けど、あたしの事情に関してはほんの触り程度。…今はまだ力を貸してほしいと懇願したところで、聞き流される事くらい理解しているつもりよ』


『…なるほど。私にそれらを明かすのは脅しではなく、協力を得る為、ですね』


そして間も無く解を得て。辿り着く答えに知らず胸を撫で下ろす。或いはここで…。そう思っていたレイシアにとっては僥倖。いや、この先シャラの言葉を聞けば納得して余りある提案と言えるだろう。


『御明察。そもそもあたしが全てを知ってる時点であんたにとっては値千金。加えて目的を知った今、あたしの行動に目を光らせる事もなく、気を揉む事もない』


『…具体的には?』


『まだ出会って間も無いあたしの心象を良くするのに多少気を遣ってくれたらそれでいいわ。あたしもあんたが困った時には助け舟を出す』


『…分かりました。それくらいなら寧ろ私の方が得るものは多いですし、断る理由もありません。…けど…もし夜神様を欲する事があれば…容赦はしない』


そうして、互いに利害の一致を以て協力関係を築くに至る。

男の本質を聞けばこそ。蹴落とし、いがみ合っては面倒事と捉えられ、捨て置かれるのは明白と。暗黙の了解にかまけ見誤る。立ち位置は同じと勝手に思い込んでいた。


『今は少し…傷付けられたら困るものがある。大切に扱うと約束したからな』


先んじられていると知った瞬間。焦燥感に駆られ、苛立ち、妬む。


「…何でもない」


これから先、幾つもの積み重ねを経て尚、その気持ちは変わる事なく在れるのだろうか。


「その…シャラ様、ダーカスが盗賊で間違いないと言うのは何か根拠があっての発言でしょうか?」


幸いにも気を紛らわせるには丁度良く。ちらと窺う男は暇を持て余すように眠りに落ちている。

皆が昼食の用意をする裏で。別の光景を見ていた女の語りが終わる頃。城壁を視界に捉えたラインフィルは、すぐ横で目を閉じる男に再び声を掛けた。


「…街が見えてきました」


「…ん…ぅ……随分と、でかい街だな…」


「それはもう。ルーウィン王国における主要都市の一つにして物流の要。王都から程近い事もあって人の流入も多く、此処を過ぎると次の大きな街は暫くありません。補給や必要な物はなるべく揃えていくのがよろしいかと」


「……………」


赤く染まる夕陽を眺め程近い。二日を要する道程が程近いとはこれ如何に。何をする事もなく本を読み、昼寝をして時間を潰す。苦痛とも言える道程が程近い…。であれば、次の街まで一体どれ程掛かると言うのか。

馬車の隅に積まれた書物を数え、これの増冊を決意すると共に。数十分後、ようやく辿り着いた商業都市フェルメースの門を潜った一行は、別れを前に言葉を交わしていた。


「…この度は大変お世話になりました」


「レイン様、それに皆さんも。本当に助かりました。出来れば帰りの護衛をお願いしたいところではありますが…」


「すまない…それは多分あいつが同意しないだろう」


「そう…ですが、私達も数日はこの街に滞在しておりますので…」


「あぁ、街で見掛けたら声を掛けさせてもらうよ。…お前達はこれからどうするんだ?」


「僕達は元々この街を拠点にしている冒険者だから特に何も変わらないです」


「…何とは言わないですけど…刺激的な旅の後に待ってるのが薬草採集や失せ物探しだと思うと…やる気が出ないですね」


「今回は良い教訓になった。地道に依頼をこなしていくとしよう。…それと、依頼の報告ついでに盗賊達の事は俺達で話をしておくから、レインさん達は宿を取って休んでくれ」


その場に居ない男を探し、深々と腰を折る執事と、答えを知りながら口にする令嬢。現実を受け入れ、淡々と言葉を返すルドインに、囚われたままのセシル。そして…先を見据え、憧れに手を伸ばすガジェル。


「悪いな、甘えさせてもらう」


「ふふっ…頑張って下さい」


「次は騙されない事ね」


こうしてただ一人、あの男にだけは言葉を返さぬまま。一行は宿を求め街へと繰り出した。


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